緊急招集!?ブリテンからの“手順”と国の決断!
花園ひかりは、よぼよぼのしぼり殻となって会議室から出た。
他の魔法少女達も似たような感じで、皆、脱力して会議室の外にあった椅子に座っていたり、上半身を預けたりしていた。
「はんざい、は………ぜったいに………おこさない………」
「もう………いや………」
「むり………むり………………むり………」
「もう、はなせないよぉ………」
全員が魂が抜けた状態でそんなうわ言を呟いていた。花園ひかりもその内の1人となる為にパイプ椅子にドカッと座り、魂を飛ばした。廊下を通りかかる何人かの職員がギョッとした顔で彼女達を見たが、魂を完全に飛ばしている彼女達にとってはどうでもいいことだった。
「――――――あっ、プリズム☆ルミナ!」
その言葉を聞いた花園ひかりが眼球だけを動かした。視線の先には虚ろな目の魔法工学研究員が立っていた。目の下の隈が酷いし、目が虚ろなのに表情だけは元気そうだった。そんな彼が魂を飛ばす彼女達に話しかけてきた。
「お疲れさま………………と言いたいところですが、少しだけいいですか?”冬の女王”の魔法について確認したいことが」
「………むり」
「実はですね………あれ?スマホ、何処にいった?」
「………むり」
花園ひかりはうわ言のようにそう返すことしかしなかった。しかしながら、魔法工学研究員は丸無視で口を動かしていた。きっと彼も休息が必要なのだろう。花園ひかりが空虚を見ながらそう考えていると、よく聞く声が彼女達の耳に入って来た。
「おい、プリズム☆ルミナ!?生きてるか!?」
「しんでる………」
「ほ、本当だ………!?」
プリズム☆ルミナのマネージャーの言葉に橙原みさきが速攻でそう答えたが、マネージャーはその言葉を丸無視して、プリズム☆ルミナに伝えた。
「休ませてやりたいが、無理だ。新しい魔法石の準備が出来たから、いつものカット工房へ向かってくれ。作業が終わったらいつもの待機室で指示が出るまで待機していてくれ」
「は?待機?」
「え?どういうこと?」
「それは――――――」
その時、マネージャーの言葉を遮るように声が響いた。
「すみません、マネージャー!本庁から緊急招集です。ブリテンから返信が入りました。“「手順」を共有したい”とのことです!」
「は!?もう!!!?」
マネージャーはその言葉に驚いたようにパッと振り返ったが、すぐに廊下で死んでいるプリズム☆ルミナの方に向きなおし、一言二言、言って離れた。
「説明は後でちゃんとする!今は休んでいてくれ!!!」
「お休み!!!?」
日向こはるが”休み”という言葉に反応し、ガバリと立ち上がった。その姿を見た彼女以外の4人が「(元気だな)」と思ったことは秘密だ。マネージャーはすぐに声がした方に小走りで向かっており、その後ろ姿を見た花園ひかりと水城あおいは顔を見合わせていた。
なお、プリズム☆ルミナに話しかけた魔法工学研究員は同僚達に引き摺られて行くように何処かへ去っていっていた。
***
本庁の会議室では、ブリテンの回線が繋がっていた。
スクリーンの向こうでは、ブリテンの上層部がふんぞり返ってこちらを見ていた。エウロペ(欧州)人特有の、礼儀正しい皮を被った上から目線に不快になりながらも、会議室にいる人間達は静かに彼の話を聞いていた。
男は緩慢な動作で座り直すと流暢な英語がスクリーンの音響から流れ出す。それを機械が捉えてこちらの言葉に翻訳し、機械の画面に浮かび上がる。翻訳は一拍遅れて表示され、妙に硬い敬語に整形されていた。
『”結論から申し上げます。貴国が〈冬の女王〉と呼称している対象は”――――――』
男はもったいぶるように一拍を置いた。その話し方に幾人もが片眉を動かす。だが、今はそんなことはどうでもよい。今はあの”冬の女王”に対抗する策を練る方が先だ。
『”我がブリテンが長らくその行方を捜していた〈冬至の魔女〉であると、当方は確定します”』
