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なにこれ!?季節外れの大雪警報!




 花園 ひかりはルミナ魔法少女事務所に所属する魔法少女である。


 魔法石という魔法が使える摩訶不思議な石が世界に出現し、世界中の人々が魔法によって悪事を働き、それによって世界が混乱を極めた時、その抑止力として”魔法少女”が生み出された。花園ひかりはその”魔法少女”の1人として、数多の魔法少女を輩出して来たルミナ魔法少女事務所に応募して見事に合格し、魔法少女になった中学1年生である。まだ、半年くらいの見習い魔法少女だが、花園ひかりは今日も魔法少女として元気いっぱいに学校へ駆けてゆく………………のではなく、専用の登校バスに乗り込んで、同じ魔法少女チームの友達に挨拶し、今日も元気に過ごす――――――――予定だった。



「あ!雪!」

「え?今日、雪の予報って出ていたかしら?」

「いえ………そんな予報は聞いていませんわ」

「どーりで寒い訳だよ。あー、ホットパンツ履いてきたの失敗したぁー」



 花園ひかりはそんな友人達の言葉を聞いて登校バスの窓の外を見た。そこには白くて小さな雪がふわふわといくつも降っていた。この間、夏だったというのに、足の速い冬だと花園ひかりは考えた。でも、最近の季節はこんな所もあるので、すぐに花園ひかりはその雪を思考の外から外した。


 それが、未曾有の大事件の先触れだと気づいたのは――――――――街が僅か2時間で吹雪に包まれてからのことだった。




***




 花園ひかりはルミナ魔法少女事務所に呼び出されて震えていた。理由は簡単で、事務所の外で猛吹雪となっているこの異常気象の所為だった。



「ぜったいに許さん!!!」

「だ、大丈夫?橙原さん」

「寒くて死にそう!!!」

「そう叫んでいる内は大丈夫よ」

「で、でも………」

「さーむーいー!!!」

「先月まで夏だったからなぁ」



 夏基準の服をしていた橙原 みさきは、事務所の職員からもらった毛布に包まって「寒い寒い」と叫んでいた。しかしながら、他の魔法少女達もあまりの寒さに全員が毛布に包まって暖かいものを飲みながら寒さを凌いでいる。花園ひかりも毛布に包まり、もらったホットミルクティーを飲みながら、寒さを凌いでいた。花園ひかりがガタガタ震えながらTVを見ていると、TVのニュースキャスターが慌てたように言葉を口にしていた。



『こちら臨時ニュースです。――――――本日午後、○○地方に季節外れの大雪警報が発表されました』



 その言葉を聞いた花園ひかりは窓の外を見た。窓の外は今だに吹雪に覆われており、荒々しく吹く吹雪が止む気配は全くなかった。画面の中の都市部を映している画面の中では、夏の名残が残る街路樹が、白い粒に覆われており、車は動かず、人々は立ち尽くし、呆然としている人が多かった。



『現在、降雪は局地的に急激な増加を見せており、わずか二時間で視界がほぼゼロとなった地域も確認されています。外出は控え、どうしても移動が必要な方は――――――』

「えっ」



 その言葉を聞いて、花園ひかりは思わず声を上げた。近くにいた水城 あおいも、花園ひかりと同じように異変に気付いた様子で毛布に包まれながら花園ひかりの隣に座った。



「この吹雪が局地的………ですか?」

「みたい。マネージャーさんは何も言っていなかったよね………?」

「ええ、魔塵(まじん)の特徴もない吹雪でしたし………………魔法が使われた痕跡もないようですし。ルミナ☆コンパクトも反応なし。空気中に魔塵が舞っていない、ということね」

「ね。むしろ、綺麗な雪だったよね?」

「雪に綺麗もへったくれもあるか!」



 橙原みさきの吐いた言葉に花園ひかりは苦笑を浮かべ、水城あおいは呆れたような顔をした。そんな彼女達を刺すように、TVの中のニュースキャスターは叫んだ。



『――――――なお、原因は現時点で不明です。気象庁は“短時間の急変”として警戒を呼びかけています』



 その言葉に今度こそ、2人は顔色を変えた。そして、窓の外の吹雪をじっと見つめた。だが、魔塵の特徴である微細な虹色の粉がなかった。街灯の下に映し出される雪はどれもが白く輝いており、少し透明感が強かった。



