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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

這いて見るもの

掲載日:2026/03/12

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ふむふむ、四つん這いの姿勢が慢性的な腰痛に効果的、ねえ……。

 いやあ、ここのところ腰に痛みを覚えるようなことが多くてさ。どうしたら楽になるものかと、いろいろ情報を集めているところなんだよ。

 直立二足歩行て、いま生きている者の中だと人間以外はなかなかやらないじゃん? その人間だって生まれた当初は立つことができず、四つん這いの姿勢に頼ることになる。

 物を運ぶ、道具を扱うなどのアドバンテージは得たものの、身体的な弱点を多く抱えてしまう二足歩行。自然に生きる身だったら、やはり「なめている」と思われても仕方ないかもしれない。

 四つん這いになり、歴史上ではるか以前の格好を身体に思い出させることで、健康だったころの身体を回復する……というのは理にかなう点もあるのかな。

 この四つん這い。実はまだまだ我々の知らない秘密が隠れているかもしれない。出会い、発見などもね。

 私のちょっと昔の話なんだが、聞いてみないか?


 記憶に残る限りで、トップクラスに古い3~4歳ごろの記憶だ。

 私は部屋の中の「ほこり」という存在に興味をそそられていた。知っての通り、髪の毛や糸くずや微生物とその糞などが固まって生成されるもの。部屋で暮らすにあたり、多かれ少なかれかかわらないといけない物質だろう。

 部屋掃除の代表的な敵ではあったが、私としてはこのいつの間にか湧いている、生活の混合物たちが何物にも代えがたいおもちゃだったんだ。スキさえあればほこりをつまみ、手でもてあそんではちぎっていく。

 なんでも口に入れたがるころでもあったから、いくらか頬張ったことがあるものの、味はともかくとして、ふんだんに混じっている髪の毛はのどに絡んで飲み込みづらい。おまけに親にも見つかって注意されたものだから、おおっぴらにほこりで遊ぶのは難しくなってしまう。

 ほこりを食べる、という当初のもくろみは崩れてしまったものの、私がほこりを四つん這いで追うことそのものは、以降も長い間続いたんだ。


 文字通り、吹けば飛ぶような連中。本来はさっさと掃き掃除なりをして片付けてしまうものだろう。

 しかし、私が四つん這いで彼らを観察するうちに気付いたことがあったんだ。

 仮にじっとしているつもりであっても、ほこりたちがひとりでに飛んでいくような動きを見せるときがある。たいていなら、人の重量がなす揺れなどだろうと思うだろうが、私が見たものは違った。

 ふわん、と彼らが浮き上がるとき、その下部にわずかな間だけ脚がのぞくことがあるんだよ。

 ムカデが見せるそれのように、ひとつひとつは小さく短い。けれどもそれが電子機器の端子を思わせるほど無数に身を寄せ合って、確かにほこりを数センチほど飛ばしたのだ。

 当時の私は目を丸くして、ほこりを追った。他のものと同じように、つまみあげようとしたけれど指にはピリリとしびれが走り、つい引っ込めてしまう。のちに、静電気と非常によく似た強い痛みだったと私は知ったよ。

 直接、痛い目に遭ってはさすがに懲りる。食べることはおろか、触れることもしなくなってしまったほこりからなおも目を離さなかったのは、あの足生えるほこりの正体を見極めたいと思ったからだ。


 正直、そう簡単に見つけられるものじゃなかった。

 じっと注意して見張っているときには、まず現れない。もし意識とかがあるなら、先の一件で学習されたかもしれなかった。

 あらわれるときは突然だ。私も自然と、ほこりを見つけたらだしぬけにばっと四つん這いになってほこりをにらみ、ちょいとしたらすぐ離れる……そのような繰り返しで、向こうが尻尾を出すのを待ち続けていたわけ。

 向こうも完璧とはいえなかったようで、まれにだが、あの金の足たちを生やして飛ぶ、ほこりたちの姿を見た。やはりすぐに触れば静電気、しばらく置けば綿ぼこり。

 じかに手でつかむのをあきらめた私は、最近身に着けた新たなスキルでもって、ほこりをとらえんと試みたんだ。


 割りばし。

 身に着けたのは箸の使い方だ。人によってはてこずるかもだが、私は箸との相性が良かったようで、習い始めてほどなく家族の皆とそん色なく食事ができるようになっていたゆえ。

 そして、木はどうやら電気を通しづらいことも私は聞きかじっていたのも、割りばしチョイスの理由。常にこれをポケットへ携えていた私は、次こそは例のほこりの正体を見極めんと、しぶとくその瞬間を待ち続けていたんだ。

 そして準備を整えて20日あまり。親が夕飯の準備に取り掛かっているとき。

 私はトイレから自室へ戻るや、さっと四つん這いになった。これまで何度もしてきていることだから音をほとんど立てずに済む。部屋の隅に陣取っているほこりたちへわずかな風も届かないよう部屋中央で行いようにしていた。


 おりよく、ほこりの一角が飛び立った。まぎれもなく、下部に金の足がそろっているやつだ。

 さっと割りばしを抜いて握る。飛んだほこりが床へ再び触れるや、箸を突き出した。いわゆる着地狩りというやつだ。

 箸先はあやまたずほこりを捕まえる。指でとらえていたときのような、静電気は走らない。

 勝った、と思ったのもつかの間のことだった。

 はさんでいる割り箸。そのほこりに触れているところが手元へ向かって、次々に金色の短い脚が無数に生えてきたんだ。あの飛び上がるとき、ほこりの下に生えそろっているやつだ。

 あわてて放り出した箸は、つい先ほどまで私の触れていたところまで金色の脚に埋め尽くされると、変わった。

 ぱっと、箸全体がほこりになってしまったんだ。磁石で引き寄せられるように、そのほこりたちは飛び上がったひとつのもとへ、ぐんぐんと群がっていく。


 私も下手したら、あのほこりになっていたかもしれない。静電気は身体の抵抗だったのかもね。

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