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ヒグレのクニ  作者: L
二章 らぶきゅんのときめきワールド
18/30

十四夜「推測」


「お疲れさん。しっかりきたなー」

「……」


箱根が満面の笑みで、椅子に座っていた。

来ることは当然だとしても、しっかり来てくれたことが余程嬉しいのだろう。

顔にそれが表れていた。


「久遠くん、天谷くん。君らがここに再び来てくれたことを嬉しく思うよ」

「……どうも」

「あざっす」


軽く箱根に挨拶をする。

自分らとしては、来ない理由はないのだが箱根は歓迎をしていた。


「氷月ちゃんは、体長は大丈夫かい?」

「はい、万全です」

「氷月ちゃんは今日もかわいいなぁ!ささっ皆さんここに座って……」

「なんか苛つきますね」

「理不尽すぎん!?」


氷月は、箱根のその様子に少し苛ついていた。

箱根のことが苦手なのだろうか。


「お疲れ。学校終わりにすまないな」


不動が顔を出す。

書類を持っていた。

事務の仕事もするのだろうか。


「不動さん、お疲れ様です。百合さんは?」

「百合は、別件だ。今日は会えないと思う」

「そうですか、把握しました。お仕事中邪魔してすみません」

「気にすんなよ、箱根と話があんだろ?」

「はい」

「俺ももう少しでこの仕事が終わるから待ってろ」


そう言って、奥の部屋に入っていった。

明らかに箱根との態度が違う。

箱根はそれに気がついていた。


「氷月ちゃん!」

「なんですか」

「やっぱり俺との態度とは違くない!?」

「気のせいですよ。面倒くさいのでやめてくれませんか?」

「やっぱり!!違うと思うな!」

「ちっ……」

「俺一応上司だからね!?」


氷月は、箱根の対応に苛立ちついに舌打ちをしていた。

久遠の態度を説教したのに、その態度はどうなのだろうか。

まぁ、確かに軟派そうな雰囲気は感じるし。

氷月はそれが苦手なのだろう。


「はぁ……メールはみてますね」

「お、そうだね。その話をしようか。とりあえず、そのソファーでいいから席に座ってほしいな」


どうやら、既に氷月は箱根に何らかの連絡を送っていた様子だった。


「メール?」

「学校でも、日比野さんのことが連絡された件よ」

「あー」


やはり薄暮探偵社にも伝えているということは、ヒグレのクニ関連の事件で間違いない様子だ。


「君らには、ややこしいかもしれないけど。日比野さんの行方不明は、僕らも知っていたんだよ」

「え!?」


その言葉に驚きを持つ。

氷月経由で知ったのではないのか。


「一週間ほど前ね、薄暮探偵社に日比野さんのご両親がきたの」

「そう、それで依頼されたんだ。氷月ちゃんが、一人でヒグレのクニを探索していたのも、それが理由」

「成程……」


どうやら、日比野さんの良心は薄暮探偵社に依頼していたようだ。

学校への相談の前に、警察や探偵は頼っていたということか。

ヒグレのクニに久遠たちが初めて入ったとき、氷月は一人でその路地を歩いていた。

それは、鳥飼花を探すためではなく日比野を探すためだったのだろう。


「基本的には、ヒグレのクニは二週間前後探索したら諦める」

「それは……」

「うん、昏睡状態でも死体だとしてもなるべく証拠になる物品を探すという意味でもね」


それはつまり、一週間たてば基本的に生きている状態は見込めないと彼は考えているのだろう。


「それもそうか……」

「まぁー……しゃーねぇか。あんなとこ一週間も生きて居られる気がしない」

「天谷君の感想は正解だと思うよ。能力に目覚めることもなければ、適応できずに終わりだ」


捜索している人物を、探すのは諦める理由はなんとなく理解ができた。

それはヒグレのクニの危険さを理解していたからだった。


「じゃあ……氷月は?そういうのを探していたの?」

「うん、わたしは学校指定の物品や生徒の証明ができるものを探していた。それであれば戦闘は少なくて済むし」


氷月は肯定していた。

元より、日比野の生存を期待していなかったのだろう。

だが、箱根はある想定をする。