「………………本当に、これは雪なのでしょうか?」

「やっぱりおかしいよ。この吹雪!吹雪の範囲がこんなに綺麗に円いのって変だよ!」



 花園ひかりが、水城あおいに向かってそう断言した時、事務所の扉が開いて彼女達がマネージャーと呼ぶ人が入って来た。



「プリズム☆ルミナ、揃っているか?」

「は、はい。全員います!」



 花園ひかりが立ち上がってそう言うとマネージャーは目頭を揉んでから、大きな溜息を吐いて言った。



「落ち着いて聞いてほしい………………君達に出動命令が下った」



 マネージャーの言葉を聞いて一拍、その場に全員の驚愕の絶叫が轟いた。



「市街地に何かあったのですか!?」



 そうマネージャーに聞いたのは日向 こはるだった。マネージャーは彼女の言葉を否定してから、頭を抱えながら話し始めた。



「救助はもう回っている。他事務所も含めて、魔法少女は飽和状態だ………君たちは今年デビューしたばかりだし、本来なら待機で正しい」

「え、じゃあ、なんで………?」

「吹雪の“中心”が動かない。市街地じゃない場所で、同じ速度で降り続いている。しかも、魔塵が出ていない」



 その言葉を聞いて全員がぽかん、と口を開けて呆然とした。だって、それはあり得ない現象だからだ。



「……コンパクトも無反応なのに?」

「だからだ。既存の分類に入らない。行政の回収班が動いた。ルミナ事務所として、現場に“所属チーム”が必要になった」

「所属………?」

「簡単に言うと、誰かが“責任”を持てという話だ………君たちが行くのは救助じゃない。調査と封鎖だ」



 そこまで言うとマネージャーは苦笑を浮かべながら簡単な任務だというように話し始めた。



「まあ、吹雪の中の魔塵もほぼない。むしろ、綺麗な雪だぞ」

「雪であることに変わらんじゃん………」

「ま、まあまあ、みさきちゃん。魔塵がないから、魔力の消費が抑えられるからいいことだよ!」

「そうね。こないだルミナ☆コンパクトの魔法石を変えてもらったばかりですし、それはありがたいことよね」

「でも、この吹雪の中を飛ばなくちゃいけないんだよ!?」

「それは………まあ………」

「ある程度、寒さは遮断されるからちゃっちゃっとやるわよ」

「ある程度じゃん!」



 橙原みさきの言葉に水城あおい以外の全員が笑った。ある程度、笑った所でマネージャーが締めくくるように言った。



「では、プリズム☆ルミナ――――――――出動せよ!」

「「「「「はい!」」」」」



 そうして、プリズム☆ルミナに所属する魔法少女達はルミナ事務所から託されたルミナ☆コンパクトを掲げて変身の言葉を叫んだ。


 ――――――――――ルミナ☆コンパクトは、相変わらず無反応のままだった。




***




 吹雪の中を走る車の窓は、外気との差で白く曇っていた。ワイパーが必死に雪を払っても、次の瞬間には視界が白に塗り潰される。普段だったら飛んでゆくが、外の吹雪があまりにも強いのもあって、今日は特別にルミナ事務所の車両を出してもらっていた。変身したこともあって、彼女達の身体を蝕んでいた寒さはなくなり、全員が動けるようになっていた。



