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ヒグレのクニ  作者: L
一章 ようこそ、ヒグレのクニ
14/30

十三夜「一時解散」


「穴掘りもぐら?」

「なんですか。それ?」


天谷と久遠は、唐突にでてきたその単語に疑問を持つ。

何らかの固有名詞にしても、あまり聞き馴染みはなかった。

不動がそれに対して説明をする。


「【穴掘りもぐら】っていうのは、ネットにヒグレのクニの情報を流した張本人だ」

「ヒグレのクニの都市伝説が広まった原因だと言っていいかなー」


百合もそれに対して捕捉をする。

それで脳内で、話が一致する。


「あー。よく考えたらサイトの最初にでてくる名前だ」

「よく覚えているな」


どうやら天谷も、その名前を知っていたようだ。

久遠は、そもそもヒグレのクニの都市伝説に興味がなかったから知らない。

ヒグレのクニの情報を流した第三者。

それは、個人情報を一切晒さない匿名掲示板の人物だった。


「ヒグレのクニの都市伝説を知っているなら、たぶんうっすら名前も聞いたことあると思うよ」

「なるほど……」


ネットでは有名らしい。

ヒグレのクニというごく少数しか知らないものを広めた人物でもあるのだろう。

だが、情報が足りない。

ヒグレのクニを広めたこと。

それとハンドルネーム。

この二つだけ。

これではわからない。


「そいつと暴走列車みやこってやつはやたら言い合いしてるから覚えた」

「だれだよ、そいつ」


おっと、ノイズが入ってきたぞ。

なに?

暴走列車みやこ?

