残滓
「ねぇ?知ってる?あの噂」
少女は、隣の親友に話しかけた。
親友は、興味深そうにその話を聞き返す。
「なになに?」
「知らないかー」
少女は、そういってスマホを開く。
そこには、【急募!!日暮れの国について!!!】。
そう書かれていた。
「なにこれ……」
「日暮れの国について!貴方は知っていますか!!」
胡散臭いものをみてしまった。
親友はそう言いたげだった。
そんな彼女の顔をみて、少女は不満げだ。
「そう嫌がらないでよー。心霊とか、オカ板すきだったじゃんー」
「……えー」
少女は、親友の好みを知っていた。
だからこそ、これを読ませたのだ。
「すきだけどさぁ。これに関しては、まだ急募の段階じゃない」
「いいからーいいからー、よんでよ!」
少女から渡されたスマホで、サイトの内容を目に通す。
「コテハンつけてるのね……?【穴掘りモグラ】……?」
そこにかかれていた内容は、くだらないものだった。
「夕方五時過ぎの日暮れから出没する謎の場所。場所は、各所。特定の場所はなし。空間の先がある穴が開いており。そこには、幽霊やお化けなどの理解不能のものが出現するって……」
「ね!!おもしろそうじゃない!?」
面白そう。
そう彼女は言う。
だが自分には不満だった。
「一応バックルーム系に入るのかしら……」
不明瞭すぎる。
自分がそういった読み物がすきなのは、あくまで創作性があるからだ。
リアリティの中にある嘘臭さがすきなのだ。
そしてなにより物語にオチがある。
現実逃避として彼女やそれを好んでいた。
「うーん」
さらにその文章を読み進める。
「うーーん」
だんだんと渋い顔になっていく。
だがこれは、まだ明瞭に話が組み立てられていない。
どこなのか、どんな話なのかわからない。
大きな流れの始まりになれると考えればいいのかもしれない。
だが、傍観者として客観的に楽しむのが自分はより好む。
彼女は、そういったメンドクサイ拘りを持っていた。
「面白そうじゃないって……あ!」
「気づいちゃった?」
にひっと、少女が笑う。
親友は、やられたと思った。
「あー。もう……」
彼女の言いたいことが理解できてしまった。
丁度時刻は、五時半を過ぎていた。
日暮れといえる時間だろう。
そしてこのサイトを見せた理由。
魂胆が理解できてしまった。
今日の誘いに乗った後悔が、湧き出てくる。
「今日はやたら遊ぼうって誘ってきたのは……」
「そういうこと!!!」
ぶいっと二本の指をみせる。
親友は、頭を抑えた。
なんだが頭痛がしてきた。
「今日は、本当に謝って門限伸ばしてもらったのに!!」
「ごめんってー。あとでパフェおごるからさー」
手を合わせて、彼女は謝罪する。
誠心誠意というわけでもないが、パフェという言葉に心は動いた。
「……」
彼女が、ちらっとこちらをみる。
許してもらえるかなーと考えている顔だ。
まぁ、仕方がないか。
親友はそう思った。
「で?どうするつもりなの?」
「どうするって?」
「まさか行き当たりばったり?」
「うん!」
「……」
あれ。
本当にややこしいことに関わってしまった。
「ごめんごめん!ただほんのちょっとプラプラしたらーー……てきな?」
「はぁ……」
少女の考えなしなところは、いつものことだ。
そんなとこもすきなのだから仕方がない。
一日ぐらい無駄にすることを楽しもう。
「まぁ……そうだね。ちょっと遠回りしてカフェにでもいく?」
「……!うん!いいね!そうしよ!!!」
「ふふ……」
明らかに少女の顔が明るくなった。
「じゃあ……今日はこの道を通ってみよ!」
「まぁ、それくらいなら……」
そこは、いつもは通らないような人通りの少ない道だった。
少し外れた人の少ない道。
それだけの場所だった。
「……」
普段通らない道に警戒心をもちながらも、親友はそれを許諾した。
「あるかなー。不思議の国」
「貴方まだそんなの信じてるの?」
「信じるのが面白いんじゃん。なくたって私は面白いよ?」
「わかるけど……」
その道を歩いて暫くだった。
横から何かが、弾ける音がした。
「え?」
「ん?」
その場所に視線を向ける。
そこには、怪しげな光を放つ穴が開いていた。
ぽっかりとその場所に穴がある。
そう言葉に表現することしかできなかった。
「え……ここって……」
サイトにかいてあった通りの情報。
理解できない現状が、目の前で起きていた。
「私たちみつけちゃったんじゃないの!?」
彼女は興奮していた。
目の前におきた謎の現象。
その事実に、精神が高揚していた。
「まさか……」
親友は、その事実に怯えていた。
こんなこと現実で起きるはずがない。
なにかしらのドッキリだと。
そう思いたかった。
駆け足で少女はその穴に向かおうとする。
「ねぇ!はいってみようよ!!」
「待って……!!!」
「え?」
腕を掴み、彼女を引き留める。
駄目だ。
本能がその先に近づくことを止めていた。
「おかしいって!離れよう!」
「でも……」
「でもじゃないっ!危険!」
「……」
自然と力が入っていた。
でも仕方がない。
彼女を止めるためなら、無理にでもここから離れる必要がある。
それでも、彼女の体は動かなかった。
「え?」
逆にこちらの腕が、強く握られていた。
「いたっ……!」
手は自然と離れていた。
少女は、親友の腕を振り払う。
「どうしたの?」
「……私がどんな思いでここを探したか知ってる?」
「え?」
その声は、鋭かった。
初めてきいたその少女の声に、親友は震えた。
その一面に初めて触れた。
そしてその表情に怯えを持ったのだ。
「ごめんね、嫌なこと聞かせちゃって」
「……っ!」
その一言で察した。
彼女がこれからなにをしようとしているかも。
穴の中から、無数の手が出現していた。
それは、近づくものを引き入れようと周囲に広がっていく。
「花!!!!」
手を伸ばす。
しかし少女はそれを避け、後ろに下がった。
「もういいよ」
涙を流して、少女はその腕を受け入れた。
「ごめんね。いままで有難う」
「待って!!!やめて!!!!」
凄まじい速度で、少女は穴の中に吸いこまれた。
その手は、寸前で届かなく間に合わなかった。
走って穴で飛び込もうとした。
しかしそれも、時間が足りなかった。
穴は、少女を飲み込み即座に閉じたのだ。
「……!!!!」
脳が混乱した。
どうすればいい。
どうすれば、助けることができる。
周囲を見渡す。
「あ!」
唯一の情報源であるスマホが目に入る。
それはまだ光を放っていた。
「助けて……助けて……」
最後の繋がりに縋る。
それだけが、頼りだった。
素早くフリックし、そのサイトに打ち込む。
匿名 「友人がその穴に吸いこまれました助けてください」
そう打ち込む。
「早く……早く」
返答を願った。
「あ……っ」
しかしその救いは、あっけなく砕けた。
通りすがりのななしさん 「ウケる。ネタでしょこれ」
通りすがりのななしさん 「ネタ乙」
暴走列車みやこ 「おぅふwこれはwww伝説のスレになりそうな予感ですなwwwww」
当たり前だ。
先ほどまでの自分も似たような態度をとっていたのだから。
「なんで……なんで……誰も信じてくれないのよ……」
苦悩が、胸の中に広がった。
涙を零し、スマホを強く握った。




