今日だけ酒を断つ
六日目の朝、歯磨きを終えると昨日魚をくれたおじさんが話しかけてきた。
「あのね、年寄りの独り言だと思ってきいてね」
「・・はい?」
「酒、控えた方がいい。君、昨日トイレに閉じこもってしばらく出てこなかっただろ。飲み過ぎたんだよ。控えないと体を壊す!」
「昼から、ビール飲んでるのもだめすかね?」
「昼からじゃなくてもだ!とりあえず今日一日やめなさい!」
「・・・分かりましたよ」とりあえず、それだけ言ってぼくはその場から去った。なんだか気まずくなったのだ。本当はそこまで具合が悪くなったわけではなかった。けれど、あまりにも正論だったので、それしか台詞が出てこなかった。夕べは実際はそこまで大酒を飲んでいた自覚はなく、ましてや吐いたわけでもなかった。那覇に来てからほぼ毎日泡盛やビールを飲んでいるけれど、一度も吐いたことはない。実は夕べはトイレの中で自慰にふけっていましたなんて言えるわけがなかった。そうか、トイレのドアをノックしたのはこの人だったのか。この人は用を足そうと思ったら一人エッチしていたぼくが邪魔していたわけか。悪いことしたな。しかし、ゲストハウスというところは、なかなか一人になれる時間が少ないな。常に誰かの目がある気がする。これでは落ち着いて「自慰行為」もできやしない。自分の家ではないから仕方ないけれど。他人から心配してもらうのはありがたいと同時に、なんかゲストハウスって面倒だな、とも思った。でも、おじさんの言ったことは正論だから、とりあえず今日だけ酒を断ってみることにした。




