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ヒグレのクニ  作者: L
一章 ようこそ、ヒグレのクニ
7/27

六夜「救援」


久遠たちは、全力で走っていた。

理由は当然。


「走れ走れ!!!!」


敵に追われているからだった。

怪物たちの足音が集中する。

たとえ、敵から狙われていなくても自分たちはこの場所から即座に逃げようと考えただろう。

それほどまでに、胸騒ぎのするような騒音が広がっていた。


「急いで久遠くん!」


氷月の顔は、明らかに焦っていた。

対応しきれない異常に、彼女の精神は摩耗していた。

呼吸もそれぞれ乱れている。

息が浅く、しっかりと呼吸ができていない。

精神の焦りが、体力の消耗を加速させた。


「レイ!」


氷月と天谷は、久遠を引っ張る。

全員体力に余力があるわけではなかった。

だが、この場でもっとも体力を消費しているのは確実にレイだ。


「……っ」


レイからすれば、凄まじい違和感だった。

怪物にとりこまれてからの記憶が薄い。

なにかと戦っていたことはうっすら覚えていてもそれは当人の感覚ではない。


「体がいたい……」


それは、打撲や切り傷の痛覚ではなかった。

全身が軋むような。

そういった変化の過程。

自分の体に何が起きているのか。

レイには理解できなかった。


「……っ」


ただ天谷は、別だ。

怪物へと変化したレイを止めるためとはいえ、攻撃を与えてしまった。

レイの体力の消費は、自分のせいだと抱え込んでいたのだ。


「レイ!!もう少し頑張れ!!!」

「ああ!!ごめんな!天谷」

「謝んな!!」


天谷の言葉を受けて、レイは足に力をいれる。

先ほど怪物にとらわれた自分を助けてくれたのは、この二人だと。

説明なんていらない。

そう理解できていた。

助けられて。

また足手纏い。


「……ダメだろ」


この異様な場所。

物語のような怪物。

氷月のみせたような異能力。


「まだ僕は……この場所をみたいんだ……」


非日常が、レイの神経を鼓舞していた。

歓喜していた。

この居場所を自分は欲しがっていたのだと自分は理解できたのだ。


「ほんとに?」

「うっ……」


激しい頭痛が起きる。


「私のこと、思い出せた?」

「う、うるさい……」


耳元から、知らない女性のことが聞こえる。

夢の中にでてくる女の子のものと同一だった。

そして、怪物に呑み込まれるときに見た幻覚。

あの時の夢に近しいものを感じ取っていた。


「しっかり思い出してね」


頭痛と幻聴が消えた。

天谷は、そのレイの異変に気が付く。


「大丈夫か?」

「……ああ」

「……っ」


氷月は、さらに焦る。

レイも天谷も、まだこのクニに慣れきっていない。

精神や、肉体的なストレスは無意識のうちに溜まっているはずだ。

こんな状態で、敵との戦いを続けられるわけがない。


「……私が……っ」


怪物へと変化したレイとの戦闘を圧倒できるほどの実力があれば。

そう感じた。

強く拳を握るなかで、ふとあることが思いついた。

人型の怪物はなんだったのだ。

それは、レイへの疑問だった。

あの怪物が、特別だったのか。

それとも久遠レイが特別だったのか。

それになぜ、変化が解けたうえで平然と今動いている。

疑問を持つことが止まらなかった。

答えを出すことを彼女の脳自身が求めていた。


「まさか……」


思考が、しっかりとまとまり言葉に変化する前に邪魔が入った。


「みんなぁ!!!侵入者はここにいるぞぉ!!!」


走って移動する度に、テレビが点灯する。

そのちらつく顔に、天谷は苛ついた。


「うるせえな!!!」

「集中して!!!捕まったら三人とも終わりよ!」


天谷に対して、注意はしたが氷月は自分もそうだと考えた。

今は、集中するべきだ。

ともかく逃げることが先決。


そのとき、氷月の電話がなる。

