俺の友達のTは最低な野郎だ
俺が奴に出会ったのは、小学校一年生の時。
Tはみんなの前でいきなり、某海賊狩りの真似を始めた。それは別にいい、問題は両手に自分の傘を持っていたくせに口に咥える三本目の傘をよりによって俺の傘でやったことだ。
「ふぉに、ふぃり!」
無駄にキメ顔で、持ち手をよだれでベトベトにしながらそう言うTに俺は銃のようなパンチを放った。姉以外の兄弟を持たず、親父も仕事で家を空けがちだった俺はその日生まれて始めて同性と殴り合いの喧嘩をした。
傘はすぐ捨てた。
近所というほどでもないのに、俺の家に遊びに来るようになったTは俺の姉貴に一目惚れをした。
初恋を知ったTは姉に「儂の妻にならぬか」と誰目線なのかわからない謎のプロポーズをかました。だが、それを断られると「チクショー!」と叫び八つ当たりとして俺にカンチョーをしてきた。ぶち切れた俺がTをボコボコにすると、奴は「おのれ人間めぇ!」と人外ヴィランしか口にしないような台詞を言って泣き出した。
お前、何者だよ。
質の悪い同級生に目をつけられ、頭から水をかけられた時のことだ。
持ち物が全部ずぶ濡れになってしまったので俺はランドセルの中身を全て取り出し、教科書を並べて乾かすことにした。すると俺を保健室に送り届けたTが、ページをめくって歴史上の偉人はもちろん名前のわからないマスコットキャラに至るまで人という人の頭の上にウンコを描き足しやがった。おかげで俺は卒業まで、「ウンコマン」という非常に不名誉なあだ名で呼ばれることになった。
クソはお前だ、T。
中学で不良崩れの、嫌な奴とクラスが一緒になった。ソイツは俺に対して一方的な敵意を燃やし、野球部の先輩を引き連れて大勢で俺を叩きのめしに来やがった。
だが、問題はその後だ。ボコボコにされた俺を見てTは「弔い合戦じゃあい!」と勝手に俺を殺した上にソイツを始めとした野球部連中への復讐に走った。何をしたかというと、授業中に体育倉庫にへ忍び込み全ての野球ボールに油性ペンで「友の仇」と落書きしたのだ。
「先公が来なかったら、バッドにも書こうと思ったのにな」
先生方にしこたま怒られた後、ドヤ顔でそう語るTを見て「お前をホームランしてやろうか」と思った。
高校に上がったTは、再び姉貴にプロポーズしてきやがった。最悪なのは姉貴も姉貴で、いつの間にかTに情が移っていたらしくなんだかんだ二人は交際を始めることになったのだ。
「いずれ『お兄様』と呼ばせてやるよ」とほざくTをボコボコにして、姉貴に「なんでTに惚れたのか」と尋ねた。姉貴は嬉しそうに頬を染めながら、こんなことを言い出した。
「子どもの時からずっとアプローチされて、『こんなに一途に思ってくれるなんて』って考えたらいつの間にか好きになっちゃって……それにT君、面白い男だし」
知らぬ間に、Tは姉貴へ健気な求愛行動を続けていたようだ。
何が「面白い男」だ。こんな面白くない話があるか。
成人して、ついに姉貴と正式に婚約したTは「弟よ!」と俺を抱き締めようとした。何が悲しくてお前と兄弟にならなきゃいけないのだ、と俺はTを殴りつける。
繰り返し言うが、Tは最低な野郎だ。
ろくでもないことに頭が回り、変なところで行動力があって、俺を筆頭に周囲に尋常じゃない被害を撒き散らす。……喧嘩っ早い俺がトラブルに巻き込まれても、なんだかんだ乗り越えられたのはTがそうやって隣で奇行を繰り返したせいだ。
だから俺は、そんなTを容赦なくぶん殴る。
ボコボコにする、絶対許さない、何が何でも殴り続ける……だから、姉貴のことは任せてやる。泣かせたら許さないからな、絶対幸せにしろよ。
お前を「兄」と認めるわけじゃないけど、「友達」として祝福はしてやるからな。