「………………ほんとに、円いね」



 日向こはるがiPadに出される吹雪の範囲を見て、しみじみとした様子で呟いた。それに応じるように紫月 ゆいが上品な様子で同じように呟いた。



「でも、ルミナ☆コンパクトは無反応………ですわよね?」

「冬将軍でも居座っているんじゃない?だはははッ!」

「笑ってる場合じゃないわよ」



 水城あおいが冷静に橙原みさきにそう言った。すると、紫月ゆいがルミナ☆コンパクトを握ったまま、目を瞑った。



「どう?何かわかる?ゆいちゃん」

「境界があるのはわかりますわ………………でも、その中心部がよくわかりませんの」

「わからない?」

「ええ………まるで、雪が全ての振動を吸い取っているようですわ」

「確か、雪は周囲の音を吸収する性質があったわね………」



 紫月ゆいの言葉を肯定するように水城あおいがそう言った。紫月ゆいは目を開けて、握っていたルミナ☆コンパクトを仕舞ったのと同時に彼女達に命令が下った。



「到着だ。君たちは封鎖内に入る………勝手に中心へ近づくなよ?」

「えー!?」

「えー、じゃない。危ないことはなるべくするな。魔法少女とはいえ、君達はまだ中学生なんだから」



 マネージャーの言葉にプリズム☆ルミナ達は「はーい」と応えて、車の扉を開けた。扉を開けると、冷気が刺さった。その冷気で肌が痛い――――――――いや、音が痛い。吹雪の音が、耳の奥まで押し込んでくる。鼓膜がビリビリ震えて痛みを覚えた。魔法少女達はすぐに魔法の防壁を張って、中心部へと歩いていった。すると、彼女達の目に入ってきたのは………



「おおきい家だねぇ」

「………………人が使っている痕跡はないようね」

「廃屋ってヤツ?」

「おそらくは、」



 橙原みさきの言葉に水城あおいが頷いている間も、日向こはるは眼前にある大きな屋敷を見ていた。そんな中、通信機から情報を受け取った紫月ゆいが皆に声をかけた。



「みなさん、中心部はこの屋敷の庭園のようです!」

「庭園?」

「庭園………!」

「庭園があるのかよ………」

「どんな庭園なんだろうね!」

「楽しみだね!ひかりちゃん!」



 日向こはると花園ひかりがそう言いあったが、他の3人は顔を引き攣りながら、再びボロボロの屋敷を見た。



「このボロボロ具合でしたら、あんまり期待しない方がいいかと………」

「だよなぁ」

「まあ、夢を見るのは自由だから………」



 水城あおいがそう締めくくりながら、5人は中心部だと言われていた庭園へと向かった。庭園は思った通りにボロボロだった。伸び放題の薔薇達。今は凍り付いているが、この寒さでなければきっと真っ赤な色を見せていただろう。噴水もあるが、水は出ていなかったようで、底に枯れ葉が大量に積もっていた。元は立派だったであろう温室も、今は割れて中に雪が積もっていた。それを見た花園ひかりと日向こはるは静かに絶望し、他の3人は苦笑を浮かべるしかなかった。


 しかし、異変はすぐに起こった。


 彼女達が荒れ果てた庭園に1歩、足を踏み出すと彼女達の耳元で吹雪いていた吹雪が溶けるようになくなった。耳鳴りがする程の静寂に一瞬で包まれた事実に5人は恐怖を抱いた。



「なに、これ………」

「………みんな、慎重に行くよ!」

「隠れながら行きましょう」

「こわぁ………」

「こんなことが有り得るなんて………!」



 5人は思い思いの言葉を口にして、凍り付いた蔦の影や、朽ち果てた噴水の影などに身を隠しながら、中心部へと向かった。どれくらい、進んだだろうか。唐突に視界が開けた。そのおかげで5人の視覚にその光景は間違いなく入って来た。



「え、人………?」



 そこには、少女がいた。5人よりは何歳か年上であろう少女だった。少し青みがかった黒髪をミディアムヘアにしている少女が壊れかけている白いベンチに腰掛けていた。この寒さでありながら、真っ黒なハイネックと同色のズボンだけを履いており、見ているだけでも寒そうだった。



