繋がり
放課後のチャイムがなる。
既に時刻は、四時だった。
学校は終了していた。
今日だけは真面目に授業を受けることができた気がする。
「うぅううー」
思いっきり背伸びをする。
珍しく昼寝をすることがなかった。
やはり睡眠をしっかりとるということは大事なのだろう。
「よ」
天谷が、椅子を廻してこちらに顔を寄せる。
彼は、機嫌がよさそうだ。
なんとなく察しはつくが一応聞いてみよう。
「なんだよ」
「いやーお前、今日はしっかり起きてたなって」
指摘はやはりそのことだった。
「ん……」
天谷もやはり気が付いたようだ。
それぞれの教科の先生たちの反応もそれに近かった気がする。
珍しいなぁぐらいの認識だっただろうが。
「やっぱり悪夢がないのって楽なんだな」
「そりゃそうだろ」
そもそも普通の人は、よっぽどのことがない限り悪夢を連続してみない。
過剰な緊張下に、久遠が置かれていた証拠だ。
「天谷って夢とかみるの?」
ふと気になったことを聞いてみる。
天谷は、どんな夢を見るのだろうか。
「いやー?布団はいったら、数秒であさだ」
「寝つきよさそう」
いいな、それ。
天谷の体質が素直に羨ましい。
どうしても睡眠をいいものととらえることができないから、そもそも久遠は布団に入ることが億劫だった。
「めっちゃいいぞ」
「貴方たち暇そうね」
「いいんちょ」
後ろには、氷月が立っていた。
久遠と天谷の話を呆れながら聞いていた。
そして氷月の顔をみて思い出す。
放課後話す内容とはなんなのだろうか。
「そういえば委員長」
「ああ、いいわ。日比野さんの話でしょう」
やはり話の内容は、日比野そのについてだった。
氷月からその少女の話を振るということは、その子はヒグレのクニにいるのだろう。
「そうそう、そのちゃん」
天谷もその少女のことを知っている様子だった。
それも、名前呼びだ。
なれなれしく感じるが、親しいのだろうか。
天谷と日比野の関わりを知らなかった氷月が問いかける。
「親しいの?」
「うーん、大人しい子だから積極的に話しかけてくる子ではなかったよ。俺が一方的にはなしかけてただけ」
「……まぁいいわ」
天谷が、ただ馴れ馴れしかっただけかもしれない。
この男は、このクラスの女子にそうやってはなしかけているのだろうか。
「二人とも今日は大丈夫よね?なにも予定はない?」
一応、氷月は二人の予定を確認する。
薄暮探偵社による用事も、急遽できたものだ。
今日外せない用事があるなら事前に聞いておきたかった。
それは、氷月の配慮だった。
「遊ぶ予定ならあるぜ」
「なら大丈夫ね」
「えー?」
天谷のボケに対して、氷月は冷静になにも触れなかった。
天谷はあからさまにつまらなそうな顔をしていた。
「冷たいなーぁ。いいんちょ」
「時間を無駄にしたくないの。早く箱根さんの元へいくわよ」
昨日は、箱根の気遣いによって早く帰らされた。
でも正直久遠は、不満だった。
「そうだよ、急ごう」
日々の日常より、ヒグレのクニに行きたいという欲望が勝っていた。
また箱根に会えば、よりあの場所について知れるのだろうか。
そう思うと、心は浮足立つ。
「はいよ」
「うん、いこう」
バックを手に取る。
天谷も、氷月も教室をでる準備は済んでいた。
久遠もあとに続こうとする。
そうしていると後ろから話しかけられた。
「久遠くん」
「ん?」
「せんせ。どうしたん?」
後ろには、都先生が立っていた。
先生は、心配そうな顔でこちらをみていた。
「今日は、元気そうだったね。体調は大丈夫なの?」
「……まあ、はい」
正直面倒くさいなと感じていた。
都先生は、いい先生だ。
優しくて、真摯に人と向き合えるいい先生だと感じる。
でもだからこそ、自分には面倒臭い。
自分のこれは、他人にどうこうできるものではないと理性で感じている。
だからこそ、久遠は他者にその悩みを吐き出すということをあまりしてこなかった。