「冬至の魔女………?」
耳慣れないその言葉に会議室内の人間の間に騒めきが起こった。何人かはPCにその言葉を打ち込んで情報を探していた。しかし、男はそんな彼らを無視して話を続けた。
『”魔塵が発生していない理由、装置が無反応である理由………これは〈魔女〉の魔法であることを決定づけます………………貴国の現行魔法工学では測定不能なのは当然です。低出力ではありません。純度が高すぎる故です”』
その言葉に今度こそ、騒めきが起こった。それは現在の世界中の魔法工学を否定し、書き換えるような言葉であったが為だ。特に魔法工学研究員達の騒めきは酷く、何人かが慌てたように会議室の外へ出ていた。
「”加えて、通信がノイズではなく“沈黙”へ落ちる現象、環境の静寂化――――――そして、貴国から送られた映像を元に、〈冬の女王〉を〈冬至の系譜〉の魔女であることを断定しました”」
そこまで言うと、男は意地の悪い楽しむような視線で会議室を眺めた後、もう一度座り直してから締めくくった。
「”当方は魔女の存在を肯定し、保護します。よって――――――貴国が魔女の〈撃破〉に傾くことを強く警告します”」
そこまで言うと、男は一方的に通信を切った。男の勝手な行動に怒りそうになるが、それよりも齎された情報をまとめることの方が重要だった。
***
花園ひかりは説明していたマネージャーに聞いた。
「”魔女”って具体的に言うとなんですか?」
「私達は御伽噺の存在としか知らないですし………」
「あー、あれ?シンデレラの魔法使いのお婆さん、みたいな?」
「それで大体合ってる」
マネージャーの言葉をプリズム☆ルミナは理解できなかった。全員が頭の上に?マークを浮かべてマネージャーを見ていた。
「”魔女”についての記述は、昔の観測者が”それらしい御伽噺”にその姿を落とし込んだ話らしい………………あの”冬の女王”は、正真正銘の”雪の女王”、らしい」
マネージャーのその言葉を聞いて一拍置いてから、プリズム☆ルミナは待機室に響き渡るような驚愕の絶叫を上げた。
「はぁ!?え!?マジでいるの!!!?」
「え、え、じゃ、じゃあ、人魚姫の魔女もいるんですか!!!?」
「落ち着け!落ち着け!」
詰め寄ってくるプリズム☆ルミナを慌てて制して、マネージャーはゆっくりと彼女達に説明した。
「いるかいないかで言えば、いた可能性が高い………………だが、今ではその魔女達の多くは人里から離れている。その上、ほぼほぼ全ての魔女が”代替わり”しているんだとよ」
「”代替わり”?」
「魔女は不老だが不死じゃない………………その代わり、魔女の血統にその力は宿り、魔女が死ぬと新しい魔女が生まれる。ただし、魔女は一系譜に1人だけ、とのことだ」
「マジか………」
橙原みさきが両目を見開きながら、マネージャーの話に相槌を打った。他のプリズム☆ルミナも両目を見開き、マネージャーを見ていた。
「………………だが、問題は此処からだ」
「問題?」
「ああ………………ブリテンが、あの”冬の女王”に対抗できるかもしれない策を打ち出してきた」
その言葉に今度こそ、プリズム☆ルミナは固まった。あの永遠の冬を体現したような少女を、大人が”冬の女王”と名付けるような、少女の対抗策が見つかったことに驚き、言葉を失った。
「………………ブリテンは”若い魔女なら希望はある”とこの策を提示して来た」
「若い魔女?」
「確かに、年頃は私達と同じくらいでしたね」
「だからこそ、この策が通じる可能性が高いと提示してきた………………そして、その実行役をお前達プリズム☆ルミナが担うことになる」
その言葉に再び沈黙が待機室を支配した。マネージャーはそんな固まるプリズム☆ルミナに語り掛ける。
「――――――今なら、まだ間に合う」
「え」
「お前達を逃がしてやれる。あんな、大人達を、恐ろしい武器を持った人間をあっさり鎮圧させることが出来た”魔女”………………そんな存在に、無理矢理立ち向かわなくて、いい」
