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18.タンヌ、まい、らう゛。

 今回はタンヌの思い出話。ってそんないいものかどうかは別にして。

ま、タンヌもいろいろあって、明るく今を楽しむようになったわけです。

という訳で、今回も頑張れ、純子。

『えっとねえ、まだ小さい頃の話だよ。ほら、家は墓守でしょ。葬式の時にね、お墓にはいっぱい人が来るんだけど、その中にね……』


 純子の剣幕に負けて、話し始めたタンヌ。その話をまとめると、こういうことのようだ。

 葬式の時、タンヌの母親は葬儀に付き切りになる。だから、家ではタンヌと幼いサンチュがお留守番。とはいえ、盗まれるほどのものがあるわけでもなく、ただ遠くからお葬式の様子を見ているぐらい。

 ある日、男の人が入ってきた。といっても、泥棒でもなく、葬儀に参列していた人が、

「疲れた、退屈した」ぐらいの理由で休みに来ただけのこと。

 だが、その男が退屈しのぎに、タンヌにたっぷりと「教育」していったのだ。しかも最後には「誰にもしゃべっちゃいけないよ」と幾らかお金を握らせたらしい。生まれて初めて稼いだお金に、タンヌはすっかり舞い上がってしまったそうだ。


(そんな、タンヌ。悪いことに決まってるじゃない)

『だからよ。話してはいけないことをした、悪いことをした、って感じ、スリルがあるじゃん。快感だよ』

 身に覚えが無くはない純子は黙って、続きを聞く。


 それからはタンヌの方が積極的になった。お金を持っていて暇そうな参列者をじっと見つめる。すると魚心あれば水心というか、幾人かはその視線に気がついて、「教育」をしていき、お金をくれた。そうやって、タンヌはすっかり「勉強」してしまい、それなりに稼ぐようになったそうな。密やかな噂が流れ、墓守の娘は極秘に人気者扱いされるようになった。


(あんたねえ、それで本番行為――)

『だーれが本番ですって? 触ったり触られたりはしたけど、そんなことはしてませんよ』

(え? あたしゃすっかり……)

『実はジュンコの妄想の方が、ほんとはスケベなんじゃないの? でもねえ、女の人に怒鳴り込まれたときには驚いたわよお。このまま殺されるかと思ったぐらい』

(そりゃそうよ。でどうしたの? 慰謝料でも払ったの?)

『何よ、それ。あの人と同じ奉仕をしてくれっていうからしたわよ。タダだったけど』

(はあ?)

『満足そうに帰って行って、それ以上怒鳴り込んでこなかったわね』


 しかし、いつまでも「ないしょ」というわけにはいかなかった。人の口に戸は立てられない。そして母親の耳にもその噂は届いた。内心覚悟はしていたというタンヌもちょっとはびびってた。いったい、いくらでやっているのかという問いに、タンヌは素直に答えた。

「安いわね」

 母親の返事に耳を疑うタンヌ。しかし、母親はそれからしっかりと「教え」を垂れたそうだ。

「しっかりした奉仕とそれに見合う代価。それが商売ってもんだよ!」


 純子はずっこけた。(あ、あんたの母親って……)

(そういやあ、あんたの父親……聞いてないわよね。事故死、病死、行方不明、どれかかなあって思ってたけどもしかして、そもそも知らない?)

『大当たり! 母さんに聞いたことあるけど、母さんもよくわかんないって。何人か奉仕してたそうだから、そのうちのどれかじゃないかって言ってたけど』

(うわあ、この娘にしてこの母親ありってとこ? うーん)

『それからは母さん公認の許、しっかりとお代は頂いております。母さんにも上前刎ねられてたけど、自分たちの生活費になるんだからいいよね』

(へえへえ、そうやって生きてきたわけだ)

 純子の口調にタンヌが反発した。

『えらそうな口きいても、生娘にああだこうだ言われたくないわね』

(あ、き、生娘! だ、誰が――)

『違うって言うの? あんたの反応見てればわかるわよ。現実から目を背けて憧れ、理想にしがみついてる。それは生娘の特権だよね。世間知らずって事だけど。いい、女は生きて行かなきゃダメなの。子供産んで育てなきゃダメなの。石にかじりついて、血を流してもね。だからたくましくなるの。ベテランをバカにするんじゃないわよ』

 たくましい。確かにたくましい。純子は思った。

(かなわないわねえ。うん、バカにするつもりはない。うらやましいとさえ思う。ちょっとズレてる気はするけど。あたしもたくましくなる。あんたにバカにされないようにね)

『それって処女喪失するっていう意味?』

(ち、違うわよ! このバカ!)

