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23.山上への、道。

次回は第4章だと言った直後に、書き漏れを発見。

急遽第23話を追加するハメになりました。申し訳ありません。

というわけで、頑張れ、純子。

今日はヘカテミスといちゃいちゃかい?


「すごい、すごーい。ヘカテミス。もの凄い武器持ってるのね」

 純子は歩くヘカテミスに話しかけた。

「これ、敬称ぐらいつけよ。恐れ多くも我は神官であるぞ」

「敬称……? ヘカちゃんとか」

 ヘカテミスはずっこけた。

「大丈夫? ヘカちゃん。ここ、小石が多いから気をつけないと躓くよ」

「裸足のお前に言われる……。まあよい、おバカさんに注意した我が不注意であった。我が心して進ぜよう」

「何ヘカちゃん、怒ってるんだろ?」

『いや、ジュンコ。あたしゃあわかるような気がするよ。ちょっとヘカちゃんはくだけきってない? ジュンコって敬語とか苦手でしょ?』

(タンヌだってそうじゃないの?)

 ヘカテミスの気も知らずに純子はついて歩いて行く。

「ところでその武器、本当にすごいわね。どうやって作ったの?」

「我が作ったのではない。女神の賜れたものである」

 そう言って、ヘカテミスは両手を見せた。その指全てに銀の指輪。小さく光る宝石がたくさんはめ込んである。

「念じて印を結ぶことで力が顕示されるのだ。そういうものである」

「ふーん。どういう原理で動いてるの?」

 純子の質問でヘカテミスは立ち止まった。ちょっと赤い顔になっている

「し、知らぬ。そういうものなのだ。女神の威光を疑うでない。ヒック」

 ヘカテミスと純子は倒れている男の所へ向かった。女官が棒で押さえつけている。


「その者! このような狼藉、何者の差し金じゃ! 全て吐くがよい!」

 男はヘカテミスを見上げる。

「あたしを狙ったんでしょ。剣断……殿の指示よね?」

 そう言う純子には小さく笑い声をあげた。

「剣断など知らぬ。それに我らの目的はお前ではないわ。我らの目的は……」

 純子は青ざめた。男の返事が予想と違っていたのだ。ヘカテミスが男を掴む。

「言え! 目的は何だ。誰の手配だ?」

 男は返事をしない。その口許からは一筋の赤い糸が垂れた。それに気がついた女官が慌てて男の脈を探る。やがて、首を左右に振った。

「毒を飲んだか。ふん、口を割る前に自分から命を絶つとは、手強いな。ヒック」

 ヘカテミスが言った。

『ジュンコが目的じゃないって、なら一体何が目的なの?』

 タンヌが落ち着かない声で言う。

(わかんないわよ。そんなの)純子も答えながら首をひねった。(何を目的で襲ったんだろう?)

「ういっく。ちぇっ、酔いが、酔いが醒めた。力を、力を使いきった」

 ヘカテミスは奇妙な声を上げて倒れた。

「誰そ、を持て……」

 慌てて女官が駆け寄った。ヘカテミスは意識を失っているようだ。女官は抱きかかえると、心配そうな純子に向かって、言う。

「心配いりませぬわ。いつものことでございます。すぐに目を覚ましますから」

「どうしたんですか? 病気かなんか? 酔うとかきとかって……」

「それは――」

 女官が説明しようとしたとき、ヘカテミスは目を開けた。きょろきょろと周りを伺う。そして純子に目をとめると、急にその目に涙を浮かべた。そして、大声で泣き出した。

 泣きながら、女官の手を払うと純子にしがみつく。そしてその胸に顔を押し当てた。

「な、なんですか、これ?」

 しがみつかれて、純子は狼狽した。

「これがもう一人の……本当のヘカテミス様ですわ」

「え?」


 一行は馬車に戻った。純子はヘカテミスを抱きながら、馬車に乗り込む。あの襲撃にもかかわらず、馬車も馬たちも問題はなさそうだった。再び馬車は動き出した。その後ろには追捕師も付いてくる。