マネージャーは書類を思い出す。”冬の女王”の調査書類。あの場所を調べた時に判明した事実を思い出し――――――せめてこの子達には、と退路を用意しようと決意したあの瞬間を思い出す。”冬の女王”は気づくことが出来なかった。それでも、せめてこの子達には、
そんなマネージャーの決意を振り切るように花園ひかりが前に出て来た。
「やります」
「………………………花園」
「だって、私達、もう………会っちゃったもん。知らないふりはできません」
花園ひかりは思い出す。自分を見下ろすあの冷たい視線を。一方的な”初めまして”だったけど、確かに彼女達は出会っていた。
「………………そうか」
「はい!だって、私は………いえ、私達は――――――プリズム☆ルミナですから!」
花園ひかりが笑顔でそう断言した。その言葉を聞いて、全員の瞳に覚悟の光が宿った。マネージャーはそれを見て、仕方がないという感じで溜息を吐いた。
「………わかった。今、大人達の方で準備をしている………………それが終われば、プリズム☆ルミナの出動だ」
「「「「「はい!」」」」」
こうして、希望は再び魔法少女の手にゆだねられた。
***
準備は、会議より静かだった。
封鎖区域の外れに設けられた仮設の作業テント、発電機の低い唸り、手袋を擦る音、紙をめくる音………誰も大声を出さない。大声を出すほどの余裕がない。
「では、作戦を実行する」
現地対策課の担当官が言うと、現場責任者が短く頷いた。
「粗悪石は?」
「確保済みだ。ブリテンの要求通り、掌サイズ。規格外品………………と言いたいが、合法品として流通している“低純度品”だ」
技術班がそう説明しながら白いケースを開けた。中には小さな魔法石が並んでいる。透明度が低く、内側に濁りがある。光を当てると反射が鈍く、虹色に輝く不純物が見えた。
「置く位置は?」
「中心ではない――――内縁だ。最初から中心へ近づけば、こちらが持たない………………設置は二名。監視は後方。回収は夜だ」
「了解」
すると、唐突に通信機から声が聞こえた。担当官はこんな時に、と眉間に皺を刻みながらその通信を聞いた。
『債権者側の動きを確認。現地確認の打診が入っています」
「………………動きが早いな。こんな悪天候というのに。了解、作戦実行に移ります」
担当官はそう呟くと通信機に向かってそれだけを言って白いスーツケースを実行係に渡した。
「では――――――成功を祈る」
「「はい」」
実行係に任命された2名は白いスーツケースを持ち、設置後に退避する時のダミーの折り畳み式の白いスーツケースを隠し持って吹雪の中を突き進む。吹雪の“内縁”………………魔法少女達が踏み込んだ”内側”程ではないが、それでも”外側”の吹雪に比べれば穏やかだ。風があり、音があり、雪が荒く舞っている。だからこそ、人間が立てる音を紛らすことができる。実行係の2人は、白い防寒服に身を包み、顔も声も雪に溶けるように隠していた。手にしているのは、さっきの白いスーツケースとダミー用の折り畳みスーツケースだ。傍から見れば、測定器を運ぶだけの作業員だろう。
「設置点、確認」
片方が膝をつき、雪面に細い杭を打ち込む。温度、湿度、風向………………そういう“作業”に見えるように作業する。もう片方が周囲を警戒するが、警戒の方向は敵ではなく、中心だ。
森の奥、廃屋敷の庭園――――――見えないはずなのに、そこに“いる”とわかってしまう。氷の冷たさのような異様な気配が此処まで漂ってくる。本能がそこから逃げろと叫ぶが、作業が終わるまでは無理だった。あの小さな少女がそこまでの気配を放つことに驚きだが、今は気づかれないように警戒し、作業を終えることに集中する。
雪を少しだけ掘り、白いケースを埋めて、上から雪を被せる。その作業と被せるように折り畳みの白いスーツケースを体で隠しながら展開させ、取っ手を掴んで持ち上げる。まるで持ってきたスーツケースを持って帰っているように見せる。実行係はスーツケースが見つからないことを祈りながら、その場を離れた。
