14.暗闇の、殺人者。
ちょっと残酷シーンあります。ご注意ください。
にもかかわらず、頑張れ、純子。
サンチュはよく眠っているようだった。純子の隣で寝息を立てている。その音を聞きながら、純子は寝られない夜を過ごしていた。
(ほんとに夜なのかどうかもよくわからないんだけど)
窓のない牢屋では、時間感覚も狂ってくる。ここに入れられる前は宵の口だったのだから、きっと深夜なのだろう。
純子はそっと目を動かした。明かりと言えるのは、奥の扉の所にある、窓から差し込んでくる光だけ。そこには松明があって、ゆらゆらと揺らめいている。その動きにあわすように、光と影が交錯する。
時折動く人影は追捕師が言っていた、交代の番人だろう。
(ふう、眠れないなあ)
予感があったとか、怯えていたとか言うことではない。単純な理由。
(あたし、枕が違うと眠れないんだよね。って枕もないけど)
頭の下は石。自分の腕を枕にしてみても、しばらくすれば腕が痛くなる。
(サンチュの身体を枕にでもしようかな。起きるかな、怒るかな? 優しそうだから、怒らないかも)
残念ながら、そのサンチュを枕にするには高すぎる。
(ああ、もう、眠れない。こんな時にタンヌが話し相手にでもなってくれればいいのに)
そのタンヌは呼びかけても返事無し。大口を開けて眠りこけている様子が頭に浮かぶ。
(この野郎。どうやってたたき起こして――)
「なんだろう?」
純子は顔をおこした。目に入るものは揺れ動く明かりとその影。耳に聞こえるのは僅かな寝息。何の変化もなさそうだ。
「気のせいかな。……もしかして、幽霊だとか、なんてね」
不意に浮かんだ自分の考えに純子はぞっとした。テレビで見たのか、本で読んだのか。
(欧州の古いお城では夜な夜な首のない幽霊が徘徊する、だったっけ)
考えてみれば、タンヌは金髪に蒼い瞳だったり、西洋風の古めのお城だったりする。ならば、この牢屋にも曰く因縁があったりしてもおかしくはない。薄幸の王妃様が呪いを吐きながら死んでいったりとか、罪人が首切りの処刑を待つ間に壁に血の文字を残していったとか。あるいは声の限りに母の名を叫ぶいたいけな子供がいたとか。
(うわあ、考えてたらますます怖くなってきた)
自分の妄想に怯えてくる純子。見てもいないのに、白いものまで横切ったような気がしてくる。
(怖い、怖い、怖い-!)自分で作った恐怖に、頭から毛布をかぶる。その状態で震えていた純子だが、それでも昼間の疲れがまぶたを重くしていった。
純子はふと目を開けた。(誰かに名前を呼ばれたような……)目だけ開けてあたりの様子を伺う。眠る前と特段変わりはないようだ。
(夢? 夢かあ。なんか、名前を呼ばれたような気がしたなあ。やれやれ。もう一度、寝なおすか)
そう思って、寝返りを打とうとした瞬間だった。
「あれ?」
なにか、甘い匂いが鼻先を掠めたような気がした。
(なに? 何かいるの?)
純子が身構えた瞬間、かすかな音がした。通路の奥、扉のあるところ。
(ほんとに幽霊? でも幽霊なら扉からくる必要ないし。誰か来るの?)でも目だけはしっかりとそちらを見る。(扉が開いた?)
扉の窓から差し込む明かりは動いていって、一筋の光が差し込んでくる。その光がみるみる太くなる。確かにこれは扉が開いていく証拠。そして何かが入ってくる気配がすると、扉が閉まった。
(誰? こんな時間に、こっそりと忍び込んでくるなんて)
純子は眠っているふりをしながら、様子をうかがった。侵入者の気配は扉から通路をゆっくりと進んでくる。シニンたちの牢屋を伺い、そしてこちら側へと近寄ってくる。
(おかしいわよ。ヘリシェファは警備をおくって言ってたけど、何やってるんだろう)
誰も騒ぐ様子はない。静かなまま。侵入者は格子戸の前で何か探っている。そして鍵の開く音。
(入ってくる!)
