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ヒグレのクニ  作者: L
二章 らぶきゅんのときめきワールド
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二十二夜「驚愕」


金属は、歪な音をたてて曲がっていく。

檻の拘束など、些細なものであった。

常人ならざる力を、久遠の右腕は生み出していた。


「……」


【住民化】。

この能力を、夢のなかの彼女は知っていた。

その引き出し方すらも。

彼女は、なぜそんなことを知っていたのだろうか。

それにもう一つ引っかかりがある。

なぜ最初に能力を始動したとき、鞭のように暴れたのだろう。

今は違う。

制御は既にできている。

決して不定形ではない。

今回は、右腕としての形を保っている。

違いはなんだ。

それも結局夢のなかの彼女が鍵だ。

さっきもっと聞いておくべきだった。


「うぇぇぇ!?」


思考を遮るように、日比野の悲鳴が響いた。

両手で口を押さえ、目を見開いている。

盛大に裏返った声。 

完全にパニックだ。


「ちょ……っ!日比野さんしーっ!しー!!」


慌てて人差し指を自らの唇に当てる。

日比野は、はっとして、自らの声の大きさに気が付いたようだ。

今度は両手で、口をふさいだ。


「んんーーーーー」


と、くぐもった声を漏らす。


「いや……さぁ……流石にそれは」


そうだけど、そうじゃない。

やはりこの子天然だな。

天谷と氷月と違うタイプすぎて戸惑う。


「だって……怖かったし……」


日比野は涙目で周囲をきょろきょろ見渡す。

幸い、泥の怪物に動きはないようだ。


「外の怪物が動いているか。確認できる?」


日比野は白い画面を展開する。

それをみて、横に首を振る。

どうやら、動いていないようだ。

だが、その無機質な静けさが逆に不気味だった。

ずっとこの部屋にいるわけにもいかないだろう。


「……とりあえず、おちついて。まだ事前に話したいことがあるんだ」


日比野が、手で口を塞ぎながらこくこくと頷く。

その小さな動きが、妙に愛らしく感じる。


「……そんなビビる?」


そこまで驚かれると、こちらまで不安になるだろう。

日比野にとって、久遠の腕は軽くホラー要素だったようだ。


「ごめんね……その腕……あの怪物と全く一緒だったから……」

「やっぱりそうみえるのか……」


どうやら日比野からみても、久遠の腕は異質なようだ。

じっと、日比野は久遠の腕を見る。

触りはしなかったが、警戒心でいっぱいの様子だ。

明らかに距離を取っている。


「他の人ってそうなってるの?」


日比野は久遠以外の適応者の存在をしらない。

自分だけが例外だと伝えるべきか。

そうはいっても、久遠だって能力のことをあまり深くはしらない。


「いや……多分違うと思う。天谷とか、氷月とかそんなんじゃなかったし……」

「そ、そうなの?」


二人とも、【適応者】に関しての知識がないのだ。

原理もそうだし、他者に説明するにはあまりに情報が少なすぎる。

少なくとも今の久遠は、日比野にそういった説明を全くできなかった。

せめてここに氷月がいればよかったのだが。


「でも凄いね……なんというか力が密集?している気がする」

「……そうなのか?」


そういう日比野の眼は、円が多重になって重なっている気がした。

能力の使用によって、何か見ているのだろうか。

情報の操作。

彼女には、一体どのような光景が見えているのだろうか。

それがあまりよくわからない。

彼女の能力は彼女にどのように作用しているのだろうか。


「日比野さんからみて、僕はどう見えるの?」

「えーと……ねぇ?」


日比野の眼に集中している円が、小さくなる。

じっと腕を凝視する。

だが、彼女は首を傾げた。


「……んー?」


言葉を選んでいるのか。

それとも何を発しようか迷っている様子だった。


「どうなんだ?」


こればかりは、彼女にしっかり聞かないと。


「よくわからないということしかわからないかな……」

「どういう意味?」

「えっとねぇ……私のこの力は個人がある程度のステータスでみることができるの」

「え……それってすごくない?」


久遠が思っていた想定より彼女の能力は凄いかもしれない。

最初に説明を受けたときにも思ったが、彼女の能力の要素にはどこかゲームがある。

