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16.純子の、闇。

 純子のフルネームは、玻座真はざま 純子です。

高校生ぐらいだと思います。

ちょっと心にビョーキ持ってます。どうも母親がちょっと、のようです。

しかも父親の姿が見えません。どうなってるんでしょうか。

頑張れ、パパ……じゃなくて、純子!

玻座真はざまさんて暗いよね」

 これ見よがしの声が純子の耳に入る。それを無視。昔からしてきたこと。

「友達、いないんじゃない?」

 嘲笑とも哀れみとも取れるような声。

「あんた、なってやればいいじゃない」

「止めてよ。冗談じゃないわよ」

 笑いで終わる。だけど、笑いの中に悪意が潜んでいるのを感じるのは初めてじゃない。

『あんたなんか死ね』

 筆跡がわからないようにプリンタで書かれた、無機質な文字。でもその意味は冗談、それとも悪意?

 純子はその紙を元通りに折ると、元の位置に戻す。そうすれば、何もなかったのと同じ事。何もなかった、何も見なかったと自分に言い聞かせて。波風を立たせないこと。誰にでも逆らわない、いい子でいること。それが純子の処世術。そして母親からもらった盾。


 テストで悪い点は取らないこと。見せないこと。母親の機嫌が悪くなるから。何事も逆らわないこと。黙って言われたことだけやること。でないと母親の機嫌が悪くなるから。生理の話題はしない。汚いことは母親が嫌いだから。だから汚れ物だけは自分で洗う。そうしないと母親の機嫌が悪いから。

 母親が全ての物差し。それ以上もそれ以下も不可。それで一日一日を過ごしていればいい。自分のことはどうでもいい。

『あんた、バカじゃん』純子が言う。それを純子は聞いているだけ。

『母親がいなくなったらどうするんだよ。誰の顔色をうかがうつもり?』

 別の純子が言う。

『そんなこと言ったって、純子は小さくて弱くて一人じゃ生きていけないんだから』

 違う純子が叫ぶ。

『うぜえんだよ。みんな撃ち壊してしまえばいいんだよ。殺しちまえ、全部殺しちまえ!』

 泣き出す純子。喧嘩をする純子。それを高見から見ているだけの純子。全部、純子。

 純子の周りには靄がかかっているだけ。道なんか見えない。母親は機嫌で言うことが全く変わる。信用できないけど、そこしか頼れない。他人は信用しない。だって母親がそう言うから。だから、純子は一人。純子の周りには純子だけ。


 キレそうになる純子がいる。だから純子は純子を殺す。悪口に殴りかかりたくなる純子も殺す。泣き出しそうになる純子も殺す。

『あんたなんか死ねばいい』

 みんなのいい子だから、自分を殺す。感情を殺す。純子は純子を殺す。だけどまた現れる。だって純子は生きているから。死なない限り、生きている。だから殺す。

「あたしなんかいらない。誰も欲しがらない」

 母親からでさえ、「いらない子!」と罵られた。何も食べさせてもらえない日もあった。閉じ込められた夜もあった。

「純子は本当にいい子だから」そう言った直後に罵られた。本当の母親が純子には分からない。

「あたしの言うとおりにしない子はいらないからね!」

 そう言う母親が怖かった。だから無抵抗で従った。いつまでも、どこででも。


 泣いている小さな純子が見える。声も立てずに涙を流している純子が座っている。側に寄りそうと、しがみついてくる純子。その純子をやさしく撫でる。

「お姉ちゃんは虐めない? どうしたら、優しくしてくれるの?」

 小さな純子は囁いてくる。

「いらないなんて、言われたくない。死ぬのはイヤ。あたしの居場所が欲しい」

 純子の居場所なんて、どこにあるんだろう。

「なんでも言うこときく。だから助けて……」

 小さな純子は消えた。少しだけ大きな純子が現れる。

「死んじゃえよ。こんな嫌な自分は死ぬしかないよ。何で生きてんだよ!」

 そう言ってる純子も泣いている。

「……どうして生きているんだろうね」

 純子も呟く。

「誰もいないんだろ! 寂しいなら死んじゃえよ」

「寂しいから、誰かにいて欲しいから、仲間になって欲しいから、生きてるのかな」

「できねえよっ! お前なんかに、友達なんかできるわけないじゃん!」

 その純子も消えた。後には誰もいない。一人だけの純子。

「一人なんて……生きていけない」


 泣き声がした。そちらへ歩いて行くと、また小さな女の子。

(また、あたし?)でも長い金髪だし……誰? 声をかけると、その子は振り返る。だけど、その顔、ほっぺを両手で引き延ばして、「イーだ!」あかんべえをする。蒼い瞳とでっかいおっぱい。

「タ……タンヌ?」

「ふんだ。何やってるのかと思ったら、自分とお話しですか。余裕あるんだね」

「何言ってるのよ。タンヌ、どうしてあんた、ここに――」

 純子の話を遮って、タンヌが叫ぶ。

「弱虫、泣き虫。いじけ虫!」

 その勢いに、純子はたじろいだ。

「一人で生きてくってのは辛くて厳しいだって知ってるよ。だからシニンとモイルってすごいなって思ったんだけどさ。ジュンコはどうするの? いつまでもお母さんの幻、追うつもり?ジュンコはどう考えるの? どうするの? こうなっちゃった以上は自分で何とかするしか、ないじゃん。

泣いてたら済む? いじけてたら誰か助けてくれるの? 心を塞いでたらいいこと、あるの?」

 純子はタンヌに抱きしめられた。その時、ようやくタンヌが泣いていることに気づく。

「誰も知らない世界に一人で頑張るってすごく大変だと思うけど、なっちゃった以上はやるしかないよね。ううん。ジュンコ、一人じゃないよ。あたしがいるよ。別れようっていっても別れられないんだよ。あたしたち」

 純子の目からも涙が出てくる。

「ホントはね、ジュンコ。思ってたの。どうしてあんたが来たんだろうって。何にもできそうにないし、すぐ泣くし。ちょっと元気がいいかと思うと落ち込みやすいし。どうしてこの子なんだろうって、不思議に思ってた。違う子でもよかったんじゃないかって。だけど、あんたは選ばれてきたんだから、できる子なんだよ。もっと自信持っていいよ。

 もしさ、もしだよ。誰かの手助けが必要っていうんなら、その時は、その時はさあ」

 タンヌは照れた笑顔を浮かべた。

「ジュンコ、あたしじゃダメかな? 友達にもなれないのかな? あたしはなりたい。ジュンコの友達に。一緒に頑張ろうよ。笑いあって、泣きあって、一緒にやっていこうよ」

「タンヌ。あんた……ガメツクてバカで胸がでかいだけの女の子だと思ってたのに……」

 純子の言葉にタンヌはむくれる。

「いいところなのに、あんたはそう言うのかあ?」

「ゴメン、タンヌ。でもね、あたしも思ってたの。どうしてこっちに来た先がタンヌなんだろうって? だけど、わかった。今なら応えられる。

 ありがとう。本当に友達になってくれる? 一緒にやっていける友達に」

「あったりまえじゃん。ジュンコ、これからは笑っていくよ」

「うん!」

 タンヌは純子から離れた。

「先、行って待ってるから。ちゃんとおいでよ」そう言うと、タンヌの姿は消えた。

「うん。ちゃんと行くよ」

 純子は微笑んでいた。


 ただ流されるだけでやってきた純子がようやく主導権を握るような気配になってきましたね。でも、まだまだ苦難は続きます。って純子の目的もわかってないじゃん。それにね、まだメインキャラが一人、出てきてないんですよね。出たくてウズウズしてますけど(笑。

では。

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