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25.祠の他には、なにもない場所。

 いよいよ風笛の神殿には上ってきたのですが、

さあ、どんな神殿なんでしょうね。

。いよいよ核心が近づいてきたぞっと。

頑張れよ、純子。


 かろうじて、自己紹介だけは済ませたものの、それ以降、緊張感を孕んだ重苦しい沈黙が車内を支配した。純子も口を開くことが出来ない。タンヌですら、黙り込んでいた。

(我慢……できない、ぞ。爆発する……)緊張感に純子が耐えきれないと思った時、違和感に気がついた。

 馬車の外、風の音がしていた。カーテンが揺れ動く。そして突然、強い風が車内に吹き込んできた。大きくカーテンがはためいた。

「風笛の神殿に着きましたわ」

 女官達が嬉しそうな声を上げた。手に行灯を取ると馬車を降りていく。純子もその後に続いた。シニンが下車するのをサンチュが手伝っている。

 外は真っ暗だった。灯りは女官達が手にする行灯が動いているだけ。風が大きく息づかいしていた。風の息が大きくなると、髪やドレスが吹き飛びそうになる。夜になっているだけ、風が冷たい。純子は身を震わせた。

「昼間でしたら、ここから大池が見えるのですけど。とても綺麗な湖なんです」

 純子は目をこらして言われた方を見てみたが、残念ながら真っ暗で何も見えなかった。

「お昼間にでもまたご案内いたしますわ」

 ヘカテミスの手が純子を引っ張る。その先には小さな祠があった。女官達やヘカテミスがお祈りを捧げている。

「これは……?」サンチュの問いに、女官が答えた。

「これは女神、キュベレー様の祠です」


(ちっちぇえ!)それが純子の持った祠への第一印象。

 高さは一メートルぐらい。石で出来ていて、ちょっとした屋根まで付いている。表面には女神と思われる像が彫ってあったようだが、風や一緒に飛んでくる砂に長い間に削り取られたのか、はっきりとはわからない。

 祠としてみれば、決して小さなものではないだろう。だが純子にしてみれば、今までさんざん風笛の神殿と言われていたのに、それがこの祠では落差が著しい。

(やっぱり、女神なんていないんだ。単に宗教っていうか信仰上のことだよね。ヘカちゃんの力には驚いたけど、あれもマジックかトリックかなんかでちゃんとネタがあるんだ)

『いい? ジュンコ、そんなこと言ってて。女神様の罰が当たるじゃないの』

 タンヌがそう言った途端に、地面が揺れた。純子が硬直し、サンチュは悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。

『ほら、ほら、来たわ! 女神様のジュンコへの報復よ』

 しかし、神官達は平然と動き回っている。誰も気にもしていないようだ。反応の無さに返って純子達は驚く。

「ここではあのような揺れはしょっちゅうあるのです。一日に何回か、揺れるものですから、すっかり慣れてしまって」

 女官が笑顔で言った。

(ほら、タンヌ。女神の罰だなんてこと、ないのよ)

『ふん、ジュンコだって一瞬、そうじゃないかって思ったくせに』

(あ、あれ、そうだっけ? やだなー、変なとこばかり見てんだ、あんた)

 タンヌと話している最中に手を引かれた。気がつくと、ヘカテミスが祠を指差して、お祈りを捧げるように言う。

「女神は豊穣を約束してくれます。ほら、タンヌみたいにおっきなおっぱいしてるでしょう?」

 ヘカテミスの言うとおり、祠の像の長い髪と胸のふくらみは確認できた。その前に跪いてサンチュが祈った。

(きっと胸のことお願いしてるだろうなあ……。あたしは何を祈ろう?)

 純子は祠の前に進み出た。大きく柏手を二回。

(どうか、ここでの願いを果たさせてください。どんな願いか、まだわかんないですけど)

 ふと気がつくと、周りの冷たい視線を集めていた。

「あ、あの、何か?」

「タンヌ、拍手はいらないよお」ヘカテミスが呟いた。

『なんでジュンコは拍手なんかするの? しかも調子っぱずれの』

(あたしの世界ではあれでいいんだけどなあ。しまった、タンヌの世界だってこと、忘れてた)

「アハハ……。で、でも、これが女神様の神殿なんですか。小さいですよねえ」

 照れ隠しで笑いながら、純子が言うと、再び冷たい視線。しかも今度は含み笑いまで入っていた。

「タンヌ、これは女神様の祠。風笛の神殿じゃないよ」

 ヘカテミスが再び呟いた。

「そ、そうなんですか。やっぱり……アハハ」

(わかんねえよ、そんなこと!)暗闇の中、顔がほてるのを感じた純子であった。


 よく聞いてみれば、ここを出発する前にこの祠に道中の無事をお祈りし、帰って来た時にはその報告と無事の帰還に感謝を捧げていくのだそうだ。

(それならそれって先に言って欲しいのよね)

「ボクも見当はずれのお願い、しちゃった。へへへへ」

 サンチュもてれ笑い。

『きっと胸のことよね』

(あたしもそう思った)

 一行は再び馬車に乗り込んだ。

「あともう少しです」行灯は手に持ったままで女官が言う。

(でもどこだろう。そんなおっきな神殿があるのならシルエットぐらい見えてもいいのに)

 純子の頭の中では、ギリシャのパルテノン神殿のような想像があった。しかし、そんなものはまったく見えず、馬車は近くの山陰に近寄っていく。そしてそこには洞穴が口を開けていた。

「あ……」

 純子が見つめる中、馬車は洞穴に入っていく。洞穴は馬車より少し大きいぐらいだろうか。行灯の明かりが壁面を照らし出す。岩だらけの壁。そこに馬車や馬達の影が揺らめいて動く。

 しばらく進んだ後、馬車は止まった。洞穴の中のちょっとした広場。でもそこはただ広いだけで何も無い。

「今度こそ、ここが神殿なの? ヘカちゃん」

 馬車を降りた純子がヘカテミスに訊く。ヘカテミスはこくんと頷いた。

「でも、何にもないわよ。普通、神殿って言ったら女神様の像だとか、お祈りする場所とかあるんじゃないの?」サンチュが言った。

「ここはちょっと空気の匂いが違うな。何かありそうな気がする」これはシニン。

「匂い?」

 追捕師が馬を下りてやってきた。

「ここが名高き風笛の神殿かな? えらく殺風景じゃな」顔には笑いが浮かんでいる。

 追捕師の馬の手綱を女官が手に取る。馬車の馬達も床にある鉄の輪に結わいつけている。

「ではヘカテミス様、ご用意できました」

 女官の言葉にヘカテミスは頷いた。そして印を結び、両手を伸ばすと指の宝石から光が一本、放たれた。また地面が揺れた。

 しかし、今度は揺れが収まらない。ずっと細かく揺れ続いている。

『なに、何? これは』

 タンヌがうろたえている。それはサンチュも同じこと。でも純子は気がついていた。壁が上っている。

(違う。床が沈んでいるんだ。これ……エレベータだ。特大の)

 ゆっくりと、ゆっくりと地の底へ沈んでいく床。永遠に続くのかと思わせる、その動きもやがて止まった。女官は行灯の明かりを消した。あたりは真っ暗になった。

 突然、サンチュが小さな悲鳴を上げる。そして純子は見慣れたものを目にした。


 実は二正面作戦やってて、時間がないのが辛いおます。

でもまあ、好きでやってるんだからしょうがないけど。

では。

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