彼女自身が、ゲームやそれにちかしいものが好きなのか。


「そんな大層なものではないよ!?なんというかニュアンスで……【近づいてもセーフ】か【ヤバそう?】。くらいしかわからないものだからっ」


日比野は慌てて両手を振って、否定をする。

髪がふわふわと揺れている。

やはり彼女自身にも確信はないようだ。

それなのに、ある程度はわかるというのだから本当に【能力】は不思議だ。


「……」


猶更ゲームっぽいな。

そう久遠は思った。

天谷と氷月の能力の系統からいって、やはり彼女にもゲームっぽいものが好きなのか。

でもこれは別に今聞くべきことではないのだろう。

箱根さんに聞けばもっと詳しいことが知れるかもしれない。


「じゃあ……僕の腕は……どういう認識?」


ヤバいかヤバくないか。

彼女の言葉ではその両方とも当てはまらない。



「そのうえで……【わからない】。データーの制限がかかってるみたい。比較ができないんだ」

「そうか……」


日比野の能力であれば、自身がどのような状態かわかると思ったのだが。

それも出来ないようだ。

制限という表現が気になる。

ヒグレのクニそのものに、能力の妨害がされているのか。

それとも、彼女自身の能力の発達の問題か。

うん、ダメだ。

これ以上考えると頭がおかしくなりそうだ。

端的に、一つだけ気になることを聞こう。


「この腕なら、あの泥の怪物も倒せるかな」

「んーー」


再び、日比野の眼が淡く光る。


「うん、それなら泥の怪物も簡単に倒せると思うよ」


その言葉を聞いて少し安堵した。

少しだけ肩の力が抜けた気分だ。

自分の気持ちはともかく、他者からの言葉があるというのは楽だ。


「なら……いいんだけど」


正直、この腕の詳細など今はどうでもいい。

一番大事なのは、あの怪物を倒せるかどうかだ。

倒せるならそれでいい。

正面でなくとも、数を減らすことができればなんとか道は切り開けるだろう。


「あ……待って。久遠君は、あの……ラブって子と話してたよね」

「……あー、まぁ……?」


今までのラブとの会話を思い返す。

会話らしい会話があっただろうか。

あれを会話というのであれば、世界はとっくに終わっているだろう。


「一方的になら……話したっていうのかな」


うん、会話ではない。

あいつがペラペラ話していただけだ。


「怪物の撃破は、限りなく無くしたほうがいいと思う」

「えっ……」


なぜだろう。

彼女がそういうことが意外だった。

倒さなくては、外に出れないではないか。


「理由を聞いていい?」

「あ……えっと、あくまで憶測だけどいい?」

「うん」

「私の能力を見て思ったことなんだ」


そういい、彼女は説明を続ける。


「まずラブちゃんは……なにかしらあの泥の怪物に指示を与える能力がある。これは前提に聞いてほしい」

「うん、それは僕も思った」


久遠も同じ結論を持っている。


「よかった」


うん、それはわかっている。

むしろ推測などしなくても、彼女は久遠に対していっていた。

【住民】を操る能力だと。

そして今、自分はその危機だ。

【住民化】の能力は、その操作範囲だ。


「そして私にはよくわからないけどさ……あのラブって子は、この場所で一番力を持つ人なんだよね?」

「……まぁ、そうかな」


認識としてはあっている。

だが、彼女にクニの主だなんて伝えてもよくわからないだろうし。


「……そんな人がただ操るだけで終わるかな……」

「あっ……」


自分は凄い馬鹿だ。

なんでそんな可能性にすら思いつかなかったんだ。

そもそも、常に自分たちの居場所はバレていた。

不動が、怒りをみせながら怪物を撃破したことを思い返す。


「広範囲の索敵……とか?」

「うん、多分だけど。私の能力も同じだから可能性はあり得るかな……」


クニの主の能力は、自分たちより遥かに強力だったはず。

それは既に、コグマ―との戦闘で思い知っている。

だからこそ、【住民の操作】+アルファ。

それが、索敵や監視能力だったら?

いやまた違う能力の可能性だってある。


「敵を一体だけでも倒したら……」

「多分ラブちゃんが即座にくるね……」


久遠は、静かに息を吐いた。

自分は無事にここを出られるのだろうか。

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