天谷が特別なだけだ。
「そう……ならよかった。今日は、授業をしっかり受けていたと聞いたわ。なにか変化でもあったの?」
それを当人にいうか。
どうにも、こういった形で踏み込んでくる人物は苦手だ。
別に変化があろうが、貴方の仕事には関係ないでしょう。
そう言いたかった。
久遠の苛つきに気が付いたのだろう。
天谷が助け船をだす。
「あー。せんせ。もういい?俺ら用事あるんで、また」
「天谷君……そうね。ごめんね、邪魔しちゃって。相談があるなら、いつでも先生を頼りにしてね」
「はい」
ただ会話を早めに終わらせたかった。
「あ、そうだ」
「……?」
「貴方達、日比野さんについて何か知らない?何か知っていることが少しでもあれば……」
「……ごめんなさい。先生。私たちも学校に来るのが嫌になっている程度ぐらいの認識で……」
実際間違っていない。
天谷と久遠は、その少女が行方不明であることを今朝しったのだ。
「そうね……有難う。氷月さんがいるなら大丈夫でしょうけど、気を付けてね」
会話は終わった。
久遠たちは学校を出た。
薄暮探偵社に向かう。
そんな途中氷月は、久遠に話しかけた。
「貴方ねぇ……先生に対してあの態度は悪いわよ」
「えー?」
氷月にそう言われるのは初めてだった。
氷月は真面目なタイプだが、ルールの隙があるなら飄々として突くタイプだ。
別に先生に対する態度など、いちいち注意しないと思っていたが。
「まぁ、俺もそう思うよ」
「天谷もか……」
天谷も同様のことを思っていた。
久遠のことだけでなく、先生のことも考えて間に入ってくれたのだろう。
「みやせんは、お前のこと心配してんだって。お前が悪夢をみて辛いことはわかるが、それをみやせんに当たってちゃ可哀そうだぜ」
「……それもそうか」
二人に注意されて反省する。
ヒグレのクニのことを考えすぎて、それ以外のことが疎かになっていたのかもしれない。
「……なんかさ」
「うん?」
「いい人だっていうのもわかるんだ。優しい大人だっていうのも」
「わかってんじゃん」
「でも……そんな人でも僕の話を聞けば、まともに取り合ってくれない」
「……」
過去の経験が、自身を蝕んでいた。
同一の人物ではない。
そう理解している。
でも自分の信じた大人が、汚れていくのはもう嫌だ。
「グダグダうるさいわ」
「いてぇ!?」
「なんでぇ!?いいんちょ!?」
竹刀で、ケツをぶっ叩かれた。
久遠はその痛みに悶絶する。
そして、天谷はその光景をみて衝撃に包まれた。
「ううぅ……」
「いたそー……」
地面に腕をつく。
これは、数日続く痛みだ。
「貴方が人を信じないのはそのせい?私はそれを知らないんだけど。勝手に過去に浸らないでくれる?」
「だって委員長に話して……」
「いいわ、凛は嫌だから氷月って呼びなさい」
「いいんちょ……」
「氷月!!!」
「は、はい……」
氷月は、天谷と久遠に苗字呼びを強要する。
「私のことは信用できない?」
「いや……それは」
「天谷君に信頼しきっている。それは依存よ」
「……」
氷月のその指摘は、間違っていない。
「私はその甘えを許さない。先生はそれを許してくれているだけよ」
「……っ」
その言葉に何も言えなかった。
そうだ。
先生は、大人だから子供の自分のその態度を許してくれているだけなのだ。
「別に今じゃなくていい。今日は無理でしょうし」
「……」
「貴方が私を信頼して、過去を話すまで私は竹刀でケツをしばく」
「それは嫌だ!」
過去の話以前に、ケツをしばかれるのが一番いやだ。
「なら信頼しなさい。それが道理よ」
ケツを叩くのが道理であってたまるか。
でも氷月のその言葉に何も言い返すことができなかった。
「ま……」
天谷が膝をまげて、こちらに顔をよせる。
「もう少し、人のこと信じろよ。レイ。敵はもっと少ないとおもうよ」




