19.剣断の、裁定。
いやー、トラウマになってますね。
その原因が登場したのでは、パニックになっても当然かと。
さあ、今回も頑張れよ、純子。
「おい、起きろ!」
居丈高に脅迫するような声。と同時に蹴っ飛ばされた純子は目を覚ました。
(んもう、もうちょっと優しく起こしてよね……)寝ぼけた頭で考える。と、心臓が縮みあがった。既視感。こうやっていきなり起された直後、何があった?
「うわああっ!」
純子は飛び起きた。もうあんな目にはあいたくない。そして目にしたものは……。
「なんで、こんなにいっぱいいるんですか?」
広くはない牢屋の中。衛士が林立している。通路として人一人分の隙間を残して。
「おお、よかった。タンヌ、目を覚ましたか」
声をかけてきたのはヘリシェファ。サンチュを助け起している。
「何が、何があったんですか」サンチュも驚いている。
「剣断殿がくるとのことじゃ」追捕師はささやいた。
「剣断……殿が?」
前にも後ろにも衛士が立って、その手には剣を持っている。
『何かあったら、即座に刺し殺しましょうって感じよね』
タンヌの言うとおりだと思いながら、純子は待っていた。剣断の登場を。待ちすぎていらいらし始めた頃、やっと姿を見せた男。全身が黒の衣装。ぼさぼさの黒い髪。ヘリシェファより少し低いぐらいの背。そして顔立ちは整っているのに冷たい瞳。
「あっ!」
純子は思わず叫び声を上げた。慌てて口を手で押さえるけど、もう遅い。剣断は純子を見つめると、その唇に笑みを浮かべた。
(こいつは、こいつは――!)純子は蒼白になった。顔の前の両手が震えている。
『なに、ジュンコ、どうして知ってるの? こいつ、何者?』
頭の中のタンヌでさえ、パニクっているようだ。
「やあ、お嬢さんがた。元気そうで何よりだ。とはいっても、昨日会ったばかりだがね」
横を見れば、サンチュも青ざめている。
(あたしの目、あたしの目を奪った奴!)
『こいつなの? こいつなのね!』タンヌが怒りの表情で叫んだ。
思わず一歩踏み出そうとした純子を衛士が押さえつける。
「動くなっ! 動けば殺す」衛士の声。
「動くな、タンヌ。本当に殺されるぞ」
シニンの声がした。その声で純子はようやく思いとどまる。
「その方がいい。少しでも長生きしたいんならね」
そう言いながら、剣断は純子の近くに歩いてくる。両手は押さえられ、さらに剣で脅かされている。そんな純子であっても、剣断は手の届くところにはこない。
「さて、昨日の質問、覚えているかい? ここでもう一度訊こうか。弟はどこにいるのかな?」
純子はその質問に震え上がった。(トラウマだぜよっ!)
身体が動かない。首をやっとのことで左右に振る。だが純子の予測と違って、剣断はそれ以上のことはしてこなかった。
「相変わらず、覚えの悪い娘だなあ。そうか、今日は口もきけなくなってるんだ。なら仕方がない」
純子はその返事でほっとため息をついた。
「今度は妹のほうに聞くとするか。さあ、君の兄だか弟だかはどこにいる?」
「サンチュ!」
慌ててサンチュを見る。青ざめたサンチュも純子同様、衛士に押さえつけられていた。顔をそむけながら、サンチュは答える。
「知りません。ボクにはお姉ちゃんしかいません」
「おやおや、姉妹そろって強情だねえ……ん? もう少し、顔を見せてくれないか」
近寄ると、サンチュのあごに手を当てて、力ずくで自分のほうに向かせる。一瞬、剣断の顔に驚きの色が走った。
「これは……まさか、いや、そんなはずは……ん、そうか。それならば……」
驚きの表情がゆっくりと笑いに変わっていった。
「そうか。ではオレにも運が廻ってきたということか」
嘗めんばかりにサンチュの顔に近寄る剣断。サンチュは必死に身をよじって逃げようとするが、衛士に捕らえられていては動けない。
「や、止めて。止めてください……」
「剣断殿!」
ヘリシェファの声に我を取り戻したのか、剣断はサンチュから離れた。
「何だ、追捕師」
「この娘ら、知らないと言っております。開放なされてはいかがでしょうか?」
「開放?」
その言葉を聞いて、剣断の顔には笑いが出る。
「そうか、お前にはわからないのか。……いや、そういうものだな。それが資質の違い、ひいては出世の違いというやつか」
そう独り言を言うと、剣断は表情を引き締めた。
「上の娘には死罪。昼にて前庭で火刑に処する。残りのものはそれをたっぷりと見させろ。オレに逆らうと何が待っているのか、よく理解できるようにな。下の娘はその後で処分する」
「お、お待ちください!」
ヘリシェファが食い下がった。
「それは、いくらなんでもそれは惨すぎます。いかな罪をもって、そのような裁断をなさるのですか?」
「オレが判断し、実行する。それが全てだ」
純子は呆然と見つめていた。頭の中のタンヌですら、事態の推移が飲み込めないようだ。
「しかし、それでは民は納得しませぬ。納得のいく――」
「貴様、オレに逆らうつもりなのか?」
一瞬、追捕師の言葉が詰まった。
「し、しかしそれでは結局王家の――」
「こいつを捕まえろ。一切の役職を剥奪する。娘の火あぶりにまで閉じ込めておけ」
「け、剣断殿!」
追捕師の武器は衛士に取り上げられる。その間に剣断はさっさと牢屋を後にした。警護の衛士たちは残って純子達の見張りにつく。そして純子たちは呆然と顔を見合わせた。
「あの……結局、あたしはどうなるんですって?」純子が聞く。
「火あぶりの処刑だ。見せしめとして、みんなの前でやると言っていた」
『火あぶり! そんな熱いじゃない。熱すぎたら火傷しちゃうわよ!』
(いや、火傷じゃなくて、死ぬまで火の中……)純子の返事にタンヌは気絶した。
「ボクは、その後で処分というのは……」
サンチュは涙声。でもヘリシェファにもわからない。
「剣断殿が何を考えているのか、さっぱりわからない。何をするつもりなのやら……」
「いや、それよりもまずはタンヌを何とかしなければ。昼時となれば、あまり時間はない」
シニンはまだ冷静だった。しかしそれでも良い考えは浮かばない。
「シニン、何かいい道具とかないの?」(とはいっても、青い猫型ロボットじゃあるまいし)
「ない。モイルに連絡が取れれば、なにかしら手段はあるかもしれないが……)
(ああ、ケイタイとか無線とかある世界じゃないしなあ……)
「追捕師なら何とかして助けを……」
「すまん。もう追捕師ではなくなってしまった」
「ああ、もう役に立たない……」
純子はため息をついた。
「でも、さっきはありがとう。あたしを助けようとしてくれたのね」
ちょっとは見直したという瞳でヘリシェファを見つめる。
「ああ、こんな巨乳の少女を火あぶりだなんていうのは、あまりにもったいない」
「結局、そこかい!」
しまった、剣断についてちっとも書いてない。
次回で説明します。