「もう一人のヘカテミスってどういうことなんですか?」純子は女官に訊いた。

「ヘカテミス様の家系――ヘカウト家は代々神官の血統なのです。ヘカテミス様はその血を受け継いでいて、女神様からの御宣託を受け取っておられるのですが、その、まだお若いせいもあって、そのためには、御神酒おみきの力を借りねばならないのです」

「おみきって、神様のお酒の御神酒?」

 女官は頷いた。この会話の間、ヘカテミスは純子の胸に顔を埋めていた。鼻や頬で膨らみを擦りあげ、その先端を生地越しになめたりする。

(ひ、ひええ。か、感じる……)背筋を這い回る感覚に純子は怖じける。

『あたしだって感じてるんだから。でも、気持ちいいんだけどなー』タンヌはうっとりとした顔で言った。

(ば、ばか言ってるじゃないわよ。あんたと一緒にしないでよー)純子は泣き出したい気持ちで思った。

「とはいえ、こんな少女で御神酒というのは辛いのでしょう。たくさん失敗をなさっておいででした」

「失敗……?」何のことだろうと純子は訊いた。

「御宣託を受け取る前に眠りこけてしまったり、時には祭壇に反吐を出されてしまったこともございます」

(うわっ)純子は思った。(確かにこんな小学生が慣れないお酒を無理して飲めば、そうなるわよねえ)

 自分の胸で甘えるヘカテミスを見て、そう思う。

「御神酒が調子よく入って、女神様が降りてくる時はよいのですが、なかなか降りていらっしゃらない時にはついつい深酒してしまうようです。そんなときには体調に合わせた飲み方ができるといいのですが」

「いつしか、付いた渾名が酔いどれ神官ということさ」シニンが言った。

「仕事柄、仕方がないんでしょうけど」サンチュも眉をひそめる。

「わかってはいるのですが、年端もいかないヘカテミス様が頭が痛いとか気持ちが悪いとおっしゃられる様子を見ると、もう哀れでお可哀想で……」女官は涙を浮かべている。

「で、もう一人のヘカテミスというのは?」話の発端をすっかり忘れていた純子が聞き直した。

「あ、そうでしたね。御神酒が切れた素面のヘカテミス様がこのような、泣き虫で甘えっ子でだだっ子で我が儘し放題のヘカテミス様でございます」

 純子は胸元で寝息を立て始めたヘカテミスを見た。泣き疲れて寝てしまったようだ。

「それから御神酒を飲んで、女神様に取り憑かれたのが、もう一人のヘカテミス様です。先ほどまでのように女神様から授かった不思議な力も使えますし、強気で高飛車でだだっ子で我が儘し放題で……」

『後の方は同じじゃんか』タンヌが呟いた。

「そう言えば、その女神というのは風笛の神殿という所にいるわけなんですよね?」

 女官は頷く。

「それはどこなんでしょうか?」


 馬車が登っていく西の高い山。それがイデーア・マーテル山。その山の端には夕日がかかり始めていた。横を流れる川の源流。そこに風笛の神殿があるそうだ。

「なぜ風笛というんですか?」

「山の頂上で風が強くて、唸りの音が笛を吹いているように鳴くときがあるのです。それからいつしか、風笛の神殿と呼ばれるようになりました」

 純子は何度もヘカテミスを下ろそうとした。がその都度しがみつかれて結局抱っこしている。

(子泣き爺じゃなくて、子泣き神官か……)

「なんだか、女神に会うっていうのが不安なんだけどなあ……」

 純子は奇妙な予感に身を震わせた。


 やっと次回、第4章に入ります。

舞台を風笛の神殿に移します。

そこでは神官一家の愛憎の渦!(笑

では、おたのしじみ、いや、お楽しみに。

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