「氷月ちゃんの話のなかに、あることが違和感でね」

「なんすか?」


それは、天谷たちの脱出の経緯にある一つの出来事だった。


「君らを助けてくれたテレビの声。それは本当かい」

「……あ」


その言葉で思い出す。

そう、自分たちを助けてくれた少女の声があった。

少なくとも、それは悪夢の中の女性とは全く違うものだった。

そしてその女性の声は、らぶと名乗る女性の声を使って怪物を誘導していた。

意図的にこちらのことを助けてくれたのだ。


「はい、あのとき。僕らのことを助けてくれたコがいます」

「うん……」

「そうか、ならよかった」


箱根は手を叩く。

そして彼は、その出来事に関する推測をする。


「僕の推測は、日比野そのがヒグレのクニに適応し能力を得たという可能性。その少女が、日比野そのじゃないかというものだ」

「あ……」

「なるほど……」


天谷と久遠が、その言葉に納得する。

日比野そのが、住民となる可能性もあるが適応者になる可能性だって同じだ。

どうせ期待をするならそういった希望を持つ方が楽だろう。


「箱根さん……それはあくまで希望的な観測であって……」

「まぁー。正直その子が日比野そのじゃない可能性も当然ある」


箱根は、頭の後ろで手を組み椅子をくるくると回る。


「だが、それを謎の人物Aとして放置するのも怖いんだよね。特にクニの主と相対するときになったとき邪魔されると困る」

「それはそうですが……」

「ここからが本題」

「お」

「今夜君らに頼むのは、当然ヒグレのクニの探索。目的は、その声の人物を探ること。または日比野そのの捜索」


箱根から今夜のミッションが言い渡される。

やはりこういった展開は、胸躍る気がした。

ヒグレのクニにいく理由ができた。

それだけで、久遠の心はわずかに揺れていた。

天谷は、満面の笑みで拳を鳴らす。


「よっしゃ!盛り上がってきたな」

「よくそんなテンション高くなれるな」

「楽しまなきゃ損っしょ」


奥の部屋から、不動がでてくる。


「そして今夜は、不動くんにも付き添ってもらう」

「あー。よろしく」

「げ……」


天谷は、その顔をみて嫌そうな顔をする。

やはりまだ不動のことが苦手なのだろう。


「不動さん、本当にいいんですか?」

「天谷君と久遠くん。この二人には能力の安定に確証が持てない。流石に怖い」


箱根がずばっとそう言う。

実際そうだ。

久遠だって覚醒のきっかけがあやふやだし、天谷は戦闘経験一回のみ。

それだけで、実戦に投入するわけにはいかなかった。


「……文句は言えないっす。命を助けてもらったわけだし」

「素直でよろしい」

「素人二人のカバーは、氷月には無理だ」

「……う。そうですね」


氷月も、らぶに追い続けられた経験を忘れたわけではない。

あのようなイレギュラーが再び発生したとき、自分は二人を助けることはできない。

氷月はそういった自覚を持っていた。


「特に久遠くん」

「え?」

「君の【住民化】能力。それは君自身でコントロールできるものなのか?」

「……いや、軽く記憶があるくらいで……」


天谷や、氷月と戦った記憶はある。

だがそれは精神の異常な高揚と万能感のなかでだ。

自分自身で取捨選択して戦っている感覚はなかった。


「住民から戻ることができる。それ自体は稀有なものだと僕は思う。けど制御できないならそれはただの暴走だからね」

「はい……」


圧をかけられたような気がするが、実際にこれは釘をさされているのだろう。

ここは、大人しく従うことにしよう。

箱根がにこっと笑う。


「まぁ、君には期待しているよ」

「え……」


どういう意味だ。

素直に受け取っていいものなのだろうか。


「話しててもしょうがない。いくぞ」


箱根に問いかけようとしたら、不動が外にでようとする。


「はい」

「了解っす」

「あ……いってきます」

「はいよー。いってらっしゃい」


三人のあとをおって、薄暮探偵社から外へ出た。

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