毛布の下で純子は身体に力を込めた。幽霊は怖いが、人間なら話は別。
『どうするの? ジュンコ。逃げる? 闘う?』いつの間に起きたのか、タンヌが囁いた。
(やる。誰だか知らないけど、やってやる)
その人影が、純子の上に被さるように立ったとき、純子は跳ね起きた。
被っていた毛布を人影に叩きつける。
「!」
さすがに悲鳴は上げないものの、動きが固まる。が次の瞬間、毛布は切り裂かれた。手にした凶器が白く光る。
『こいつ、刃物を持ってる!』タンヌが悲鳴を上げる。
「畜生っ!」純子は頭から突っ込んだ。
純子の誤算はその瞬間、「お姉ちゃん?」と言いながら伸ばたサンチュの手。その手に足を引っ掛けたため、よろけるように低い姿勢で突っ込んでいったのだ。まるでダイビングのように。
そしてその姿勢であったがゆえに、幸運にも侵入者の刃物は逸れ、純子の髪をわずかに切っただけで終わった。しかし、純子そのものはタックルのように相手の足を掴む形でひっくり返っていった。
二人が転倒する派手な物音が牢屋に響き渡る。
「お姉ちゃん!」
「な、なんだ? タンヌ! どうした!?」
サンチュやシニン達の声がする。純子は必死になって、しがみつきながら叫んだ。
「強盗! 侵入者! 刃物、持ってる!」
そしてサンチュの悲鳴が闇の中に響いた。次の瞬間、純子は力ずくで引き剥がされた。床にたたきつけられて首根っこを押さえつけられる。さらには激しく顔を殴りつけられた。口の中で血の味がする。何か塊が舌に引っかかって思わず吐き出す。
「い、痛てえ! 畜生、女だぞ。手加減しろよ!」
そう叫ぶ間にも侵入者は純子の上に馬乗りになって、ぐいぐい首を絞めてくる。もう声も上げられない。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、無事なの? 大丈夫なの!?」
サンチュの声がだんだんと遠くなってくる。
『純子、しっかり! あたしがついてる!』
(あんた、声だけじゃん。こんなピンチ、なんか助けてよ!)
「衛士、追捕師! ヘリシェファ、どこにいる!」
はるか遠くでシニンとモイルの声が聞こえるようだ。純子の意識がだんだんと遠くなっていく。
(くそ、くそ! こんなところで、こんなふうに……)
最後の力を振り絞って、両手を伸ばした。右手の指に何かが引っかかる。それを掴んで、顔の前で振り回す。
「!?」
一瞬、侵入者の力が緩んだ。その隙に大きく息を吸い込むと、純子は持っているものをそいつの身体に突き刺した。温かい液体が純子の手に伝ってくる。侵入者の身体の力が抜けて、重みが純子にかかってくる。
(なに? どうしたの、こいつ?)
喉から相手の手をはずし、咳き込みながら純子は這い出した。すぐにサンチュが支えてくれる。
「サンチュ、サンチュ。いったい何があったの?」
「それを聞きたいのはこっちよ。お姉ちゃん、一体何なの?」
ようやくたいまつを持った衛士たちが走りこんできた。その中にはヘリシェファもいる。
「何があったんだ……。これは何なんだ?」
純子もたいまつの明かりでやっと状況が見えてくる。自分にのしかかっていた身体が床の上に伸びていること。そしてその胸には刃物が深々と突き刺さっていること。そこからあふれ出た血が床、そして純子の手や顔にまでついていることを。
呆然としながら、追捕師はつぶやいた。
「この、王宮の牢屋でこんなことが起きるなんて……」
昨日は校正やっている間に時間オーバーしてしまいました。今日は大丈夫かな。
ファンタジーって言うよりは、アクション物の感じですね。幻想怪奇小説っぽいかも?(笑
読んでいただければ、どんなジャンルでもいいんですけど。