***
花園ひかりはトレイに置かれた魔法石を見ていた。
そこにある魔法石は今まで見たことがない色だった。透明なダイヤモンドに霜の膜が薄く張り付いているようで、研磨師がそういう模様をつけたのかと考えるような魔法石だった。この色をどう表現しようかと考えた所で、隣にいた日向こはるがマネージャーに聞いた。
「これ、何色なんですか………?」
「一応、便宜上は”白”ということになっている」
「”白”ぉ?」
橙原みさきが素っ頓狂な声を上げながら、その魔法石を手に取ってマジマジと見つめた。それに釣られるように他の魔法少女もその魔法石を見つめた。
「白い魔法石は初めて聞きますわ………」
「確かに………」
「でも、綺麗だねぇ!」
「そうだね!こはるちゃん!」
日向こはるが嬉しそうにそう言うと、花園ひかりは元気よく頷いた。表面に薄く張り付いている霜の膜によって、手の中の魔法石は硬い印象ではなく、冬の雪のような柔らかい印象を花園ひかりに与えていた。だが、そんな中、水城あおいは濁りのないそれを見て、ポツリと呟いた。
「………………反射が安定してるわ。怖いくらいに」
その言葉を聞いて、花園ひかりはもう一度、マジマジと見つめた。確かに、魔法石は中に白い光を内包しており、その光はちっとも掻き消されていなかった。静かな強さを、その魔法石は持っていた。
「この魔法石を使うの?」
「いや、その魔法石を割るんだ」
「「「「「!!!?」」」」」
マネージャーの言葉にプリズム☆ルミナ全員がバッと振り返った。そして、口々にマネージャーの言葉を確かめた。
「正気ですか?」
「正気だ」
「こんな、高純度の、魔法石を、壊せと?」
「そうだ」
「頭イカれた?」
「イカれていない」
「ご家族を人質に………」
「取られていない」
「改造されちゃった………?」
「改造されていない」
そこまで話し終えると、プリズム☆ルミナは一斉に円陣を組んで、こそこそと話し合いを始めた。
「連日の徹夜で頭がぶっ飛んだんじゃないか?」
「いえ、上からの再三の無茶ぶりに自暴自棄になった方が信ぴょう性があるわ」
「どう違うの?それ?」
「可哀想に………良い病院を探した方がいいでしょうか」
「私も協力するよ!」
「ぶっ飛んでいないし、自暴自棄にもなっていない。あと病院は探さなくていい」
彼女達の言葉を否定するようにマネージャーはそう言った。疲れたように額を抑えるが、プリズム☆ルミナのような反応を自分もしてしまっていたので、叱ることもできなかった。
「………………………その白い魔法石は“元から白かった”わけじゃない」
「は?」
「何を言ってんの?」
橙原みさきが精神異常者を見るような目でマネージャーを見た。マネージャーはやっぱり叱ろうかと考えた。
「元は低純度品だ。濁ってて、反射も鈍い………そこらに流通してるレベルの――――――」
「それが、こうなったってこと?」
「………………………そうだ」
声を絞り出すように、マネージャーは橙原みさきの言葉に頷いた。しかし、同時に話さなければいけないと考え、言葉を紡いだ。
「”冬の女王”の吹雪の“内縁”に仕込んで、一定時間放置して………回収した。これが、その回収物だ」
「これが………?」
花園ひかりが再び手に持っていた魔法石を見つめる。ただの美しい魔法石。だが、それが”冬の女王”の吹雪の内縁に仕込んで放置しただけでこうなるなんて。花園ひかりはそう考えた。
「………………………他にも、変化があった」
マネージャーの低い声が待機室に響いた。その声色だけで彼がその説明をするべきか迷っていたことを花園ひかりは理解した。
「回収地点の周りに、虹色に光る小さな石が大量に落ちていた………………粉じゃない。石だ」
「虹色の石ですかぁ?」
「そうだ。不純物が固められて外に押し出されたんじゃないかってのが、技術班の見立てだ」
