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ヒグレのクニ  作者: L
二章 らぶきゅんのときめきワールド
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十七夜「コグマ―」


「その怪物に既に意識はない。遠慮せずやれ」


天谷が拳をぶつけ合わせる。

甲高い金属音がその場に広がる。

天谷は、歯を大きくみせ拳を振り上げる。

最大限まで肩甲骨を広げ、拳を高くしていた。


「お先に失礼!!!」

「焦りすぎよ!」


二人の前には、三匹の泥の怪物が存在していた。

天谷は駆ける。

その眼は爛々と輝いていた。

まるで初めて玩具に触れた子供のように。

その享楽を受け入れるために。


「潰れろ!!!」


能力を開放した天谷は異常に好戦的になっていた。

高揚しているとでもいうのだろうか。

きっと怪物へと変化していた久遠も近しい状態になっていた。


「異常な万能感」

「え?」

「俺たち適応者が能力に目覚めたときに覚える感情はそれだ」


それは、まさしく今の天谷を表現した言葉だ。


「……」


不動がそう指摘する。

久遠は、それに対してなにも返さなかった。

不動もそれに対して不満に思っていない。


「別に即座に能力を出せないことを不思議に思うことはない。あの二人が早すぎるだけだ」

「そうですか……」


やはり天谷の能力覚醒というものは、かなり異常なのだろう。

彼は既に自分の意志で能力のオンオフを切り替えている。

氷月の初めのことを、久遠は知らない。

だが、なんとなく彼女であるなら即座に慣れそうだ。


「ま、だせなきゃ。今後連れてくることもないがな」

「……」


それもそうだ。

この戦闘のなかで、自分は能力発動のきっかけを思い出さなければいけない。

あの時は、捕食されたことしか考えていなかった。

きっかけなんてない。

ただあの怪物のなかでもがく苦しんでいただけだ。


「でもあのとき……」


自分は、何を掴もうとした。

欠けていた記憶が想起される。

怪物に飲まれるなかで、思い出した記憶があったはずだ。

自分は、怪物に変身したなかで何を掴んだんだ。


「思い出した?」


彼女の声がまた聞こえた。


「っ!!!!!」

「おい?」

「大丈夫です」

「……そうか」


激しい耳鳴りと、頭痛を感じる。

やはりだ。

自分の能力と、夢にでる女性はつながっている。

彼女を思い出すことが、ヒグレのクニで前に進むことにつながる。



泥の一部がこちらに飛んでくる。

飛沫として飛んできた泥は、崩壊していく。


「まずは一匹!」


天谷の拳によってその泥の怪物は、小さく壊されていく。

そのとき、不動がぼそりと呟いた。


「やけに……慣れているな」

「?」


どういう意図なのだろうか。

天谷は見込みありということでいいのか。


「咲け!【イツツの花】!!!」


空中に浮遊した氷の花弁が、泥の怪物を穿っていく。

怪物の肉が削れていく。

その攻撃によって、少し怯んだ。

その隙をもって、彼女は前に進む。


「胴……っ!!!」


横の軌道で、刀を振る。

怪物は、真っ二つになり飛散していった。


「あと一体!」


氷月と、天谷が残りの一体に集中する。

だが、その最後の一体は不動だった。

まるでこちらをじっと観察しているかのような。

思考があり、だからこそ動いていないのではないのか。

そう疑いたくなるほど、それは生物として違和感だった。


そのとき、声が響いた。


「はーい」

「!?」


可愛らしい女性的な声。

その声は、テレビから聞こえていた。

真後ろにあったテレビが点滅する。


「もしもし、ぐみんどもー!元気―?」


ゴスロリをきた女性が、ピースしながら満面の笑みで手を振ってくる。


「こいつはっ」

「このクニの主がこいつか……」


まるで、テレビ番組のようだ。

なにかのバラエティー番組のように、その動画は動いていた。


「今日も配信頑張るぞっ!ってことで……らぶきゅんでーす!!!」


手の形で、ハートマークをつくる。

カメラが回る。

まるで、観客のように怪物たちが周囲を囲っていた。

その光景に寒気がたつ。


「うーーーん、今日も私のぐみんは元気だねぇ!!!」


怪物たちの様子をみて、女性は恍惚とした表情をしていた。

くるくると回って、テンションをあげる。


「今日は私の友人を連れてきたの!!!!」

「はっ!?」

「なんなん?」


このおかしい世界で、普通のように友達を紹介されるのがさらにおかしく感じる。

久遠は本能的に、この女性に嫌悪感を持ち始めていた。


「では!コクマ―!!入っておいで!!」

「……」


扉をあけて、12歳くらいの中性的な少年がその部屋に入っていった。