天谷がいきなり訳のわからないことをいいだした。


「……えっと天谷は意外とそういうのみるんだな」

「女の子の話に合わせるのは大事だぞレイ」


いま、そういう話じゃないだろ。


「そして氷月ちゃんは、ハナちゃんのスマホを確認してそいつからのメールも見ている」

「最後のメールだけよ。当然、そこに連絡しても返信はかえってこなかった」


どうやら、鳥飼花は【穴掘りもぐら】と接触しているようだった。

その証拠品のメールも、まだ残っているらしい。

氷月は、その犯人に対して連絡を送ったのか。

勇気が凄いなと思った。


「まぁ、犯人が素直に連絡するわけないよなー」

「メールがあるの?」

「繰り返すけど、最後のだけ。途中経過は綺麗に消されている」


露骨だなとも考えた。

氷月と同い年の女子高校生がわざわざこまめにそんなことするのか。

久遠はそう思う。

恐らくだが、指示だろう。


「花さんってまめな人だった?」


久遠がそう問う。

しかし氷月は首を振り否定した。


「花が自分から考えてやったとは思えないから……指示でしょうね」


氷月は、苛立ちをみせた。

犯人には少し狡猾さもある様子だ。

そのおかげで、氷月は犯人にたどり着けていない。


「なんど考えても腹立たしい……恐らくだけど、同じ被害者はまだ何人もいるはず」

「俺らの知らないとこで……ってことだよな」

「ええ、行方不明者はここ数年で異様に伸びている。元々ヒグレのクニが存在していたことを考えても多いわ」

「……」


どうやら、思ったより厄介なことに誘われたようだ。

氷月のように、関係者がヒグレのクニにとりこまれた人物はまだいるはず。

そう考えれば、ヒグレのクニの闇というものは想像より大きいのかもしれない。


「僕らは、こいつがヒグレのクニに赴く人を増やして。そしてクニの主を増やしている張本人だと推定している」

「つまりは、鳥飼花を唆した犯人だと?」

「うん、大体その考えでいいよ」

「成程……」

「わかりやすくていいな」


箱根はそれを肯定した。

鳥飼花を唆した犯人イコール【穴掘りもぐら】。

久遠の脳内では、そういった風に整理される。

つまり【穴掘りもぐら】を探すことが、鳥飼花を探す足取りになるだろう。


「俺らも粗方調べ尽くしたし、ヒグレのクニになんて何回も訪れている」

「でも思い当たる人物がいないんだよねー」


どうやら捜査は行き詰っている様子だ。

調べても、最後の結果にはいきつかないといったところだろうか。


「ネットとかって開示できないんですか?」


無難に浮かんだ手段を言葉に発する。

しかし所詮素人の考えたものだ。

不動たちは苦い顔をしていた。

きっと駄目だったのだろう。


「あー。そこらへんはもう全部試したんよ」

「そうっすよね」


やはり、箱根たちは試していた。

それらすべてはうまくいかなかったのだ。


「誹謗中傷ならともかく……履歴や、サーバーをあたったけどだめだったかなぁ……」

「飛ばしだったり、海外のネカフェなんていかれたら調べようがない。アングラな手段はいくらでもとれる。そういったことにも慣れているんだろう」

「……僕らあくまでヒグレのクニを探索する便利屋みたいなもんだしなぁ……ネットであーだーこーだできるタイプでもないんよ」


箱根達は、ネットで暗躍するようなスーパーハッカーというわけでもない。

ネットで取れる手段はそこまでなかったのだろう。


「薄暮探偵社以外に、そういった活動をしている集団はいないんですか?」


なら次は、ヒグレのクニの話だ。

薄暮探偵社以外に、あればそこから話を得ることができるかもしれない。

だが、その返答もあまり喜ばしいものではなかった。


「そもそもヒグレのクニに入国して……無事帰り能力を得る。その過程をやり遂げるのは、稀だ。俺らみたいな集団はいないと考えていい」

「個人の能力者とか……」

「俺らが知っているのは、三人。一人は死んだ。一人は失踪。一人は俺らを嫌って距離を取っている」

「……うわ……」


散々だった。

改めて厄ネタすぎるだろ、あの場所。

久遠は心のなかでそう考える。


「直接クニの主と話すっていうのは?」


らぶというクニの主が、頭に思い浮かぶ。

彼女が本当にクニの主であるのであれば。

【穴掘りもぐら】という人物について知っているかもしれない。

もしかしたら、直接本人までたどり着けるかも。


「クニの主も……まともな会話できるやつは稀なんよね……クニが崩壊したあとは我を失って自暴自棄になるし……」

「……」

「クニのことに関しては、犯人とか実証できるもんが少ないからなぁ……たどれるもんが少ないんよ……」

「全部だめじゃないすかぁ……」


天谷も反応に困っていた。

これではとれる手段が少なすぎる。

どうやって匿名の人物を探せというのだ。

箱根も、頭を掻いて返答に困っていた。


「えっとなぁ……」


溜息をつく。

苦笑いで、箱根はこっちに笑いかける。


「ま、ざっとまとめて僕らにできることは今あるヒグレのクニをつぶすこと。そうすれば、最終的にそれを嫌った【穴掘りもぐら】がでてくるはず」

「本当ですか……?」

「うん、ともかく【穴掘りもぐら】にはヒグレのクニを広めたい理由があるんよ」


その言葉には納得ができる。

広めたい理由には、見当がつかない。

だがなんらかのメリットがあるからこそ、もぐらはネットで都市伝説を広めたのだろう。

そのメリットが消えるのであれば、行動する意義にはなるのかもしれない。

そしてそれを、穴掘りもぐらは妨害するだろう。


「……理由は不明だとしても、ヒグレのクニをつぶせばそれが果たせないと?」

「そういうこと。行方不明者を直接探せるしね。減らすこともできる」


どうやら第一目標は決まったようだ。

ヒグレのクニを、ひとつずつ無くす。

その先に、氷月の目的を果たせるはずだ。


「うーん」


箱根が時計を気にしだした。

百合も、ちらちらっとみている。

なんだろうかと思った。

彼らは何を気にしているのだろう。


「君らそろそろ帰ろうか」

「え?」

「私たちが怒られちゃう……」

「え?なに?」

「今日の話は、これで終わりにしよう」

「もういいんすか?」


箱根の言葉は、意外だった。

てっきりあと数時間黒幕や、クニの主の話を聞いて戦いにいくものかと。


「もういいんすかって……」

「チュートリアルこなして、これからまた突入するものかと……」

「俺らをなんだと思ってんだ……?」


流石に不動もその言葉に引いていた。

箱根が、笑いながら言葉を返す。


「これ以上話していたら日をまたいでしまうよ」

「あ……やべ」

「そんな時間か……」


話に夢中で、時間に気がつかなかった。

十二時まではいっていないが、十一時を過ぎていた。


「流石に、学生の君らをそこまで拘束するわけにはいかないしね」

「……俺らの配慮が足りなかったな」


それは、大人としての良識だった。

箱根は一度帰宅することを促していた。

久遠たちは、それに納得する。

明日も学校だ。

これ以上、ここにいてはまともに休むこともできない。


「またおいで。そのとき、氷月ちゃんとまとめて君らに指示をだすから。氷月ちゃんも今日はこれで帰りな。学校で倒れるよ」

「了解です」

「じゃあ……俺らも帰ります」


氷月はその言葉にうなずいた。

元より、長居するつもりではなかった。

帰り支度を始めた。

久遠と、天谷も同様にバックや上着を手に取る。


「では、お疲れ様。無事に帰るんだよ」


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