「それじゃあ、吹雪に魔塵が含まれていないのって………」
「上が付けた呼称は”冬の女王”だが………ここは”雪の女王”と言った方がいいな。”雪の女王”の魔法は“汚れ”を整える。魔塵みたいなものすら、固めて外へ出す性質があるんじゃないかって推論が立てられている」
「だから、”雪の女王”なのですね………」
紫月ゆいが魔法石を眺めながらそう呟いた。彼女の目には絵本の中の”雪の女王”の情景が浮かび上がり、美しい霜の膜を通してその姿を彼女に見せていた。
「で、ここからがブリテンの“手順”だ」
「はい」
「この石を――――――あの”冬の女王”の近くで、割る」
「は!!!?」
再び橙原みさきの素っ頓狂な声が待機室に響いた。その気持ちを誰も否定できなかった。
「え、待って?待って待って待って?こんな上等になった石を、わざわざ壊すの???」
「壊す」
「嘘でしょ!!!?」
そんな絶叫が橙原みさきの口から飛び出した。しかしながら、その場にいた誰もがその言葉を口に出したかった。此処までの純度と安定なら、自分の性質と合っていなくても、高度な魔法を生み出せそうだったからだ。
「割った瞬間、この石に溜まった魔力が一気に漏れる。ブリテンは、それで”冬の女王”が混乱すると予測している」
「混乱………?」
「なんで混乱するの?自分の魔力で作られた魔法石でしょ?」
「ブリテン側は“自分の系統の魔力なのに濁ったもの”が近距離で噴き出せば、一瞬だけ、反応が遅れる可能性がある、と言っていた」
「これで濁っている………?この純度で………?」
「あの方が本気で作った魔法石がちょっと見たいですわね………」
紫月ゆいが興味深そうに呟いた言葉を聞いて、マネージャーは言いたいことがあったが、あえて飲み込んだ。それは、この国の根幹を揺るがし――――――――そして、その果ては、あの”冬の女王”を、永遠の”搾取”に突き落とすような現実だからだった。
「ただし、これは“若い魔女にしか効かない”とも言っていた。若い魔女は観察眼が未熟で、判断が遅れる。場の維持に意識が割かれているから、反応するだろう、と………」
「あー、確かにアイツ、私達とあんまり変わらなかったな」
「背丈なら、同じ年ごろだと思いますわ」
花園ひかりは紫月ゆいの言葉に心中で頷いた。確かに荒れた庭園に佇む彼女はそれくらいの年齢に見えていた。
「………………もう一度、聞く」
「は、はい………?」
「本当に行くんだな?まだ、引き返せるが?」
マネージャーはプリズム☆ルミナ達の目を見つめながらもう一度、聞いた。その瞳には多大な覚悟が宿っており、彼がその言葉を口にするための覚悟があることをプリズム☆ルミナ達は気づいていた。だからこそ、彼女達は笑って答えた。
「はい!行きます!」
「当然よ。行くわ」
「わ、私も行きます!」
「はい、覚悟はできています」
「ここで挫ける私じゃないよ!」
思い思いの言葉を口にしながら、プリズム☆ルミナはマネージャーにそう答えた。マネージャーはその言葉を聞いて、1つ微笑みを浮かべてから、言った。
「そうか、ならば――――――――プリズム☆ルミナ、出動だ!」
「「「「「はい!」」」」」
魔法少女達が再び戦場に立つことを決めた瞬間だった。
***
回収は、夜だった。
吹雪は弱まっていない。だが、暗いぶん視界が悪く、暗いぶん人の影は雪に溶ける。白い夜の中を、実行係の二名はライトを最小に絞り、埋めたスーツケースの下へ向かった。
「設置点、確認」
目印にしていた杭は残っている。そのことに安堵した瞬間、背中が冷えた――――――この白い夜を作り出した”冬の女王”が“見ていない”保証はどこにもない。急いで膝をつき、雪を掘る。指先が痺れ、手袋越しでも冷気が刺さった。数秒後、白いケースの角が見えた。その角を見て、ひどく安堵した。
「回収」
ケースを引き上げた時、違和感を覚えた。
――――――――軽い?
