Ⅲ.牢獄 17.追捕師の、疑問。
名探偵、純子登場!
いえ、そんなことは作者も期待してないんですけど。
ま、それはともかく、頑張れ、純子!
「お姉ちゃん、気がついたの!?」
純子が目を開けるのに、真っ先に気がついたのはサンチュ。ギュッと抱きしめる。その愛らしい唇に、純子は軽く口づけした。
「!」
一瞬、その行為に驚いたサンチュ。しかし、すぐに愛情いっぱいの接吻をお返ししてくる。
「帰ってきたんだね、タンヌ。いや、ジュンコかな」
二人の様子が見えないシニンも気配で感じたようだ。黒眼鏡の下の様子は見えないが、表情は柔らかく微笑んでいる。
「うん。タンヌがね、引っ張ってくれた。帰ってこいって言ってくれた」
純子の言葉に、シニンは頷いた。
「一時はもう帰ってこないんじゃないかって思ったよ。元の世界に帰ったんじゃないかってな」
頭の中でタンヌもそうかっ! って顔をした。
「あ……そういうこともあるかもね。ううん。今すぐじゃないけど。こっちでやること片付けたら、帰るかも知れないけどまだまだだよね」
「そうじゃ。お前には片付けなければならないことが山ほどある」
別の声が割り込んだ。純子が振り向くと、格子のところに追捕師が立っている。
「ヘリシェファ。そっちの調べはどうだった?」
シニンの言葉に、ヘリシェファは首を振った。
「手がかり無しじゃ。鍵を無くした奴は誰もいない」
なんのこと? という顔をする純子に、シニンが説明する。
「セランは牢屋の鍵を持っていた。それでここに入ってきたんだ。となれば、どこからか、鍵を手に入れた。誰かが紛失した鍵を拾ったのか、それとも誰かから貸し与えられたということさ」
「シニンの話でじゃ、鍵を持っている奴一人一人に確認していったが、結果は全員鍵を持っておった。
誰も無くしてない、貸してもいなかった。じゃが、鍵が増えるはずはないんじゃ!」
追捕師は苛立っているようだった。純子がそう言うと、ヘリシェファは怒気を含んだ声で答える。
「当たり前じゃ。ここは、いやしくも王宮の牢屋だぞ。ここに身分不詳の者がこっそりと忍び込み、殺人、いや自分が殺されてしまったんじゃが、殺害を行おうとした。そんな不祥事が許されると思うか?
これはなんとしても犯人を捕まえねばならぬ事件じゃ」
「それに、タンヌ」
純子はシニンに振り返る。
「真犯人が見つからねば、全ての罪はたぶん、お前にかかってくる」
短い沈黙の間を破ったのはサンチュ。
「ど、どうして、お姉ちゃんが! お姉ちゃんは確かに刺したかも知れないけど、それは自分を護るため……」
「ああ、だが間違ったにしろ殺したことは間違いない。タンヌの殺害をセランに命じた者が見つからなければ、きっとそのことだけでタンヌに罪を問おうとするだろう。そしてそれはたぶん、剣断――」
純子は片手を上げた。それを見てシニンは口を閉じる。
(こんな時、刑事ドラマかなんかだとうまくいくのになあ……)そう思いながら、純子は話しかけた。
「ヘリシェファ、その鍵は持ってるの?」
「ああ、ここにあるぞ」
ヘリシェファが取り出した、真新しい鍵。参考にヘリシェファの鍵も見せてもらう。古びてたくさんの傷がついている。
「うん、きっと合い鍵だね」
「合い鍵だと?」
「ほら、無くすと困るから、予備の鍵を作っておくのよ。誰かがその控えの鍵を貸したか、盗むかしたんだわ」
「そうか。だから誰も本物は無くしてないわけか……」
純子は鍵をじっと見つめた。(本当の警察だと指紋採ったりするのかなあ。なんか粉みたいなものつけてたっけ。でもここだとそんなこと出来ないし、もうヘリシェファがいっぱい触ってるんだろうなあ)
『ふうん、ジュンコっていろいろ知ってるんだあ』タンヌが褒める。
「街に合い鍵を作るお店があるんだと思うけど、そこに聞けば何か分かるかも。でもそのお店を見つけるのが時間かかると思うし、簡単に話してくれるかどうか」
『街、お店。あああああ……』タンヌが思い出して呻く。
それに呆れた純子が話を途切れさせた間で、シニンが話す。
「あの入り口には番をしていた衛士がいたんだろう? 何か見てはいないのか?」
