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カンテラ外傳(解説として)

〈斯く斯くはしかじかなれど五月盡 涙次〉



【ⅰ】


 永田です。突然だが、女の子にモテる、と云ふ事は、だう云ふ氣分がするものなんだらうか? 私は在原業平とか太宰治、町田康氏のやうな、日本文學史上の「いゝ男」について考へる。

 また、「檸檬」の梶井基次郎は、醜男(ぶをとこ)だつたにも関はらず、その作のフレッシュな浪漫性により、大變女性作家にモテたさうだ。

 私はその容貌に於いては、梶井組なのだが、梶井のやうな浪漫溢れる小説は書けない。

 モテる事は諦めてゐる。今日もヤマハ Vinoora Mに跨り、ポコポコ郷里の街を行くだけだ。



【ⅱ】


 カンテラ一味は、云つてみれば美男・美女の集まりで、その點羨ましいと云へば羨ましい。私、は彼らの係累と見られてはゐるものゝ、その括りを使へば、仲間に入れて貰へるだけでも有難いのだ。

 また八重樫火鳥の話になるが、彼女は男の容貌を氣にする方ではなかつた。安条展典も私も、藝術家としての才氣を買はれて、「付き合つて頂いて」ゐたのだ。私がラノベ界から出てきた變はり種、と云ふ事を、彼女は重視してゐた、と思ふ。これから、と云ふ人たちの為に書いてゐた事が、彼女には大事だつたのだ。



【ⅲ】


 さう、彼女には見る目があつた。だが、偶然にも君繪ちやんの母は醜女(しこめ)だつたと云ふ事が、君繪ちやんの全てゞはなかつたやうに(彼女は、超弩級のエスパー、と云ふ、別の面を持ち得た)、容貌は人の全てゞはない。

 ぢやあ何故火鳥は美女だつたのだらう? それは永遠の謎だ。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈ぺたぺたと家の中ゆく裸足なり今日は我が猫見掛けざりしよ 平手みき〉



【ⅳ】


 美しさを「賣り」にする【魔】もゐる。「虐殺の天使」サン=ジュストや間司霧子、日々木斎子、坂崎玖紀子...

 私が書いてきた中でも、數知れずゐる。カンテラは、その中で何故窒息しないのか。不思議と云へば不思議である。私なら必ずや惑はされる。美男・美女、と云ふのは一種の凶器であり狂氣を孕む現象なのだ。

 だがカンテラが、美男・美女だからと云つて、【魔】を目こぼしするだらうか? 剣の錆には、美醜は関係なく、なるのだ、と云ふのがドラマであり、且つまたそれがドラマティック、なる現象なのである。



【ⅴ】


 然し、醜男・醜女にはドラマは附帯しない。火鳥や悦美さんが醜女であつたら、それだけでドラマは消滅する。私が何を云ひたいか、それは私にも分からない譯なのだが、實は美醜と云ふものは、フィクションの中では昇華され得るものであり、内奥では一緒だ、と云ふ事に盡きる、さう云ふ事かも知れない。矛盾もまた、一つの詩である。



【ⅵ】


 梶井基次郎の小説は、云ふ迄もなく詩的で私的である。それが一般性を持つたのは、運命の惡戲なのだ。だからと云ふ事もないが、私のカンテラ物語も、直に一般性を持つだらう。私が決してモテると云ふ事のないやうに、それは必然なのである。



【ⅶ】


 永田の一人語りは、云ふなれば「カンテラ外傳」である。これを避けて通つては、カンテラを語る事は出來ない。何度でも云ふ。火鳥の不在は、火鳥の實在と内奥では一緒だ。私は、それを昇華しなければならない。

 それが物語を、綺麗・穢いで片付けずに濟む、一種のコツなのである。「シュー・シャイン」はごきぶりであり、木場惠都巳は死人、野代ミイは猫に似せて自分の肉體を改造してゐる。

 文學史は、梶井と太宰とを取り違へる事からは、始まらない。要するに、それが私がラノベ界に巣食ふ、唯一つの理由であり、それが唯一つの私の言明である。

【魔】、の問題は、カンテラが善人ではない、と云ふ事と取り違へられない。だうやらそれを云ひたかつたやうだ、私は。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈五月雨て今日と云ふ日は失せにけり 涙次〉



 以上、永田の獨り言。今回はこれで勘弁して下さい。また火鳥に戀々、未練大ありなところを曝け出してしまつた。然し作者にも精神衛生と云ふものがある。ではまた。


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