「頭おかしいんじゃないの………!?」

「この寒さであの恰好………?」

「コートが欲しいよぅ………」

「日向さん、大丈夫ですか!?」

「えっと、通信機の此処を………こうして………」



 花園ひかりがそう扱っていると、通信のスイッチが入った。途切れ途切れではあるが、マネージャーの声が花園ひかりの耳に入った。



『全い………じか………!?』

「マネージャー!」

「全員、無事です!」



 紫月ゆいが自分の通信機にそう言うと、砂嵐の向こうから安堵したような息遣いが聞こえた。



『良か………ん員、無事な………んだ。な………えて………る?』

「女の子がいます!」

『はぁ!!!?』



 花園ひかりの言葉で通信機の向こうが一気に慌ただしくなった。マネージャーも慌てているようで、砂嵐でよく聞こえないが、周囲の人間に何か指示を出しているようだった。



『そ………は、本と………か?』

「はい、本当です!今、映像を見せますね!」



 花園ひかりがそう言って専用のサングラスをかけて、縁の所にある小さなボタンを押した。そうすれば、マネージャーにも映像が向かったらしく、通信機から『う………ろ』と驚いた声色が聞こえた。



「マネージャー、これからあの子の保護をします!」

『は!?ま、待て!』

「この寒さの中であんな風に1人ぼっちは心細いと思うので早めの――――――」

『待ちなさい!』

「は、はへ………?」



 マネージャーの大きな声で言われた言葉に驚く花園ひかりをフォローするように水城あおいが花園ひかりの耳元で囁いた。



「こんな極寒な中であそこに座っていること自体が異変よ………ローズ、保護ではなく観察をし」



 そこで、少女が5人に気づいたように振り向いた。暗い灰青の瞳が5人を捉え、それと同時に通信機がぶつりと音を立てて切れた。



「ま、マネージャー!?」

「………………通信機は完全にダメね。でもサングラスは生きているようよ」



 水城あおいがそう言ってサングラスをかけ直した時だった。庭園の温度が急に下がり始めた。その変化は誰もが気づき、急いで少女に気づかれないように小さな魔法障壁を展開した。



「さ、さむぅ!?」

「大丈夫!?橙原さん!?」



 紫月ゆいがそう橙原みさきに聞くと、橙原みさきは暖を取る為に紫月ゆいに抱き着いたが、感じる寒さは変わりなかった。


 ギシッ


 その音が5人の耳に響いた。5人がハッと顔を上げると、今まで壊れかけのベンチに座っていた少女がこちらに来ていた。ゆっくりと新雪を踏んで、真っ直ぐにこちらに来ていた。だけど、それに反応する力が、体温が残っていなかった。

 最初は水城あおいが張った魔法障壁が、次は日向こはるが張った魔法障壁が、その次は橙原みさきが張っていた魔法障壁が、次から次へと力尽き、変えたばっかりのルミナ☆コンパクトの魔法石が耐え切れないように粉々に自壊した。紫月ゆいの魔法障壁まで粉々に砕け散り、最後に残ったのは花園ひかりの魔法障壁だけだった。力を振り絞りながら、胸元のルミナ☆コンパクトの魔法石から魔力を引き出し、魔法障壁を張って寒さに耐え切れずに地面に倒れた仲間を守る為に、花園ひかりは必死に魔法障壁を展開していた。そんな彼女を、眼前にまで迫ってきた少女が見つめて、ポツリと言葉をなげかける。



「よく来たね。こんな場所まで」



 それは普通の少女の声だった。何処にでもいる、普通の女の子の声だった。花園ひかりは朦朧とする意識を気合で維持しながら、魔法障壁が粉々にならないように力を込めていた。



「………君達が来るとは思わなかった。此処に来るのは武装した大人だと思っていたから………………おばあさまの話とは全く違って吃驚したよ………」



 少女が全てを言い切る前に花園ひかりの限界が訪れる。うつら、うつらとする花園ひかりに少女が屈んで話しかけてくる。



「弱くて、小さくて、1人では何にもできない子供達………だからこそ、君達はそっち側に立てたんだろうね――――――――かわいそうに」



 少女のその言葉と共に、花園ひかりの意思はブツリと途切れ、それと同時に魔法障壁が粉々に壊れる音が花園ひかりの鼓膜を響かせた。






















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