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ヒグレのクニ  作者: L
一章 ようこそ、ヒグレのクニ
6/26

五夜「覚醒」


「ここで、決めてやるよ」


天谷は、自らの拳をぶつけあわせる。

そして、【ヒグレのクニ】はそれに答えた。

暴風が舞う。

周囲から真っ黒な泥が集中する。

それは、天谷の拳に集中した。


「嘘……?」


氷月は、その光景をみて驚愕する。

自分が能力を得るきっかけは、周囲にそれを知っている人物がいたからだ。

だが、自分はまだ彼に何も伝えていない。

能力が欲しい。

そう思うだけで、この世界に適応した。

その光景をみて、氷月は黙ってしまった。


「見せてやるか、ワンラウンドko」


天谷の拳には、鉄の籠手がついていた。

天谷は手のひらを広げたり閉じたりする動きを繰り返す。

動きに違和感はない。


「最高じゃねぇか」

「随分喧嘩慣れしてそうね」

「昔な。レイと関わってからはしてねぇよ」


まさか都市伝説の世界でも、グローブもどきを身に着けるとは思わなかったが。

高揚感が、天谷の中で疼きだした。


「なんでも役にたつもんだなぁ。レイ」


怪物となり果てた友人に、立ち向かう。

怪物は、天谷の能力をみて全身を結晶化させる。

彼も警戒しているということだろう。


「はっ……」


スイッチは既に切りかわっていた。

ここは普段なれたリングの上。

既に彼のルーティンは始まっていた。


「俺ら喧嘩なんてしたことなかったよな、レイ」


フットワークでリズムを刻む。

一定の間隔で、手首を振った。


「ボクシング?」


天谷は防御姿勢を取りながら、怪物に接近した。

怪物はそれを視認し、足元に手のひらを置く。


「それはもうみた」


一歩下がり回避する。

そして目の前に広がった黒い結晶を破壊した。


「脆いな」


つぎつぎ目の前に出現する。

細かい呼吸でリズムをとる。

ジャブで一つ一つ丁寧に処理をする。


「歯。食いしばれ」


そして確実に接近していた。


「必殺の右ストレート!!!!」


腰を廻し、ふとももで勢いをつくる。

顔面に拳を叩き込んだ。


「あ……っああ」


怪物は吹き飛ばされた。

怪物がもがく。

脳への衝撃は、回復することができないようだ。


「きって治るなら、頭ぶったたきゃいい」

「暴論ね」

「でも苦しんでるぞ?」

「一応久遠くんだってわかってる?」

「あ……」

「最悪ね」


怪物は、空中に黒い結晶を配置する。

そしてそれを天谷に飛ばした。


「無駄よ」


天谷の目の前に、氷月は氷の花を展開させる。

衝突し、お互い崩壊した。


「もう耐久性は知っている」

「流石」


天谷は、さらに接近する。


「とどめはもらうぜ」


顎への一撃。

怪物の膝が落ちる。


「じゃ、一旦寝てろ」


腹に一撃を与える。

その一撃で、怪物の全身にヒビがはいった。

泥が崩壊する。

人型の怪物は、地面に倒れこんだ。

泥が崩れていく。

その中に、レイの姿はあった。


「レイ!!!」

「久遠くん!」


天谷は、レイの傍に駆け寄る。

意識を確認するが、まだ失っている様子だった。

思ったよりぶん殴ってしまったけど、大丈夫なのだろうか。


「戻るのか?」

「わからない。けど、私の知り合いの力を借りれば大丈夫かもしれない」

「大丈夫かもしれないって……」

「ごめんなさい。今回に関してはわからないの」

「おい……レイに関してふざける余裕はねぇぞ?わかってんのか?」


【ヒグレのクニ】を知っている知り合い?

