11.追捕師、ヘリシェファ。
さあ、男っ気が少なかったけど、色男の登場だぞ。
でも、ちょちスケベかな?
でも、ないよりましさ。
さあ、今回も頑張れ、純子。
人通りが多かった街も夜が更ければ、静かになる。そんな中、二人の少女の裸足が石畳の上を歩く音がペタペタと響く。家々の明かりが消え、道路も薄暗くなる。
これならまず見つかることはあるまいと二人は道を急ぐ。見上げれば、頭の上にはあのお城がそびえている。遠くから見たときにはあんなに小さかったお城が、今は脅かすかのように立ちはだかる。
「あの中に、母さんが……」サンチュのつぶやき。
純子は頷いた。が、先を考えていた。
『母さんがいるとしてよ、どうやって助け出すのよ。そして家に帰るつもりなの?』
タンヌの言うとおりだった。純子がここに来た目的はいざ知らず、衛士たちに追われる理由も、母さんが消えた理由も、何一つ解決してない。
『受付に行って、母さんに会いに来ました~、なんていうつもりじゃないでしょうね』
(そんな簡単にいくんなら、衛士に捕まってつれてこられたほうが楽だったってことじゃん)
『そりゃそうだ。だけどジュンコ、こっからは簡単じゃないわよ』
そう思って、心の中で頷いたとき、サンチュの足が止まった。
「サンチュ?」
「あれ、衛士じゃない?」
もう、道は幅広くなっていて、その先はお城の下、おっきな橋にぶつかっている。その橋の袂、たいまつが赤々と焚かれ、衛士が武器を持って立っていた。
「ちっくしょー、門番かよ……」純子はつぶやいた。
考えてみれば当たり前のこと。今まで衛士を見なかった理由もこれでわかる。別に街中や街道中に見張りを立てるような不効率なことはする必要はない。王宮へ出入りする箇所だけ見張れば、ことは足りる。
「どうする? お姉ちゃん……」
サンチュがささやく。純子は考え込んだ。今、あの門番を突破できたとしても、王宮までにはたくさん衛士がいるだろう。となれば、捕まるのは必至。
『それだったらシニンの案にのったほうがよかったじゃん』
(それを言うなよ!)でも良い考えはない。思いつかない。
「仕方ない。ここは出直そう」
そうサンチュにささやいて、踵を返したときだった。目の前には、馬に乗った姿があった。
馬上には鎧をつけた衛士の姿。たいまつを持った従者が馬のそばに立っている。赤々と燃えるたいまつの炎に照らし出されて、鎧まで赤く見える。
(やばい、見つかっちゃったよぉ)早くも純子のひざは震え始めている。
(あいつじゃなきゃいいのに、あの男でさえなければ……)
目を奪っていったあの男の顔が脳裏に浮かぶ。
「お嬢さんがた」
衛士が声をかけてきた。ヘルメット(タンヌの『あれは兜!』という声で訂正)、兜のせいでくぐもって聞こえるけど、あの男の声じゃない。純子は安堵のため息をついた。
「もう夜更け。こんな時間に出歩くとは感心しませんぞ。いったい何の御用かな?」
(前いた世界じゃ、まだまだ宵の口だよ)そんなこと言って通じる相手じゃないし。
(なにか、気の効いたこと言って誤魔化さなきゃ)純子は思った。
「えっと、えっと、散歩の途中で迷子になっちゃって……えへへ」
「ほうほう、それはお困りであろう。家まで送ってしんぜよう。どこかな、家は?」
そう優しく問われて、純子は詰まった。素直に墓守の家とも言えず、適当に街のどこかをあげられるほど土地勘もない。途方にくれる純子を見て、サンチュが進み出た。
「あ、あの、母さんを探しているのです。この近くで見たと聞いて……」
(おお、サンチュ。うまいぞ)思わず純子は感心した。これならそんなに嘘をついてるわけでもないし、もしかすると同情した衛士がお城まで連れて行ってくるかも、だが、純子の甘い期待はたちまち砕かれた。
「それはもっと大変じゃ。どれ、母親の名前と人相を聞かせたまえ。それで我が手配のものに探させようぞ」