はっと、氷月が驚きの顔をする。


「……!」


そうだ。

そもそもここは電話が使えるのだろうか。


「ここって電話繋がるの!?」

「ちょっと黙って!!!」


焦りと怒りが混じる。

レイは、その勢いに気圧された。

走りながら、氷月はその電話に応答する。


「箱根さん!!!」

「ひっ……!?」


氷月は、大声でその電話の主を圧倒する。

電話越しの男性は、明らかに怯えている様子だった。


「大声だしてさ……ひ、氷月ちゃん遅いじゃん……?どうしたのかな……て」


それは、柔らかい男性の声であった。

しかし氷月は、その強い口調を治さなかった。


「イレギュラーが起きたんです!助けにこれますか!?」


今現在の状況を、ていねいに説明する余裕はない。

ただ助けを求める。


「イレギュラー?氷月ちゃんにしてはめずら……」


箱根と呼ばれた男性は、イレギュラーという言葉に反応する。

氷月のことを信頼しているのだろう。

自体がそこまで重いものだと判断していなかった。

しかし氷月にとっては、そんなこと関係はない。

いまは数秒を争う事態だ。

助けにこれなければ諦める。

だが、助けにいけるならとっととこい。

彼女はそれぐらいの勢いで声をだした。


「助けにこれるんですか!?どっち!!?」

「わ、わかった。念のためもう……不動と百合を送ってる」

「早くしてください!」

「そ、そんな怒らなくてもよくない?そんなやばいの?」


当然、箱根は氷月たちの状況をしらない。

現状の理解のために、改めて聞いた。


「一般人二人がいるんです!それにクニの主に発見されました!私では、守り切れません!!!」

「あ!?」


氷月は、端的に説明する。

明らかにキャパオーバー。

氷月の焦りは男性にも伝わったのだろう。


「わかった!!急ぐように伝え……」

「ちっ」


氷月は、電話を途中で切った。

天谷はその様子をみて苦笑いをした。


「ひっでえ」

「うるさい。会話する余裕がないのは、事実でしょう?」

「そうだけどさ」


なんか思春期の父親ってこんな対応されるのかなと少し哀れに思った。

電話の男性は、いまどんな顔でスマホをみているのだろう。


「そこを右よ!!」


氷月の指示通り右に曲がる。

三人は困惑した。


「え……」

「嘘」


そこは、多くのテレビが積み立てられ壁となっていた。

天谷とレイは委員長の顔をみる。

氷月の顔は、青くなっていた。


「委員長……これは……」

「あぁあ!!!くそっ!!!最悪!!!」


最悪のしくじりをした。

場所がばれているのだから、妨害なんてされて当然だ。


「なんで……そんなことも思いつかなかったの……私」


時間をかければ、その道は通れるだろう。

でもその時間は。


「追いつかれる……」


もうすでにない。


「……」


らぶと自称していたアイドルの女はこちらの状態を把握していた。

当然その位置も。

ならば、氷月が移動に使っていた道も把握していて当然だ。

必死に逃げさせて。

一瞬の余裕ができたところをつぶす。

天谷は、その行動に嫌悪を感じ取った。


「なんかこういうの気持ちわりいなあ……」

「天谷君どういうこと?」

「自分が偉いと勘違いしてる屑の思考だ」

「……」


自分は屑だからこそわかる。

底辺なりに下をみたいのだ。

自分以外の劣った誰かが、慌てふためいて苦しむさまをみたい。

下が下をみる視線。

天谷は、それを過去に体験していた。


「ま、俺みたいな底辺にしかわからねぇよ」

「天谷。やめろよ。それ。……お前はそうじゃないだろ」

「へへ……わりぃ」


天谷は、氷月に問う。


「どうするいいんちょ?」

「ど、どうするって?」

「頭は、委員長が使ってくれ。俺は肉壁だ」


氷月は、後ろを振り返る。

既に怪物たちは三人を包囲していた。

よだれを垂らすように、怪物たちは三人を観察する。


「やっばいなぁ……」