そしてらぶきゅんの傍による。


「ちょっとコグマ―!紹介できないじゃん!」

「……うぅう……」


カメラは、コグマーの顔をじっと映す。

彼はさらに顔を赤くさせた。


「コグマ―です。よろしくお願いします」

「……」


不動たち四人はその光景にさらに言葉がでなくなっていた。

らぶきゅんというクニの主の存在。

更にそこに介入するものがもう一人いたからだ。


「不動さん」

「……なんだ?」


一応聞いてみよう。


「このコグマ―って人は……」

「知らん。だが……得体がしれない」


はっきりと即答される。

見覚えはない様子だ。


「……不動さんでもですか?」

「そうだ」


不動は、コグマ―の存在に戸惑っていた。

クニの主というものには、慣れていた。

だが、そこに協力する存在はいままでいなかったのだろうか。


「……適応者っていうのは、何人もいるものなんですよね?」

「ああ、だが……こんなやつらは初めてだ」

「どういうことですか?」

「ヒグレのクニは、一人のクニの主で完結していた。それ自身が単体で強力な影響力をもつからだ」

「……つまり誰とも協力せずとも、国を維持できたと?」

「そうだ。だが、こいつらは意図的に協力している」

「……」


二人の様子は、いかにも仲がよさそうだ。

ヒグレのクニのことを、久遠はまったくわからない。

だがまたひとつ、知りえないことができた。

そしてそれは不動にも、わからないことだった。


「こいつらはな、協力してクニを維持しているんだ。そしてそんなことは一度もなかった」

「……」


そう断言する。

ここから先は、不動にも体験したことのないものだった。


「本当ですか?」

「ああ。嘘をつく理由なんてないだろ。いままで、俺らが戦ってきたのは……ただ一人のクニの主。だが今回は話しが違う」


不動は納得したように、その画面をみる。


「ようやく得心がいった。まだ発達したばかりの国が、意図的にクニを広げるなんて真似ができたことを」

「どういうことです?」

「こいつら二人とも、クニの主だ」

「……!!!!」


不動の発言で、衝撃が走る。

自分たちは、まだヒグレのクニにおける戦闘など全く理解していない。

いまは、まだレベル一の状態だ。

そして泥の怪物は、レベル一の敵だ。

自分たちは、クニの主を倒すことをダンジョンの攻略だと理解していた。

だが、それの難易度が一気に上がった。

ダンジョンのボスたちは、手を合わせてこちらを警戒しているのだ。


「見ればわかる。らぶきゅ……この女とこのガキは同格だ。女の方は舐め腐っているが、実力的には同じ」

「わたしねー。前回のこと……ちょびっと……許せないんだ」


らぶきゅんの表情が違う。

絶対その顔はちょびっとではない。


「めんどくせー……」


天谷があからさまに嫌な顔をした。


「だから僕が手伝うの」


コグマ―が言葉を発する。

コグマ―が、クマのぬいぐるみをなにもない空中から生み出した。


「……能力はなんだ?ぬいぐるみ?」


不動が、その光景をみて能力の判断をする。

ぬいぐるみの作成か。

いや違うだろうと不動は考えた。

少なくとも、クマかぬいぐるみのどちらかの能力で副次的に生み出したものだ。


「君らをみてるよ、らぶきゅんは」

「!?」

「わたしの【ぐみん】がおしえてくれるんだ。きゃはっ……」


らぶきゅんが、嫌なにやけ方をする。

その言葉を聞いた瞬間、不動が即座に動いた。


「!」


先ほどまで全く動いていなかった怪物を不動が拳で潰す。

能力発動が、まったくわからなかった。

身体強化という話は、本当なのだろうか。


「……くそがっ!テレビなんぞに気を引かれて消極的になった俺が馬鹿だった」


明らかに苛ついている。

自身の判断ミスを恨んでいた。


「警戒しろ!!どこからくるか。わからんぞ!!!」


足音は聞こえない。

だが、路地の道からそれは顔を覗かせた。


「くまくま」

「ん?」

「くまー」


全長一メートルにみたない小さなクマのぬいぐるみ。

それらは、一匹一匹と増えていく。


「は!?」

「なんだこいつら!?」


ギャップが凄い。

先ほどまでの泥の怪物を思い出すと、どうも敵として認識できない。

いつのまにか、クマのぬいぐるみは久遠の足元にもいた。


「久遠!!!そいつらから離れろ!!!」

「いやちょ……」


足で振りほどこうとする。

でもそう考えた一瞬にはまた増えていた。


足元から目をはなし、顔を上げた。


「くまーーーー!!!!!」

「これ!!!?」


数百匹はいるであろう。

クマのぬいぐるみたちが久遠たちを襲う。


「ふざけんな!?なんだこれ!!!」

「久遠くん!!!」


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