気のせいだと自分に言い聞かせる。だが、手応えが違う。中身が“落ち着きすぎている”。聞こえてくるはずの雑音が聞こえず、逆に振動を吸い込むような静寂を感じた。よくよく見れば、ケースの表面には霜が薄く張っていた。ただの霜ではない。細い線が絡み合って模様になっている。まるで、誰かが“編んだ”みたいだった。そのことに驚き、観察しようとした時、片方の声が響いた。
「今ここで開けるなよ」
その声が聞こえてきて、慌てて立ち上がる。すると、ライトの端できらりと何かが反射した。反射した何かにライトを当てて、その物体を確認した。
「………………何だ、これ?」
雪面に、虹色に光る小さな石が点々と落ちている。大小さまざまな石が落ちており、その中の大きい石をいくつか拾い上げた。氷より硬い感触が手袋越しに伝わる。その石を少し観察した時、その虹色の輝きがよく見知ったものに見えた。
「不純物………?」
そう呟くが、有り得ないと頭の隅に追いやり、ついでとばかりにもう1つ2つ石を拾い上げた。
「回収対象と一緒に持ち帰る。記録」
そう、通信機に呟き、”冬の女王”の視線に怯えながら急いで仮設の作業テントへと帰って行く。
――――――実行係は無事に仮設の作業テントへとたどり着いた。極度の寒さに晒され続けた体を温めて、生命の危機に至る程の寒さから急いで脱出する。そして、白いスーツケースを技術班に渡し、技術班は急いでその白いスーツケースを仮設のテーブルの上に置く。机の上に置かれたケースの音が、やけに重く響いていた。
「開封します」
技術班が留め具を外し、蓋を開けた――――――その瞬間、その場に息が出来た者はいなかった。中にある魔法石は、完全に別物になっていた。
濁りがなく、透明度が高い、光が綺麗に返ってくる………………白い光を内包して、掻き消されない。
「………………初めて見る。すこぶる純度の高い上等品だ」
技術班が好奇心に突き動かされて魔法石を手に取り、予め手元に置いていた検査器を押し当てる。そうすると面白いくらいに数値が跳ねた上に安定している。さらには雑音がほぼほぼなくなっていた。作戦が実行される前は確かに低純度品だったはずの石が、魔法少女用の石に迫る純度へ変化していた。
それと同時に、実行係が慌てて先ほど拾った虹色に輝く不純物を差し出してきた。技術班はそれを受け取り、一目見て解った。
「これは………不純物か?しかし、魔法石とは呼べるような代物ではないな?」
「スーツケースの周りに落ちていました」
「落ちていた?」
「はい。大小さまざまな大きさの同様の石を確認しました」
「スーツケースの周りに………?」
実行係が持ってきた虹色の輝きを放つ石を手に取り、光に充てる。そうすれば面白いくらいにその石は不純物の特徴を放った。それを見て、技術班は1つの仮説を打ち立てる。
「――――――不純物を固めて外へ押し出している?」
その言葉を技術班は上手く呑み込めなかった。そうだったら、”冬の女王”はたった一夜でその価値が反転する。打ち払うべき災害から、一転して――――――
「は、ははっ、ブリテンが魔女を保護する理由はこれか」
担当官は乾いた笑いを漏らしながら、その醜悪さに嫌気を覚えた。その言葉を誰もが否定することはなかった。
――――――――吹雪は、まだやまない。