「見ていない。番人はなにか甘い匂いを嗅いだ途端に意識がなくなったそうじゃ。たぶん眠り薬か何かじゃろう。もっともそれ以前に眠りこけていたとか、逆に手引きをしたという可能性もないではないがな」
追捕師は苦笑した。それは信頼に値する連中が少ないと言っているようだ。
「セランを見た者はおらんのか。もともとこの王宮にいたのではないのか?」
「顔を見た者は誰もおらんようじゃ。じゃがそれは仕方ない。ここでは多くの者が働いておる。ワシとて全ての者の顔を知っておるわけではない」
「衛士にでも変装すれば、誰にも見咎められる訳でもなくここにやってくることができる、ということだな」
「ああ、そうじゃ」
ヘリシェファの顔がこちらを向く。
「残念ながら、セランの口を割らせることはもう誰にもできぬ。だがタンヌ、お前が話すことは可能だ。どうだ、何か心当たりはないか。なぜお前が狙われた? 狙われる理由はなんだ」
『うーん、あたしが狙われる理由ねえ……』タンヌは考え込む。
(バカね。そんなの、考えたってわからないわよ)
「ないわ」純子は断言した。
「あたしがセランに逢ったのは取っ組み合っているときが初めて。だから個人的恨みがあるなんて思えない。セランが個人の理由であたしを殺そうと思ってたなんて、考えられない」
純子の発言に、シニンも追捕師も頷く。
「だとすれば……」
「だとすれと……」これはサンチュ。
『だとすれば?』タンヌは首をかしげる。
(ちょっとは頭使えよ)純子はそう思いながら言葉を続ける。
「個人的理由じゃないって事。あたしを狙うように仕向けられた。あるいは命令されたってことかな」
「それだ! で、それは誰にだ?」
「それがわかるんなら、あんた、いらないじゃん」追捕師に向かって純子は言った。
(タンヌが狙われたのは事実。実際には狙われたのはタンヌじゃなくて純子なのかも知れないけど……)
純子は考え込んだ。
(でもあたし、純子がタンヌの身体を借りていることを知っているのはサンチュ、シニン、モイルの三人だけのはず。セランや真犯人がそれを知ってるはずはない。つまり、狙われたのはタンヌってことよね)
『えー、あたしなの?』
タンヌは素っ頓狂な声を上げた。
『あたしだって身に覚え無いわよお』
(ほら、サンチュを見なよ)
視線をサンチュに合わす。その視線を受けて、サンチュは小首をかしげてにっこり笑う。
(品行方正。愛嬌タップリ。虫も殺さないって感じの娘よ。どう見たって、人の恨みを買うとは思えない。それに比べたら、あんた、身に覚えがたっぷりあるんじゃないの?)
『な、なんて、そんな、ひどい……』タンヌは真っ赤な顔。
(うーん、ちょっと言い過ぎたかな?)
『そうよ、そうよ。そりゃ確かに少しぐらいは身に覚えはあるけど。お金くれた人の奥さんが怒鳴り込んできたとか、彼女と別れた原因はお前だ、なんて言われたりしたから』
(は?)純子は戸惑った。
今までのタンヌの発言を思い出してみる。
(へそくり……。タダで触られたとか、お金くれたとか……。もしかして……まさか……でも、やっぱり確かめないと)
純子は声を改めた(実際には声はだしてないけど)。
(タンヌ、あなた、どうやってへそくり、貯めたって言ってたっけ? 教えて)
『な、何よジュンコ。藪から棒に。あたしのへそくりなんて、関係ないじゃない』
(あるかも知れないから聞いてるの。ねえ、タンヌ、あたし達、友人だよね。ううん、親友だよね。親友のこと、もっと知りたいな。タンヌはあたしの過去を知ったんだから、あたしもタンヌの昔のこと、知りたい)
『そ、そんな、ジュンコ。つまらないよ。あたしの過去なんて。それに知ったら嫌いになるかも知れないし……』
タンヌは脂汗をタラーリタラリと流している。
(嫌いになんてならないわ。約束する。ね、話して頂戴。へそくりってなあに?)
『なんだか、ジュンコ、怖い……』
ヘリシェファの口調は、時代がかって、大仰な感じという設定。
ただ、若さも出したいので、なんだか中途半端かもしれません。
もうちょっと口調だけで判るぐらいに、キャラを磨く必要があったかも。
では。




