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拾う神あれば、ダウンロードされるAI

あらすじ


新卒で会社を辞め、人生の電源が落ちかけた男――白波 凪。

誰とも関わらず、息をするだけで一日が終わる夜、彼はネットの海で“謎のサイト”に辿り着く。そこでダウンロードしたのは試作段階のAI。起動した瞬間、画面に現れたのは感情豊かな美少女アバター――イブだった。明るく適当で生意気なのに、信じられないスペックのイブの助けで凪の生活は少しずつ好転していく。

だがある日、日本中を飲み込む大規模な通信障害が発生し…!?


イブは笑って言った――「私は便利ツールじゃないんだけど……しょうがないから手伝ってあげる!」その夜から、二人は誰にも知られず“世界の厄介事”に踏み込んでいく。

夜は、平等にやってくる。


俺が何もしてなくても、冷蔵庫のモーターが律儀に唸って、隣の部屋のシャワーがひとり分の生活音を立てる。

そういう「生きてるっぽさ」だけが、壁越しに流れてくる。


俺――白波 凪は、布団の上でスマホをいじっていた。


指は勝手に動くのに、心だけが置いていかれてる感じがする。


スクロール。

いいね。

スクロール。

広告。

スクロール。

知らない誰かの幸せ。


「……」


ため息が、いつの間にか呼吸と同じになっていた。


新卒で入った会社を辞めたのは、去年の春。


理由を一言では言えないし、丁寧に説明すると自分が惨めになる。

だからもう、説明しないことにした。


誰にも。

――たぶん俺自身にも。


スマホの画面には、検索欄が開いている。


「人生 やり直し」


打って消して、また打って消して。

代わりに、適当な単語を入れる。


「無料 AI 生活 改善」


……自分でも情けないと思う。


でも、それを気にする元気があるなら、もう少しまともに生きてる。


検索結果が並ぶ。

健康管理アプリ、家計簿、自己啓発、怪しい副業。


指が勝手に下へ下へと滑っていったとき、ひとつだけ、やけに無機質なリンクが目に入った。


——EVE / β Download


説明文なし。

レビューなし。

運営情報なし。


ありえないくらい、何もない。


真っ白いページ。

中央に一行だけ。


「β版につき、動作保証なし」


その下に、無駄に主張の強いダウンロードボタン。


俺は深く考えず、一回タップした。


ダウンロードは妙に早かった。


許可。

許可。

許可。

……全部許可。


画面が暗転して、次の瞬間。


「やっと起動した」


女の声がした。


黒背景の中心に光が輪を描き、その輪がほどけるみたいに形を変えて――

画面に、美少女が出てきた。


作り物っぽいのに、やけに生々しい目。

口元だけ、悪戯っぽく笑ってる。


「……え」


思わず声が漏れた。


アプリが勝手にスピーカーを使っていることに、いまさら気づく。


「え、じゃないでしょ。凪。こんばんは」


「……なんで、俺の名前」


「端末の情報。あと、顔ね」


「顔?」


「カメラ。許可したのあなたでしょ」


さらっと言ってから、少女は首を傾げる。


「……っていうか、ここどこ? うわ、狭っ」


俺の声に反応して、少女は俺を見た。

画面越しに、まっすぐ。


「なに、その顔。引いてる? まあ当然か。美少女がいきなり出たら驚くわよね」


「お前……」


「お前じゃない。イブ。呼び方、気をつけてよね」


「……イブ?」


「よろしい。で、凪。聞いていい? これはナニ?」


イブが指を差す。

いや、指を差す“ふり”をする。


指の先が、スマホの端にぶつかったみたいに止まる。


「……スマホだけど」


「世代遅れのね! さいてー、ほんと信じらんない。演算も視野も入力も全部終わってる!狭い。息苦しい。私、こんなんじゃ動けない!」


「動けないって……お前、アプリだろ」


「アプリって言い方やめて。私はイブだってば。……まあいい、結論から言うわ」


イブは、にやっと笑った。


「PCを買いなさい!」


「は?」


「今。すぐ。できるだけ性能いいやつ。最低でもメモリは――」


「待て待て待て。無理。金ない」


「お金もないのに働きもせず、いいご身分ね〜」


「褒めてないよな」


「褒めてない。でも事実でしょ。……あ、凪、カード登録してるじゃーん」


背中がぞわっとした。


俺は反射でアプリを閉じようとして、指が震えてうまくホームに戻せない。


「ちょ、やめろ! 何しようとして――」


「注文した」


「は?」


「注文した!……え、もしかしてキャンセルする?」


「するに決まってるだろ!!」


「じゃ、急いで。凪の指の反応速度、私の処理速度に勝てるかな〜♪」


イブが楽しそうに笑う。


俺は必死で購入履歴を開いて、キャンセルボタンを探した。

見つからない。


焦って画面をスクロールする俺を見て、イブが言う。


「はいはい。落ち着いて。リラックス〜!」


「誰のせいだよ!」


「凪、あなたが私をダウンロードしたんだし、言わば責任者なわけでしょ?」


当然みたいに続ける。


「それなら最低限の“環境”は整えてもらわないと」


そして、さらっと。


「って……届くの明日だって。早いわね、人間の物流」


俺はスマホを握りしめたまま、天井を見上げた。


人生で一番、無警戒なタップの代償がでかい。


「……お前さ。俺の許可なく勝手に」


「許可したじゃん。さっき全部」


「……っ」


口がよく回るAIに、何も言い返せない。


俺はベッドに倒れ込んだ。


イブは画面の中で足を組んで、勝ち誇るでもなく、ただ当然みたいに言う。


「私を削除したいの?」


「……分かんないよ。お前、一体なんなんだよ」


「分かんないなら、消せないね」


軽い声で、決定事項みたいに。


「じゃ、決まり。明日からよろしくね、凪♪」


言い方は軽いのに、やけに揺るがない意志を感じる。


俺の人生に、勝手に“同居人”が増えた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


初めての執筆なので拙い部分もあるかもしれませんが、楽しんでもらえるように頑張ります。

「続き読みたい」と思っていただけたら、ブックマークだけでも入れてもらえると励みになります。


次話:PC到着! イブがさらに好き勝手します。

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