人生初のゲストハウス
「ここだ」
ようやくついた。時間は午後9時20分。迷った時間がなががったのでよけいに長く歩いていた気分だった。入り口は階段になっていた。そこをあがると、二階に玄関と受付があった。受付には、めがねをかけた若い20代くらいの女性がいた。きっとここだ。そう確信した。
「こんばんは。ご予約の方ですか?」受付の女性スタッフがたずねた。
「はい。予約しました。小柴です。」といってプリントした予約確認書を出して見せた。
「小柴さん。ああ、茨城県の男性の方一名ですね。では前払いで一泊1200円ですので、七泊だと8400円になります」
助かった。相部屋とはいえ一泊1200円という破格の値段で泊まれるという話は本当だった。僕は現金で宿泊代を払うと、隣にいた男性スタッフから簡単な説明を受けた。
「チェックアウトは朝11時。連続で泊まる場合は、午前11時から午後4時まで、スタッフが清掃するので、部屋になるべく荷物は置かないようにね。あ、それと、ここのスタッフの佐久間です。気軽にサクさんって呼んでください」そう言って、サクさんは上の階に移動した。
荷物を置くなというのは、盗難防止のためだろう。なにせ日本だけでなく外国からもいろいろな人間が泊まりに来る。ゲストハウスはそういうところだと、事前にネットで情報を得ていた。夜の9時半だったこともあってロビーはしずかだったが、数人の宿泊客がソファーやテーブルを囲っていた。受付のそばに本棚があり、「DRAGON BALL」などのマンガが数冊あるのを見た。キッチンの向かい側の居間は、まるで普通の家のリビングみたいでアットホームな雰囲気をかもしだしていた。ぼくはここに一週間泊まることになった。けれども、ちゃんと他人と会話できるだろうか。知らない人との会話なんて、ここ一年でコンビニの店員と空港のスタッフとの会話くらいしかない。やっぱりそれが不安だ。でも泊まるからには、そういうことも覚悟しないといけない。とりあえず考えてばかりでも仕方ないから、空港で買ったオリオンビールを空けた。飲めば気が紛れる。サンドイッチをぱくつきながら飲んでいると、
「どっからきたの?」みためは20代前半くらいで、だけどひげが濃い男子が日本語で話しかけてきた。ウチナンチュー(沖縄県民)かな?彫りが深い顔がイメージする沖縄出身の人に似ている。話しかけられたのでたどたどしく、
「茨城から、来ました。沖縄の人、ですか?」とぼくがきくと、
「いや、カナダ。日系カナダ人さ。母親が日本人だよ。」と彼は答えた。さっきのサクさんといい、ゲストハウスのスタッフは見知らぬ旅行者にも気さくに話しかけてくるのだろうか。ホテルや旅館のかしこまった対応とはちがった、フランクな感じがした。
「じゃあ、ハーフですか?」
「そう。俺はクリス。ここのスタッフだ。君は?」
「小柴です。小柴守。」
「そうか、よろしくマモル」ぼくはクリスと握手を交わした。本当は下の名前を呼ばれるのは苦手なんだけど、それは言わないでおいた。