 赤い顔で否定した純子だったが、ふと不安に駆られた。

(タンヌ、一つだけ、教えて。そんなことはないとは思うけど……ちゃんと毎月のもの、ある?)

 純子の質問に一瞬、真面目な顔になるタンヌ。

『それは大丈夫。自己管理はちゃんとしてます』

 その返事で純子は安堵のため息をついた。もしそうだとしたら、未婚の母ならぬ、純子自身は処女でありながら身体は懐妊という大変奇妙な体験にまでしかねなかったのだから。

(人の身体を借りてるって思ったより大変なんだよねー)

『貸してる方も大変なんだけどねー』タンヌも頷いていた。


「お姉ちゃん、生きてる?」

 失礼な質問をしてくるサンチュ。純子は笑い出す。

「生きてるわよ。サンチュ、何?」

「だって急に黙り込んで、返事もしないのよ。心配になるじゃない」

「ごめんごめん。タンヌと話してた。いろいろ教えてくれたわよ。経済学の原則と人生の教訓まで頂いちゃった」

 何の事という顔のサンチュ。次に純子はシニンとヘリシェファに顔を向ける。

「タンヌは人の恨みを買うことはあったけど、殺されなきゃならないようなことはしてない。それから最近あったことでもない。だから殺されなきゃならないのなら、もうとっくに殺されてる」

『ちょ、ちょい、ジュンコ! それは言い過ぎ』

 しかし、シニンは純子の話に頷いていた。そして、言った。

「しかし、気になることがある。剣断殿のことだ。覚えてないかね。タンヌのことを聞いて直ちに首を切れと命じたのではなかったかな」

「そうだ、そうじゃった。この殺しのことですっかり忘れてた」

 追捕師も叫ぶ。

「その直後の毒入りの食事。そしてその夜の殺人者。繋がりがあると疑うのが普通ではないのか」

「で、では。剣断殿が指図をしておられるというのか?」

 ヘリシェファの声が裏返った。

「なぜじゃ、なぜ剣断殿がそんなことを?」

「それは本人でも聞いてみないことにはわからんだろう。ま、待てばいいさ」

 待つ? その言葉に純子は驚いた。さっさと真犯人を見つける必要があると言っていたのはシニンではないか。

「たぶん真犯人は向こうからやってくる。その時に話すことになる。なぜなら、向こうこそ放っておくことができないからさ。さっさとタンヌを始末したくて仕方がないはずだ。とにかく、休もう。あれから寝てないだろう。体調不良で対決に失敗したんでは元も子もないぞ」

 言われて思い出した。夜半から殺人者騒ぎで寝ていない。サンチュのあくびにつられて、純子もあくび。ついでに追捕師までもがあくびだ。

「警護は強化する。ワシもここで寝よう」

 そういうと、ヘリシェファは横になった。即座に寝入ってしまう。シニンはとっくに寝始めている。二人に毛布をかけてあげるサンチュ。

そしてサンチュと一緒に純子は横になった。何度か寝返りを打つうちに、サンチュも寝息を立てている。

(どのくらい寝られるかな。なんかあんまり寝られないって予感がする……)

『くよくよしなさんな。先のことばかり考えてると損するよ。どっしり構えてりゃいいわよ』

 タンヌの言葉で純子は目を閉じた。睡魔はたちまち純子を襲った。


 設定だけはいっぱいあります。通常の倍以上、設定したかと。

でもそれが書ききれるかどうかはわかんないですね。

こういうところで作者の力量がわかるのかも?

では。

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