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星降夜譚  作者: 稲葉 鈴


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17.お昼の営業の準備をする。

 みんなで、お昼の営業の準備をする。私と星宇さんは、賄いの準備もするけれど、その前に皆で全体の下ごしらえだ。削いだり切ったりは俊宇さんがするけれど、お野菜を丸洗いするのは梓晴さんのお仕事。その梓晴さんのお仕事を私が手伝って、俊宇さんの方を星宇さんが手伝う。


 手が増えて、楽になったと梓晴さんは喜んでいた。重い荷物とかは、実は梓晴さんの方が持ってくれている。私より力持ちなので。


 けれどその力仕事は全部星宇さんがやることになった。私にはとても重い物でも梓晴さんにはそこそこ重い程度で、それはつまり星宇さんは、箱を二つまとめて持てる、という。



「力持ち……!」

「まあ、前の店では倍は運んでたからなあ」

「そういうのって、新入りの仕事じゃないの?」



 梓晴さんの問いかけに、星宇さんは苦笑を漏らした。



「新入りだからやるとか、ずっといるからやらない、とかはない店だったよ。免除されているひともいたけれど、じいちゃんより年上だったり」

「それはあんたが運びなさい」

「だろ? 後は足が悪いとか腰が悪いとかそういうひとたちだったから」



 大きな店だったら、皆で運んでしまった方が早いというのもあるのだろう。というか、この倍ということは、下ごしらえだって倍だったわけだ。


 大きいお店凄いな! でもそういえば、お昼開店でも、朝から仕込みをしていた店の前を、通ったことがあるような気がする。確信はないけれど。



「だからまあ、ここでも俺が運ぶよ。あ、怪我した時とかは頼むと思うけど」

「それは頼って欲しいです」

「うん、よろしく」



 お店の裏側、二階に上がる階段の下には裏庭に繋がる出口がある。その先に倉庫があって、届いた野菜とか肉とかは基本的にはそこに収められているそうだ。


 必要に応じて俊宇さんと星宇さんがその倉庫から運び出すことになった。調理を担当するひとが倉庫から食材を取ってくるのは、確かに理にかなっている。


 裏庭には井戸もあって、そこで私と梓晴さんで野菜を洗う。洗い終わった分は籠に入れて、梓晴さんが厨房の俊宇さんと星宇さんの所へ持って行く。私は水場周りを軽く掃除して、店内に戻る。なんとなく、そんな形に落ち着いた。



「じゃあ俺たちは餃子作るか」

「上手く包めるコツってあります?」

「数こなすことだな」



 やはりそうなるよな、という答えが返ってきたので、頑張ります、と答えた。他に答えなどない。ないよね?



「そっちでは、どんな具が流行ってた? なんか変わり種みたいなの」



 朝ご飯に食べた季節まんの話だろうか。それともサンドイッチの方だろうか。どっちも美味しかったけれど。



「餃子……お肉とキャベツとか白菜とかを切っていれるくらいしか。エビとかかにとかもありましたけど」



 そういえば、食材の名称もちょっと違いがあるみたいだった。名称というか、キャベツっぽい何か、みたいに感じられる。それでもキャベツで通じるからありがたいんだけれど。自動翻訳をされている感じ。


 だからもしかしたら、細かいニュアンスなんかはずれが生じるかもしれないけれど。でも正直、それは同じ言語を使っていても生じるわけで。気になるならそうならないように言葉を選ぶしかないわけだ。選べるかどうかは、別の話として。



「その辺はこっちにもあるな。海産物はあまり使えないけど」

「近隣に川とか海とか無いですもんね」



 少なくとも蔡郭の近くには海も川もない、と聞いた気がする。他の場所は知らない。


 妖精様の暮らす常夜の森があって、その周りを郭が囲んでいると聞いた。蔡郭の辺りは、原っぱだという。だから、蔡という名前の街になったと。蔡って、草がぼうぼうと生えているさまをあらわす文字なんだそう。そんな言葉知らなかった。



「そうだなあ。味付けはどうだ?」

「鉄板はニンニクとショウガかなあ」



 私が好きなのは前に何かのレシピで見た粒マスタードたっぷりなんだけれど、果たしてここに粒マスタードはあるのだろうか。偏見で申し訳ないんだけれど、粒マスタードってもうちょっとこうヨーロッパ系の調味料じゃないだろうか。洋からし、って言った気がするし。



「大差ないんだなあ。じゃあ辛い奴とか? でももうすでにありそうだしな」

「配合とかを変えてみる? 粒マスタード多めのが好きだけど」



 あと餃子に入れたことはないけれど、はちみつと混ぜるハニーマスタードなんてものもあるよ、と、教えてみる。餃子に合うかどうかは知らない。唐揚げにはあうけど。



「やってみるか?」

「え?」



 賄いというのは、そういう。なんと言うか、挑戦する場であるらしい。大量に作らないで、ひとり一つ程度ならいけるだろうというものを。


 自信ないのでやめて欲しい。


 なので今日は、普通の餃子を作ることにした。一つずつ、改変していくべきだと! 思うので! と強弁した。


 星宇さんが修行したお店の味を作って、それを食べることにした。なので皮から作ります。


 考えてみれば、スーパーでまとめて買うような代物ではなかった。売ってないなら、作るのである。



「そういうお店があるの? 便利ねぇ」

「利便性を追求した結果、ですかねえ」



 こちらにも食料品店はあるし、美恵さんと行った。大型ショッピングモールみたいなのはなかったので、その話をしたのだ。あると便利なんだけれど、かく言う私も数えるほどしか行ったことがないような気がする。どうなんだろう。実際の所は分からないけれど、あまり行っていないのは確かだと思う。



「ばあちゃん、小さい匙ある?」

「あるわよ。どうしたの」

「茜ちゃんが包むの下手な理由が分かった」

「なんであんたも茜ちゃんって呼ぶの」

「呼び捨てはまずいかと思って」



 台所で俊宇さんのお手伝いをしていたらしい梓晴さんが、小ぶりの匙を持ってきてくれた。お礼を言ってそれを受取る。



「じいちゃんとばあちゃんの真似して、でかい奴で皮に餡を乗せるから、大きさが分からなくなるんだ。小さい匙を使うと調性も効くから」



 星宇さんはそう言って、その大きな掌に餃子の皮を乗せて、小さいスプーンで何度にも分けて餡を乗せた。


 多いなと思ったら削ればいいと言われてふんふんと頷く。まったくもって、その通りでした。はい。

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