戦国タタラ物語
『時は中世。場所は4つの島々から成る小さな王国、タタラノクニ。この国には、それぞれの島にひとりずつ国王がいた。王はそれぞれの領地を統治し、戦争が起これば刀や呪い、さらにはオロチや鬼などのモンスターをつかって戦っていた。
戦士たちの装備は、主に武器となる刀の他には、総量30kg以上にも成る鎧兜を身につけていた。鎧と兜には派手な装飾をするなど、防具には各戦士の個性が出た。刀は古代エノキの時代から存在する伝統的な武器で、両手で構えて相手に斬りかかるか、喉元を突くなどして使った。他には、古代に盾という防具が存在したが、これは片手で持ち続けなければならず、両手で刀を振らなくてはならなくなったため、中世の時代に途中で廃れた。今は戦場で盾を見かけることはない。中世の時代では武器は刀の他には弓矢や槍、さらには西の大陸から伝わった「火薬」を使った新兵器が広まった。このため、戦のやり方が変わり始めている。この時代、鬼やオロチなどの怪物退治は命がけで、勇ましく刀や弓矢を手に戦わなくてはいけなかった。かつて人間と怪物は多くの戦を繰り返しながらも基本的に主従関係はなく対等であった。しかし、火器の登場によりより遠く離れたところからでも怪物を倒せるようになった。そのため、現段階では人間にしか扱うことのできない火器の試用により、その関係が大きく変わろうとしていた。
大陸から伝わった火縄銃は製鉄の盛んな西の国ツバキで改良され、一分間に三大2発の弾丸を発射できる魔法の武器と化した。いち早く鉄砲を採用した東の国柊は強力な軍隊を持つ大軍となり、北のエノキの国を破ってかの国を支配した。
さて、その北にあるエノキの国では、男子は17の年になると通過儀礼が待ち受けていた。通過儀礼、それは、男子が一人でオロチや鬼などの怪物を倒さねばならないというものであった。倒す相手は、天にも届きそうな巨大な蛇や、オオムカデ、酔っ払って金棒を振り回す鬼などさまざまであった。これらの怪物は戦に負けて奴隷として連れてこられたか、人間によってとらえられた怪物たちであった。それらの怪物を、タタラノクニの戦士たちは刀や呪いを使って仕留めることが古くからの伝統であった。火器の使用は、戦で使われるようになってきたとはいえ、いまだ認められていなかった。あの少年が現れるまでは。
「だめじゃ!お前は刀の扱いが下手で呪いも満足にできぬ!」
「そんなこといったって。おれ、文化系だし」
「やかましい!これでは来月の儀礼に間に合わぬではないか!」
ここに壮年の男性に叱られている、齢十七の胴丸をつけた少年がいた。
「それにしても、だいたい勇者ってえらいことしてくれたよな。あいつのせいでうちらまで」
と少年が言うと男性は、
「勇者ヨリミツを愚弄するなあ!」と怒鳴りつけた。少年の名はヤナギ。漢文など教養の深さが必要とされる学問は得意だが、「実践」の刀や呪いといった科目は苦手である。
「あー、こんな思いするくらいなら大陸に生まれたかった。大陸なら、」
「“科挙”があるから、じゃろ?」と男性が返した。科挙とは、大陸の帝国で年に一回行われる官僚採用試験である。この試験に受かるためには、無数の漢字から成る教本を何冊も丸暗記する必要があるほど狭き門である。しかし、タタラノクニにそのような制度はなく、漢文の素養よりも実技が重んじられた。
「大陸とて、三億人もの人間がおる。それだけの人間からしたら、お前など足下にも及ばぬほどの実力をもった猛者がいくらでもおるんじゃぞ?」
「それでも、おれだって本気出せば大陸に住んで!」
「住んで、何をしたい?」ヤナギはそうきかれて、答えに詰まった。
「お前はまだ若い。夢をみるのも結構なことじゃ。しかしそれは現実をみてからじゃ。儀礼を突破できるくらいの実力がなければ、大陸に渡ってもとうていやっていくことはできぬ」
「そんなの、やってみなきゃわからない!」
「いや、わかる。わしはこれまで生きてきて、富や特産品を求めて大陸に渡り、帰らぬ人となった者を何人も見てきた。いったん渡ったとしても、そこから生きてタタラノクニに帰れる保証などない。多様な経験を積んだ大人でもな」
ヤナギは黙った。あまりにも本当のことを言われて、返す言葉がなかった。』




