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ヒグレのクニ  作者: L
一章 ようこそ、ヒグレのクニ
13/28

十二夜「結束」


氷月は、自身がヒグレのクニにいる理由を話だした。


「私が、あの場所にいるのは花を探しているの」

「花……?」

「鳥飼花。私の親友よ。」


氷月の目的は、自身の親友を探し出すことであった。

その言葉を聞いて、久遠はとあることを思い出す。


「天谷、学校終わりに言っていた……委員長の知り合いって」

「そうだな。多分そのことだと思う」

「マジか……」

「あんまし当てにしていなかったけど、噂ってこえーよな」


ヒグレのクニと同時期に起こった失踪の話。

それには、委員長の知り合いが関わっているという話だった。

そしてそれは事実だった。

只の噂ではなく、確定した事実が元になって話が広まっていたようだった。


「やっぱり貴方達も知っていたのね。まぁ……広がっていたことに対して疑問は持たないけど」


その言葉を聞いて、氷月は複雑そうな顔をする。

花が消えた噂もそうだが、氷月の怪しい噂を二人は聞いていたということだろう。


「……嫌な気持ちになったよな。いいんちょごめん」


複雑そうな顔はしていたが、彼女は卑屈にはなっていなかった。

それほど弱い女性ではない。


「いいわ……気にしないで。その時期、手段を選ばず聞きこんでいたのは事実だし。それで広まったんだと思う」


はっきりと眼をみて、彼女は断言をする。


「私は、ヒグレのクニに吸いこまれる花をみた。私は彼女を取り戻す。だからあの場所で戦っているの」


それは彼女の覚悟の現れだった。

鋭く引き締まった眼は、天谷と久遠を威圧した。

彼女の拳は、強く握りしめられていた。

それほどまでに、固く決心しているのだ。


「……いいんちょ。そんなことを考えていたんだな」


天谷は、そんな氷月の姿をみて感嘆していた。

だが、氷月は事も無げに発する。


「人には、見せられない部分があるものよ。私はこれだっただけ」

「でも凄いや」


まさか同年代、同い年でここまで使命を燃やせる人間に出会えるとは思っていなかった。

それも普段会話する人物。

日々を過ごす中で、彼女は冷静に使命感を燃やしていたのだ。


「でもさ……ヒグレのクニに入ったら怪物になったり、行方不明にはなるんだろ?なんで取り戻すっていえるんだ?」

「……確かに」


天谷の言葉に、久遠は納得した。

氷月の行動は少し違和感がある。

ヒグレのクニは、何個もあると言っていた。

その中で、怪物を一つ一つ倒して確認するのか。

彼女の行動力や、決意ではきっと可能だろうがそれは果たして現実的なのか。


「あまり委員長らしくないけど、何か理由があるの?」

「……」


氷月は、賢い人物だ。

そして現実的でドライな部分が私生活では目立っていた。

そんな彼女が親友を失ったことで、不作為に意味のない行動を起こすようになった。

それは納得できる話だ。

混乱し、引き止めるものがいない。

そんな話であれば。

久遠は、箱根に視線をみせる。


「僕は思ったんよ。なぜ花ちゃんは、ヒグレのクニをそこまで信じる気になったのか」


そう、薄暮探偵社の面々であれば確証のない話など諦めろと言うはずだ。

箱根には、そういったドライさがあった。

甘えるな、現実をみろと彼は言うだろう。


「話を聞いてみると、客観的に違和感のある部分がたくさんあった」


箱根は、スマホのサイトを開いた。

そこには、掲示板に【ヒグレのクニ】の詳細が書かれていた。


「それは?」

「ここには、ヒグレのクニの情報を漏らした誰かがいる」

「そしてそれは、今でも誰かわかっていない。だが確定しているのは、そのサイトが広まって以降ヒグレのクニの発現が爆発的に増えている」

「……罠ってことですか?」


その疑問に、箱根は首を振る。


「こればっかりは、僕もわからん。でもなにかしらの第三者が、ヒグレのクニに入国させる人を増やさせている」


