ゆいレール
ビールを飲み終えると、ゲストハウスに向かうべく「ゆいレール」という名前のモノレールの乗車口に向かって切符を買った。値段は300円だった。ゲストハウスは8駅先の牧志駅から近いし、沖縄唯一の電車に乗れる。そう思うと少し楽しくなって改札を通った。すぐに2両編成の列車が来た。中に入ると、アジア人の観光客が多いことに気づいた。本当に多いんだなと思った。実際、那覇空港に着いてからゆいレールに乗っただけでも、車内で中国語が飛び交う。ぼくも声をはるほうで、地声がうるさいのは自覚していたので、とりたててうるさいとは感じなかった。それでも話し声のほとんどがおそらく中国人観光客とみられる人々だったので、
「ここは中国語圏か?」と、何度か錯覚してしまうほどだった。地元民や日本人、いや沖縄で言う「内地または本土の人」の話し声は、ほとんどきこえてこない。夜8時を過ぎたせいか、それとも疲れているのか。わからなかったけど外国語の話し声の主をのぞいて、他の乗客は割と静かにしていた。沖縄の人でも、観光客の声ってうるさいと感じるのかな?などと色々考えていると、心地よい音楽が流れた。ゆいレールは列車が駅に着く前に、車内には琉球民謡がながれる。きいていておちつくし、やすらかな気分になれる。これだけでも、きてよかったなあと思える。この音楽は、駅ごとによってちがう。曲のタイトルは全然知らないけれど、それぞれ異なる駅に止まる前に違う音楽がながれるので面白いと思った。東京にも、駅に止まる旅に優しい気持ちになれる民謡が流れる路線が、ひとつくらいあったらいいのに。そう思ったほど、やさしくて美しい音色だった。列車は駅に止まる前に民謡のメロディを流しつつ、赤嶺、小禄、県庁前、美栄橋駅を通過した。美栄橋を出て2分ほど過ぎると、
「まもなく、牧志。牧志駅に到着します。お出口は右側です」ゆいレールが、目的地に着こうとしていた。牧志駅は、国際通りの入り口にある駅だ。ぼくは疲れた体を起こして列車を降りた。駅の階段を降りてすぐ近くにある国際通りに入った。
「わあ」と声をもらすほど、夜の国際通りはキレイだった。アジア人と欧米人が入り交じる多国籍な雰囲気。くわえて、商店の奥からきこえる三線のBGM。それらが心地よくて、やっぱりきてよかったなあと、前向きに考えることができた。沖縄は文化的には中国とアメリカの影響が大きく、さらに琉球独自の文化が混ざり合っているということを、インターネットから「情報」として知っていた。しかし、実際に来てみると、知っているのと肌で感じるのとは、全く違うとわかった。
さて、今夜泊まる予定のゲストハウスはどこだ?モノレールの駅から商店街を抜けて10分程度と書いてあるけれど、外が暗いこともあってよくわからない。この「タクシーの際は運転手さんに××マーケットまでと伝えてください」とあるけど、このマーケットはどこを指す?わざわざタクシーつかうなんてもったいない。せっかく商店街の近くまできたから、このままあるいていこう。しかしどういくか。グーグルマップを見ながら迷っていると、見知らぬ中年女性が声をかけてくれた。
「どこ行きたいの?」
「このゲストハウスですけど・・・」とグーグルマップの地図をみせた。
「ああ、ここはね。一つ目の角を右にまがって、まっすぐいくとひだりにみえてくるから」
「ありがとうございます」ぼくはそういって、彼女に向かって手をふった。いわれたとおりにあるくと、ようやく、その宿がみえた。