那覇到着。南国の空気が優しく感じた
約3時間のフライトの末、飛行機は那覇空港に無事到着した。眠りから覚めたぼくは少し疲れていた。乗客は皆荷物をもって降り始めていた。ぼくも人の列についていってロビーに降りたつと、「めんそーれ」の看板が見えた。沖縄の方言で「いらっしゃい」という意味だ。大学を休学して1年がたとうとしていたころ、特にやりたいこともなく大学に戻る当てもなかったぼくが、本当に一人で那覇に来た。旅で沖縄に来たのは、小学5年生以来のことだ。当時は、両親とぼくの家族3人で観光で来た。2泊3日で、父親がレンタカーを運転して各地を回って北の名護まで連れていってくれたのを覚えている。父は高校で英語を教えていたが、忙しい仕事の合間を縫って、有給休暇を使ってまで連れていってくれた。父は夏休みが来ると、毎年のようによく日本各地への旅に連れていってくれた、優しい父親だ。連れてきてくれた父に感謝すると同時に、羽田からは親に頼らずに自分一人でここに来たのは誇るべき事だ。と、心の中で自分のことを褒めてみる。医者の先生からも、自分を褒めてあげることが大事だとアドバイスしてもらったことを思い出した。『無事、那覇に着いたよ』と母にメールを送り、安心して一息ついてつぶやいた。
「10年ぶりの那覇空港か」羽田空港から乗った格安航空会社の飛行機は、5月最後の日の午後8時20分に、無事に那覇に到着した。母親のすすめで、評判の良い比較的安い飛行機に乗った。言うことをきいてよかった。帰りの便については、出発前にいつ関東に帰るか迷っていたときに、
「とりあえず帰りの便は自分で予約するよ。那覇にネットカフェもあるから大丈夫」と言って、ぼくだって一人で航空券の予約くらいできると、母に後先考えずに提案した。しかし母は旅慣れていて、ぼく一人で航空券の予約はまだ早いと、ぼくの提案は退けられた。母は海外旅行経験豊富な、ベテランの旅人である。タイのバンコクのゲストハウスという安宿に、一人で泊まったこともある。結局、航空券とゲストハウスの予約も、全て母にやってもらった。一人でできたことがないから、今回は仕方ない。だがそれでも、今回ぼくは外国ではないが、沖縄の安宿、つまりゲストハウスに泊まって那覇を旅すると決めた。やっぱり那覇にこうして来る前までは億劫だったけれど、実際に来てみるとわくわくする。なぜだろう?今回の旅は自分一人でもどうにかなるという気分になり、関東にいたときより少しだけ楽観的になれた気がした。まるでこの前まで引きこもっていたのが嘘のようだ。南国の雰囲気のせいだろうか?まだ空港に着いただけなのになんとなく優し気分になれるように感じるのだが、そのせいだろうか?なんだか分からない。考えても分からないので、とりあえずぼくはなんとなく空港内のコンビニに入って再びビールを買った。沖縄のオリオンビールを3缶。そのうち1缶は店を出てそのままタブを開けて飲んだ。すると、自然に涙があふれてきた。緊張が緩んだせいか、慣れない飛行機のストレスのせいか、なんだかよく分からない。周りの人たちが、自分を訝しげに見ていることに気づいた。
(心配してるかな?どうして泣いてるんだろうって。)と思い、ちょっとまずいのでティッシュを取り出して涙を拭いた。周りの声に耳を傾けると、やたら中国語や韓国語などの外国語が飛び交っているのがきこえた。おそらく、とりわけ中国語圏から来た人が多いのだろうとみた。