21.救いの神は、小学生?。
ああ、火あぶりの刑となった純子に活路はあるのか?
というところでしたね。白馬の騎士ならぬ、馬車の少女が登場です。
まあ、一癖も二癖もありそうですが、
さあ、今宵も頑張れよ。純子。
万事休すという言葉がふさわしい状況となっていた。純子の足元では衛士が薪に松明の火をつけようとやっきになっている。焦げ臭い匂い。燻った煙が立ち上ってくる。
煙にむせて、純子は咳き込んだ。
「ちくしょう、あのやろー、死んだら祟ってやる。生きてる間は呪ってやる」
『生きてる間はもっと賢いことに使おうよ、ジュンコ。なんとか脱出できない?』
そうタンヌに言われて、純子は自分の身体を調べた。頑丈そうな鎖が手足、腹を取り巻いている。簡単には取れそうも無い。
(引田天功だったら簡単に脱出できるのかも? ってそんなこと言ってる場合じゃない)
『誰よ、それ……って訊いてる場合じゃないよね』
そのとおりだった。薪からはもうもうと煙が上がってきていた。どうやら、足元の薪は乾ききっていないらしい。燃え上がる前に燻っている。純子は何度も咳き込んだ。目からは涙もあふれている。
「ちょ、ちょっと、これじゃあ、炙られる前に窒息死だ! 燻製になっちまう」
『どっちにしても死ぬことには変わりない、とか』
(冷静に突っ込んでんじゃねえ!)
衛士も憐憫の情を感じたのか、よく燃えるようにと薪の山をかき混ぜている。それが返って真っ黒な煙を大量に発生させてしまった。純子の服も顔も煤で真っ黒けだ。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」サンチュの声が聞こえる。
でもサンチュもヘリシェファも衛士に押さえつけられているようだ。助けにこられる様子は無い。
(こんな、こんな死に方なんて。……なに、あれ?)
『ジュンコ、どうしたの? ジュンコ』
純子の片目が捕らえたもの。それは馬。静かに広場に入ってくる。
(何で馬が……え、もう一頭?)
煙をとおして見えたものは、4頭の馬。そしてそれに引っ張られる大型の車。ようやく衛士もその馬車に気がついたのか、取り巻き始めている。しかし、誰もその動きをとめようとはしない。それどころか、衛士に誘導されるよう馬車は純子の近くまでやってくる。
その頃にはようやく火の勢いが増してきていた。煙が薄くなった分、熱さが足元から立ち上ってくる。
『あの馬車は――あっちい! いったい誰が――足が熱いよお!』
だが純子はタンヌの悲鳴も耳には入ってこなかった。その目は馬車を追い続けている。
止まった馬車からは幾人もの女性達が降りてきた。いずれも白い長いドレス。その手には薙刀のような棒のようなものを持っている。そして馬車を取り巻くような配置を取った。
立ち上る熱気で空気が揺らめいてよく見えない。純子は何度も何度も瞬きをしてその様子をよく見ようとしていた。
(今度、降りてきたのは……そんな、そんなのってあるの?)
純子が驚愕の思いで見つめる中、甲高い声が響いた。
「我は風笛の神官、ヘカテミス・ヘカウトなり。女神キュベレーの名にて命ぜる。この者を我に引き渡せ!」
その声の持ち主は最後に馬車を降りた、他の女性達の半分ほどの背丈。
(ええっ? 子供……? しかも小学生? おかっぱ頭だし)
その頭には銀の飾りがついている。サンダルのような靴にも、足首、手首にも銀色のアクセサリが輝いていた。
「神官ヘカテミス様!」出てきたのは、クリティア。
「この者は女王の命に従わなかったばかりか、反抗し、反逆を意図した者でございます。このような者をお許しになったのでは示しがつきませぬ」
「だまれっ!」
少女の声に、剣断は口を閉ざす。
「剣断! そのほうは女神キュベレーの命には従わぬと申すのかっ!」
「い、いえ、けっしてそのようなことは……」
クリティアは引き下がった。タンヌに一瞬、憎憎しげな視線をぶつけて。
「異議あるものは他におるのか! 女神の命に従わぬものは前にでよっ!」
静まり返る広場。だがそこに純子の絶叫が響いた。
「何でもいいから、火を消して! お願い、もう我慢できない! じゃなきゃ、あたしのおしっこ、ぶちまけて消すからねっ!」
少女は純子を振り返った。その目は(なんと品性の無い女……)と言っていた。頭の中でもタンヌがぼやいていた。
『田舎娘でもイモ姉ちゃんでも我慢するけど、お漏らし女は勘弁して欲しいよ……』
ようやく足元の火は消された。そこからは燻った煙が大量に出て、純子はさらに真っ黒けになった。しかし顔を洗ったり着代える暇も無く、純子は馬車に押し込められた。
純子は慌ててサンチュ、シニン、ヘリシェファの三人を呼ぶ。しかし、いつの間にかヘリシェファは姿を消していた。とはいえ、探す時間も無く、サンチュとシニンの二人だけ、馬車に乗り込んだ。そして、女たちも馬車や馬に乗り込むと静かに動き出す。
衛士たちは取り巻いてみているだけ。クリティアの姿も見あたらない。馬車はゆっくりと広場を出て、お城を後にする。
(いったい、この人たちは何なの?)
そう思って見つめる純子の前に立ったのが、あの少女。
(見れば見るほど、子供なんだけど……)
そしてその少女が服の中から取り出したのは、小さな青色の蛇。そいつが純子の方を向いて、口から舌を出す。
「ひ、ひえええっ!」
「きゃあああ!」悲鳴を上げて、純子にしがみつくサンチュ。
その様子を見て、薄笑いを浮かべると少女は服の下に蛇を隠した。
「ふん。何が毒蛇で何が無害かもわからぬやつらよ」そう呟いて。
「あいつらがとことん抵抗するようであれば、この蛇どもを放ってやろうかと思っておったが、あんなに無抵抗だとは。残念であったことよ」
「ちょ、ちょっとちょっと。いったいあんた、誰なのよ?」
純子の質問に少女はむっとした顔をした。
「我を知らぬとは、いったいどこで生きてきたというのか。情けなや、あなあさましや。そちは我を知らぬと申せども、ならば女神キュベレーの名は知っておろうな」
純子はおずおずと首を横に振る。それを見た少女は泣き出した。
「なんと、なんと傲岸不遜であることよ。かような者を女神の名で助けねばならぬとはなんと無道であることか。その首、掻き切ってしんぜたいところよ」
「そ、そんなこといわれたって、知らないものは知らない……ね、サンチュも初耳よね?」
話を振られたサンチュは首をかしげると、言った。
「女神様の名前ぐらいは存じ上げております。お葬式のときに女神様の名前を唱えますから……お姉ちゃん、忘れちゃったの?」
(ほんとか? タンヌ、それは本当なのか?)
『そうだよ。女神キュベレー様にちゃんと案内されないと、冥界に行っちゃうからねー。ジュンコ、知らなかったっけ?』
(し、知るわけないじゃん!)そんな純子をよそに、シニンも言っていた。
「うん。風笛の神殿の主、キュベレーじゃな。そしてお前は蛇使いの酔いどれ神官、ヘカテミスか」
「ふん、酔いどれは余分だよ」
(何者だ、女神だの神官だのって、こいつらいったい何者だー!?)
やっとヘカテミス登場です。結構お気に入り。純子をくっちまうぐらいに活躍してくれるとうれしいなあ。
では。