それは不確定な推測だった。

天谷と、久遠はその言葉を聞いて固まる。

そうだ。

当たり前のことなのに、なぜ気づかなかった。

そもそも薄暮探偵社というのがヒグレのクニを知っている組織だ。

それなら、同様の個人か組織が裏で動いていてもおかしくない。

だが、氷月はそれで確信に至ったのだろう。

花は、誰かに唆されてヒグレのクニに入ろうとしたのだと。


「……そう、あの時の花は明らかにおかしかった。精神的に追い詰められていたとしても考えられないくらい高揚していた。花は……あの子は……誰かに騙されたんだ」

「もしも。納得できる証拠をみせられて。行動に至ったのであれば……」


箱根は、氷月を見る。


「信頼できる親友と……そんな死地に赴いてもおかしくないってね……」

「……」

「そんな……ほぼ……」


その先が言えなかった。

その言葉を発してしまったら、氷月が傷ついてしまう。

そのことが分かり切っていたから。


「……花がはいるとき……穴から手が出ていたの……そして花はそれに動揺していなかった」

「……それはっ」


自分たちがヒグレのクニに入るとき。

そんなことはなかった。

普通の路地に入って、その先がヒグレのクニに繋がっていた。

だが、花の状況は違っていた。

連行する手があって、花はそれを受け入れていた。


「あの子は知っていたの。ヒグレのクニの先に誰がいて、何があるか」


彼女の言葉に怒りが滲んでいた。

それを伝えた犯人に対する殺意だった。


「……もしもヒグレのクニを知らなかったら。あの子はそんなことをしなかった……ヒグレのクニを知らなければ……あの時花の言葉をしっかり聞いてあげられたのに……!」


その顔は、悔しさが滲んでいた。

そして少し涙ぐんでいた。

親友の苦しみを知らなかったこと。

そしてそれに対して何もできないこと。

そしてヒグレのクニに入ることを止められなかったこと。

過去の後悔は、彼女の心を確かに蝕んでいた。


「私は許せない。花を攫ったことも、騙したことも。そしてそれから救えなかった私も」


氷月は頭を下げる。

天谷と久遠は、困惑する。


「ちょ……いいんちょ……」

「やめてよ、委員長」

「いや、お願いさせて」


それは、友人としてではない。

人として誰かに頼む。

彼女の持っている気高さがそうさせた。


「私を手伝って。助けて。お願いします。私の親友を一緒に探してください」

「……」


それは真摯な願いだった。

悪意が介在せず。

ただ人を救うことを願う。

そんな綺麗な言葉だった。

天谷と久遠は、その言葉に震えた。

そして彼女が命の恩人であることを改めて胸に刻んだ。


「何言ってんだよ、いいんちょ」

「手伝うよ。なんでもする。僕らを頼ってよ」

「……有難う」


三人の中に確かな絆が生まれた。

黄昏の中を共に探索する心の友ができたのだ。

氷月は安堵感から、涙を流した。


「……ふふっ……あれ?」


天谷と久遠は、それをみて慌てふためいた。



「ちょっ……大丈夫かよ」

「えっ……委員長?」

「……ごめん……嬉しくて……」


その光景を、温かい視線で箱根、不動、百合はみる。


「ふふ……いいなぁ」

「俺らもあんなんだったんかな?不動」

「……どうだか。ま……それなりに楽しかったかな」

「今度お兄ちゃんにも話してあげないとね」

「……ああ」


箱根が、ぱしんっと手をたたく。


「うおぅ」

「さあ!いいもんみせてもらったわ!」


箱根が高らかに宣言する。


「チームができたところで、僕らの目的を告げる。これは薄暮探偵社。全員が一丸となって目指すものだ!」

「目的?」

「そんなのあんだ」

「僕らの目的には、三つある。一つは、ヒグレのクニの消滅。二つは、氷月ちゃんの願いをかなえること。そして最後……」


それは、悪意の原因だった。


「ハンドルネーム【穴掘りもぐら】。こいつの正体を突き詰めること!」

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