それは、能力なのか。

いくつか聞きたいことはあった。


「本当に今回の出来事は、私にも対処できないものだった。でかい口をたたいてしまってごめんなさい」

「……あー。俺も悪い。ごめん、焦ってた。それはいいんだ」


しかしここでそれを問いただしても意味はない。

今は、レイが助かるのであればそれでいい。

様々な疑問を頭の中から消した。

天谷は、レイを抱きかかえる。

ひょいっと軽く持ち上げるので、氷月はじっと見てしまった。


「お姫様ね」

「委員長にもしようか?」

「絶対いや。お断りね」


氷月は、能力を解除した。

空中に浮遊していた氷の花は、砕けて水分となって地面に零れ落ちる。

服を整えて、精神を落ち着かせる。

髪も乱れていたが、彼女はきれいに整えた。


「見苦しいとこみせちゃった。……足手纏いになってしまったわね」


能力を持っているからといって過信した。

まだ能力に目覚めたばかりの天谷に今回は頼り切ってしまった。

しかし天谷は、それを咎めなかった。


「次期待してるよ、委員長。今回は俺の覚醒ぱーとだから」

「覚醒パート?おかしなことをいうわね」


ふふっと氷月は優しく笑う。

天谷は、その顔をみてあんぐりとしてしまう。


「なによ」

「いや、委員長のそんな顔初めてみたなって……」

「斬るわよ」

「いやこえーよ」


物騒すぎる。

しかも怪物を斬り倒すのをみたばかりだ。

とても冗談には思えない。


「天谷……?」

「お!!レイ!!目さめたか!?」

「う、うん。それはいいんだけど。なんで僕は天谷にお姫様だっこされてんの?」

「貴方がお姫様だからよ」

「ど、どういうこと?」


自身が、お姫様抱っこされていること。

加えて委員長が当然のように会話に参加していることにレイは困惑する。


「委員長は……なんでここにいるの……?」

「何があったか、覚えているか?」

「食われてからあんまり……ただ」

「ただ?」

「刀を持った委員長と、グローブをつけた天谷にボコボコにされたことだけは……」

「うん、だいぶ覚えているな」

「うん、大丈夫ね」

「え?え?」


何が起こったというのだ。

自分にはなにひとつ説明はないのか。


「あ、あの教えてもらえませんか?」

「人には知らないほうがいいことだってあるんだ。レイ。忘れろ」

「お前絶対おもったより殴ったよな?」

「どうしようこれ、委員長」

「貴方が悪いわ」


凄い顔が痛い。

戦った記憶はないはずなのに、天谷に対する苛つきが止まらなかった。


「久遠くん、貴方に話したいことはたくさんある。でも今は、この場所を出ましょう」

「……まぁ……それには賛成だけどさぁ……」


不満なことがたくさんある。

やたら痛む顔と体。

絶対にこれは、あの怪物に食べられたことが影響していない。


「まずは脱出を目指しましょう」

「道はわかるのか?」

「構造は基本的にはかわら……」


そう彼女が説明をしようとした途端。

複数あるテレビのモニターがついた。


「……まずい!!!」

「なにが?」


テレビの声を聴いて、彼女は顔を青くした。


「天谷君。久遠くん。ごめん。脱出はかなり難しくなった」

「は!?」


どういうことなのだろうか。

この状況で、テレビがつくことにどんな問題がある。


「おはよぉぉ!こんちは!!!こんばんわぁあぁ!!!みんなぁ!!!!」

「【クニ】の主に気が付かれた……っ!」

「主……?」


その声は、甲高い声だった。

まるで配信者か、アイドル。

そういった人前にでるような職業の声をしていた。


「なんだこれ……」

「みんなのアイドルぅ!らぶ♡きゅんだぞ!!!」

「うわきつ……」


ゴスロリの服をきた十代後半の少女がそこに映っていた。

メイクは派手だが、素の顔の良さがしっかり理解できるものだ。

画質の悪さを除けば、普通にネットで配信されているものと同質なものだろう。


「ぐみんちゃん共―。元気かぁ?」

「らぶきゅんーー!!!言いたいことがあるんだよー!」

「おお、元気だねぇ」

「壊してぇー」

「駄目よ。見終わってからね」


これはあれか。

ファンのネームが、「ぐみん」ってことでいいのか。


「馬鹿にしてんのか?こいつ」

「なんか吐き気してきたんだけど」


目の前で起きていることの馬鹿馬鹿しさに天谷は困惑していた。

先ほどまで命のやり取りをしていたのに、こいつは何をしているのだろう。

そう言った感情が湧き出ていた。


「そうじゃないけど……いまこの場所でもっとも力を持つのは彼女」

「どういうことだ?」


氷月の言っていることに、いまいち要領がえない。

説明されていることはわかるが、到底そうとは思えない。


「みてればわかる。というか見なきゃ危険」

「……ま、みてみるか」


氷月は、テレビを継続してみることを促す。

天谷もそれに対して否定をしなかった。

現状をしるためには、情報が少なかった。

たとえテレビで、バカみたいな恰好をした馬鹿みたいな女が叫んでいようとそれを確認するべきだと判断したのだ。


「どうやらねぇ。僕の【クニ】に侵入者がいるみたいなんだよ」

「!!!!!」


天谷は、その言葉で衝撃を受ける。

侵入者?

どう考えても俺たちのことじゃないか。


「はぁ……タイミングがいいと思った」


氷月は、この内容のことを既に察していたようだった。


「……わかるのか……こいつは。こっちがしていることを」

「わかるの」

「入るまではいいんだけど、散々暴れられてそろそろ苛ついてたんだよねぇ」

「……おい、なにかいいだしたぞ」


次に何を言われるか。

天谷は、背中が冷たくなる感覚を覚えた。


「今回配信するのは!!侵入者の殺害に成功できるか、どうか!!!乞うご期待!楽しみにしてね!ぐみんども!」


テレビが切れた。


「おい、これ」

「そうね……」


周囲から絶叫が湧く。

怪物たちの足音が、近づいてくる。

水分のような泥の滴る音が、寒気を感じさせる。


「僕たちの位置バレてんじゃね?」

「そうね、ばれてるわ」

「あっさりいうんじゃねぇよ!!!」


氷月の冷静さに、怒りをもってしまう。

なんでそんな冷静なの?

そう天谷は、問い詰めたかった。


「やばい!!やばい!!どうすんだ!!」

「とりあえず出口に向かうわ!!!ついてきなさい!!!」


天谷は、氷月のあとを追う。

周囲から聞こえる異音が、天谷の脳内を焦らせた。


「能力はまだ使える?」

「生憎だけど!!目覚めたばかりでねぇ!!きっかけしかわからねぇよ!!」

「能力!?なにそれ!?」

「そう!!!」


氷月は、木刀を刀に変化させる。


「おお!流石!!それでたおしてくれよ!!!任せるぜ!!」

「委員長なにそれかっこいい!」


頼りになる。

天谷や久遠と違って、彼女はこの世界をより多く経験している。

能力の発動も、スムーズに見えた。

なぜか、氷月が輝いて見える。


「ええ、任せて頂戴。介錯を」


こんな時にふざけるな。


「そうじゃないっっ……」

「安心して……私も一緒よ……」

「違う違う違う」

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