仮面舞踏会ではないのに仮面を着ける伯爵令嬢は王太子の婚約者
第7回小説家になろうラジオ大賞参加作品です。
【キーワード 舞踏会】
王立学園の舞踏会は終盤に入っていた。
特に注目を浴びたペアもなく、みな思い思いにダンスしたり、休んだりしている。そんな中、公爵令嬢のアンは気づいた。
(王太子殿下が一人でいる!)
リアム王太子。眉目秀麗にして、学内成績は2位という俊秀。当然に将来を嘱望されている。
リアムが誰を婚約者に選ぶか? その話題で社交界はヒートアップした。そして、リアムが選んだのはちんちくりんの伯爵令嬢メアリだったのである。
社交界は騒然となった。中でも王家と並ぶ名門、筆頭公爵家の令嬢であるアンは怒り心頭となった。
近年、急速に発展しているとは聞くが、爵位の低い伯爵家の出身。地味な黒髪に幼児体型。
(あのような娘が王太子殿下の婚約者なんておかしいですわ)
そう思うアンに千載一遇のチャンス。アンは王太子に近づくと声をかける。
「あの殿下。私と踊っていただけませんか?」
ジャジャーン
途端に音楽が変わる。場が騒然とする中、壇上に一人の女。仮面舞踏会ではないのに仮面を装着している。
「壁に耳あり。私はメアリ。マスク・ド・メアリ参上。アン様。婚約者のいる男性をダンスに誘うのはご法度ですぞ」
毒気を抜かれ、その場は引き下がったアン。しかし、これで諦め切れるわけもなく、リアムが一人になる度に誘いをかけた。
だが、その度に何故か舞踏会でなくてもマスク・ド・メアリが出現し、アンの野望をくじくのだった。
業を煮やしたアンは取り巻きを別室に集めた。
「正攻法では駄目ね。貴方たちメアリに嫌がらせをしなさい。それに、メアリの悪い噂を流しなさい」
「アン様。それだけはご容赦を」
「メアリ嬢怖いですよ。何しでかすか分からないし」
「何なんですか? マスク・ド・メアリって」
取り巻きの弱気に憤ったアンだが、それだけ変人であるメアリはいずれ公式の場でぼろを出すと思い直し、その時を待った。
ところが、あにはからんやメアリは見事に社交をこなしたのである。そのことなどから次第にメアリは社交界から認められだした。
「ようやく僕に声をかける女性もいなくなった。ありがとうメアリ」
礼を言うリアムにメアリは笑顔を見せる。
「思惑通りに事が運んで何よりですわ」
「それにしてもみんな僕の学内成績が何故いつも2位か分からなかったのかな。1位をとれなかったのはメアリがいるからだって」
「そのことはもういいじゃありませんか。それより……」
リアムは上目遣いに自分を見るメアリをそっと抱きしめたのだった。
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本企画には他に「王太子妃は転生先で夏の暑さと戦う(風鈴)」
https://ncode.syosetu.com/n5448ll/
という作品で参加しています。
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