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星降夜譚  作者: 稲葉 鈴


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13/19

11.私たちは岐路についた。

 お買い物を終えて、堪さんの所で少しお話をして。私たちは帰路についた。


 あの日の私の感覚と、それからこちらで梓晴さんが見た情報。あの、竜巻の話。そこに差異があることについて、少し調べておいてくれるとの事。


 あの堪さんの部屋ではなくて、他の場所に書庫があって、そこにもうちょっと詳しく書いてあるものもあるかもしれないから。との事だった。


 まあ昨日の今日だし、堪さんもそこまで情報集めていないだろうな、というのが私の感想である。だって通常業務もあるんだし。



「崖から落ちるのは、無いわ」

「でも無事って言うから怖いわよねえ」



 いくつか聞いたおとぎ話のような話が、帰路の話題である。似たような話を、そういえば昔聞いたような気がするけれど。どうだろう。



「でもああいうお話、私のいた所にもあったような気がしますよ。詳しくは覚えてないんですけど」

「どこにでも似たようなのはあるのかしらね」

「茜ちゃんが知ってるのは、どんなお話だったの?」

「ええと、崖から落ちたら家があって? なんかあって帰ってきた、とかそういう」

「崖から落ちた方のお話!」

「でもそうよね。来訪者がいらっしゃったってことは、帰還された方が、そちらにお話持って帰るわよね」

「そうねえ」



 そう。


 私が知っているお話は、崖から落ちて怪我をして、何も無いはずの崖下には集落があって、そこの大きな家に担ぎ込まれて、お嬢さんと恋をして、みたいな話だった。気がする。詳細は覚えていない。子供のころに知った話なんて、そんなものであると言いたい。いやまあそれ以外についても覚えてないんだけれど。



 美恵さんとは中央広場で別れた。息子さんたちが帰宅される前に、帰宅したいとの事であった。私は梓晴さんと一緒に慧琳広場に行く。そこにある洗濯屋さんに、今日買ってきた服と肌着の洗濯をお願いするためだ。


 自宅で洗濯が出来なくもないが、梓晴さんはお店を営んでいるため、お願いしているという。ちなみに昨日もらった新しい肌着、というのは、以前購入した際にこの洗濯屋さんで洗ってもらってから、保管してあったものであったという。


 それからお店に戻って、私も梓晴さんも出かけていたので着替えをする。いくら道路が舗装されているといっても、埃はそこらに舞っているので。その状態で、飲食店で給仕をするわけにはいかない。お客さんたちは外からきている、と言っても。やっぱり、こっちの気持ちとして。



「お帰り」

「ただいま」

「戻りました」



 必要な仕込みは終わっていたのか、俊宇さんはお店の中にある椅子に座っていた。椅子に座って、新聞のようなものを読んでいる。堪さんの部屋には沢山の本棚があったから、もちろん官吏である堪さんが特殊かもしれないけれど、学校もあるというし、識字率も高いのだろう。


 今は多分、昨日私がこっちに来たのと同じくらいの時間だろう。まだ、暗くはなっていない。


 そう考えると昨日の夜は申し訳ない事をしたと思う。夕飯時のお客さんが一番多いと言っていたのに。



「まだ時間はあるから、急ぎなさんなよ」

「ありがとうございます」



 階段を登って、それぞれの自室へと向かう。その背中に、俊宇さんが声をかけてくれた。


 確かにバイトに遅刻しそうなのとは、訳が違う。開店時間、多分もうちょっと後だし。出勤時間には間に合ってるのに、ここから慌てるのは確かにちょっと違う。慌てるよりも、丁寧に。かな。いや、丁寧にも何も着替えるだけなんだけれど。


 部屋に戻って、しかし置く荷物はない。全部洗濯屋さんに渡してきた。朗らかなおばちゃんだった。そもそも私は鞄も時計も家の鍵もお財布も持っていない。そういえば何か持っているかとか、聞かれもしなかった。来訪者は着の身着のままのことが多いんだろうか。


 部屋には籠が一つあって、そこにワンピースを脱いで入れる。箪笥から出した新しいワンピースに袖を通した。ブルーグレーの落ち着いた色である。美恵さんが若い頃に着ていたものだそうだけれど、かなり落ち着いた色だと思う。襟元にあしらわれているのは黒くて細いリボン。大分大人っぽいイメージだ。今の私には、ちょうどいいかもしれないけれど。


 着替えて階下に降りて、テーブルを拭く作業を開始する。と、その前に、俊宇さんからお茶を貰った。確かにちょっと喉が渇いていたので、ありがたく貰う。寒い季節でもないし暑い季節でもないのに、温かいお茶が喉を落ちていくのが、すごく心地よい。



「うちは、まあそんなに繁盛してないからな。満席になんてならないから、多分暇だよ」

「そうなんですね」



 それは実際にその通りで。


 いやお客さんはそれなりにやってきた。私を見に来たひともそれなりにいたと思う。


 それでも、二人掛けが二つに、四人掛けが二つ。全部は埋まらなかったけれど、大体どこかに誰かが座って美味しそうに食べていた。お客様をご案内するのに、待たせなくていいのは、いいことかもしれない。



 なんか本当に、昨日閉めさせてしまったのが申し訳ない。多分梓晴さんも俊宇さんもお客様も気にされないだろうけれど、私がちょっと、申し訳ない気持ちになる。


 それはまあ、働きで返せばいいかな。

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