サンチュもうなだれた。もし、母親が王宮に捕まっているのなら、その名前や人相を言えば、自分も関係者だとばらすようなもの。
(言えない、言うなよ、サンチュ)
純子の目配せでサンチュも黙り込む。
「おや、それ以上は言えぬようか……なんともおかしげなお二人じゃな。それにその娘……」
そしてサンチュを指差す。サンチュは一歩後ずさる。
「その声、そしてその顔。どこかでお見かけしたような気がするのだが。そちらはワシのことを知っておるか?」
「い、いえ。申し訳ありません。存じ上げません」
サンチュの返事に衛士は笑った。
「そうか……。ワシもまだまだ無名じゃのう」そう言いながら、男は馬を降り、兜を脱ぐ。
「ワシはヘリシェファ・バアール。追捕師じゃ」
その言い方から純子は自分よりだいぶ年上だと思っていた。しかし、兜の下から現れた顔はほんの少しだけ年上の好青年だった。面長の顔、決断力にあふれ、それでいて優しそうな瞳。しかし、なんと言っても特徴的なのはその頭。綺麗なぐらいに毛がなかった。
『か、か、兜の下から兜が出たー』タンヌは笑い転げていた。
純子も笑いをこらえていた。タンヌの言うとおり、兜を縫いでもなおもたいまつの輝きを反射しているのだから。その視線に気がついたのか、ヘリシェファは自分の頭に手を当てた。
「これは格好付けで剃っているもの。似合わぬかな? あはははは」
その笑いとともに、白い歯がこぼれた。純子の胸がギュッと痛んだ。
(やだ。またなんか病気かなあ。こっちは変な治療ばっかりだから、病気なんかにになりたくないんだけど)
「さて、当方の名前は申し上げたとおり。そちらの名前を伺ってもよろしいかな」
ヘリシェファの問いかけに、
「サンチュ……」それだけ、応える。
「あたしはタンヌ。姉でサンチュが妹です」純子は即答した。
「では、妹のほう、サンチュとやら。もう少し容貌を拝見したい。やはり、どこかでお会いしたような気がする」
「いえ、先ほども言いましたとおり、初めてでございます。今日、田舎から街へ出てきたばかりで、追捕師様のことなぞ、まったく存じ上げておりませんでした」
サンチュはそういいながら、純子の背中に隠れる。
「そうか……。では、姉のほうとやら、タンヌであったかな」
ヘリシェファが純子に呼びかけた。
「は、はい!」自分でもわからずに声がオクターブ跳ね上がる。
「さても立派な胸をお持ちじゃな。そのような胸の持ち主を忘れることなど、まずはないと思うのじゃが」
ヘリシェファがそう言った時だった。めまいにも似た感覚を純子は覚えた。それはなじみの感覚。
(あ、地震……?)
純子にしてみれば、たいした揺れではなかった。しかし、サンチュは悲鳴を上げて座り込む。ヘリシェファは純子に腕を回して、支える。
「最近、この妙な揺れが多くてな。みなが不安がっておる。いったい、何が起きておるのだろうと」
ヘリシェファの呟きを聞きながら、純子は回された手を見つめた。その手は胸のふくらみをしっかりと支えていた。
「やや、これは失礼した。しかし、若くて張りがあって素晴らしいおっぱいじゃのう。おかしい、こんな素晴らしい胸を忘れるはずはないんじゃが」
ヘリシェファのうれしそうな声に、純子も我に返った。
『あたしの胸よ。ジュンコのじゃない! 触られた。しかもタダで触られたー!』
タンヌが真っ赤な顔でわめいていた。純子も顔が赤くなるのがわかった。
「あ、あ、あ……きゃーーーーーー!」
そして純子の平手は見事にヘリシェファの頬をひっぱたいていた。従者に取り押さえられたのも、お城へ連れて行かれたのも、そして牢獄に押し込まれたときでさえ、純子は夢見心地だった。
追捕師の説明は次の会にて。
純子は日本人なので、地震には慣れているとのこと。
ここの人(ちなみにプリギュアという世界ですが)はまったく慣れていないようです。伏線かな? なんちって。
では。