怪物たちが、先ほど走ってきた道から這い出てくる。

怪物は、眼をギョロギョロと縦横無尽に動かす。

その人間の眼で人間らしくない動作に嫌悪感が湧く。


「……私がやるわ。最後まで抗ってやる」

「ははっ……かっこよすぎ」


氷月は、刀を握り前にでる。

とても同年代の女の子とは思えない。


「僕も……」

「レイ」


自分の体に何が起きたのか。

今でもわかっていない。

でもあの万能感を手に入れることができれば。

僕は、こいつらを倒すことができる。


「ぐみ……」

「!?」


後ろのテレビが光る。

その画面には、らぶは映っていなかった。


「またあいつかよ!」


それは、音をつなげてぶつぶつに加工したような音声だった。

映像が壊れているのではないかと疑うほど、その音声は歪だった。


「グ……」


その声に対して、怪物たちの動きは止まった。

その声の続きを待っていた。


「ぐ……みん。さがっ……て……ね」

「……あ」


怪物たちは、後退していく。


「あれぇ!?」

「……なんで?」

「……これって。合成音声だよな?」


それは連続した声を、ぶつ切りにしてつなげたような違和感があった。

だが、怪物たちはその声に明らかに反応していた。

レイは、この声が合成されたものであることに気が付く。


「機械音声みたいな?」

「うん……ともかく加工される」


その声は、まだ続いた。


「も、う、いいから」

「あ……ああああ」


怪物たちは、視界から消えた。

気配が離れていくのを感じる。


「なんだったの?」

「もう終わったのか?」


天谷と、氷月は警戒心が消えていなかった。

レイはテレビをじっとみる。

そうしていると、また別の声が聞こえた。



「よかった……間に合った……」

「!?」


それは、おとなしい少女の声だった。


「君は……誰?」


だが当然テレビだ。

音声のやり取りはできない。

その声の主もそれを理解しているようだ。


「ごめんね、君の話は私には聞こえない。三人……かな?二人近づいているけど」

「……なんでそこまで!?」


二人近づいている。

その言葉に、氷月が一番衝撃を受けていた。


「……もしも……もしもまたこの場所にこれるなら……わたしを……探して」


テレビはそこで、切れた。

そして即座に、彼女はまた映った。


「はぁ!?はぁ!?はー!!!????」

「やっぱりうるせぇ。こいつ」


らぶは、切れていた。

これ以上ないくらい怒りをみせていた。

そのアイドルのような姿で怒りをみせると違和感が凄い。


「なんで!?生きてんの!?怪物たちからどうやって逃げたの!?」


らぶは地団駄を踏んでいた。

そして画面の向こう側のレイたちに対して、指をさす。


「ふざけないで!?次は絶対……!」

「五月蠅い」


画面から手が突き出される。

液晶が、砕けてそこら中に飛び散った。


「うわぁ!!!?」


レイは大いにビビった。

当然だ。

アイドルの衣装をがん見していたら、成人男性のいかつい手が飛び出してきたのだから。

男性は、手を引き抜きこちらを覗き見る。


「なんなの、この人」

「だれだ……お前?」


天谷は、その男性を睨みつける。

黒髪の短髪の男性は、天谷の眼を視認してどうでもよさそうに無視をした。


「おい?ガンつけてんのに無視……」

「やめて。天谷君」


テレビの山が崩落する。

その男性が、崩したのだ。

砂埃が激しい勢いで、三人を襲った。


「うぇ……」

「げほげほっ……」

「もっと大人しくやってくださいよ」


氷月は、その男性を知っているようだ。


「遅いから様子を見に来てみれば……」

「なにしてるの、氷月」


そこには、黒髪短髪で筋骨隆々の男性と白いパーカーを被った金髪の少女が立っていた。

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