嘉手納基地
四日目。ぼくと「彼女」はバスに乗って嘉手納まで遠出することにした。なぜ嘉手納かというと、大きな米軍基地があるからだ。日本では米軍基地の多くが沖縄県に集中している。その中でも、嘉手納や普天間などの基地は、度々本土のニュースでも話題になっている有名な米軍基地だ。
沖縄県庁前のA&Wで昼食を取ってから、県庁前のバス停に向かう。そこで20分ほど待ったらバスが来た。
「おー。来たきた!」隣のギャルがバスに向かって手を振った。
「つーか、朝は元気ないんじゃなかったのか?」
「今日は特別。男子と二人きりでお出かけだもん」
えっ、これってもしかして、デート?だったらもっとふさわしい場所を・・・
「いま、デートって思ったでしょ?」
「・・・思ってません」必死にごまかす。
「デートなら米軍基地じゃなくて、他の場所選べばよかったとか」
「いや・・別に」ぼくが顔にでやすいのか?色々考えていると、彼女は笑って言った。
「冗談だよ。今日はスタッフ休みだから。他のみんなもそれぞれ出かけるっていうし」
そしてぼくの右手を握り、
「だから、今日だけ、つきあって?」ここまで言われたら、ぼくには断る理由がない。
「わかりましたよ。今日いっぱいつきあいますから」
「ほんとー?うれしい!」
バスは、割とすいていた。ペアのボックスシートに、二人で座る。2,3分して、バスのドアが閉まり、発車した。
「ねえ、嘉手納まで何分くらい?」
「たしか、一時間ちょっとだよ。バス代は、確か700円くらいだっけ?」
「高い!」
「ま、関東の田舎のほうでもこれくらいの値段は妥当じゃないかな?」
「そうだよね。ところで、」
「ん?」
「ずっときこうと思ってたんだけど・・・名前なんだっけ?」
「今きくかよ、それ!」大音量でツッコミをいれてしまった。
「てゆうか、夕べ酒の席でいわなかったっけ?」
「ゴメン、忘れた。そういえば、あたしも言ってなかったよね。あたし、杏奈。笹塚杏奈」
「小柴。小柴守。」
「じゃ、関人でいい?」
下の名前で呼ぶのか。でも、特に断る理由はなかった。
「まあ、いいけど」
「じゃあ、決まり!守、行こっ!」杏奈っていうのか。そういや、酒の席であれだけ語り合ったのに、どうして自己紹介すっかり忘れていたんだろう。やっぱりぼくのコミュ力が・・・ってまた悪い癖が出そうだ。せっかく女子と出かけるチャンス得たのだから、細かいことはなしにしよう。
「行こう・・・杏奈」ぼそっとさりげなく彼女の名前を呼んだ。
ぼくと杏奈は嘉手納に向かうバスの車中でいろいろ話した。
「うーん、別にイイんじゃない?」
「え?」
「趣味なんて人それぞれだし。あたしだって派手なメイクやナイトクラブが好きだからね。お堅い人から見たら、あたしの趣味も普通じゃないかもしれないし」
「普通ってなんだろう?」
「なんだろうね?わかんない」
杏奈はすごいな。優しいし、自分の意見をしっかり持っているなと思った。
ぼくは昔から自分の意見をはっきり言うのが苦手で、自分に自信もない。だから、自分の意見を伝えられるよう、大学で外国語のコミュニケーションを学んでみようと中国語を専攻してみた。中国語を選んだ理由は、中国人は意見をはっきり言うというイメージがあったからだ。そこは、アメリカ人に似ているかもしれない。どちらも大国だからだろうか。日本は中国とは似ても似つかない。ぼくが思うに、自己主張の強い国の言葉を学んでも、ぼくは未だに主張が苦手だということは確信できる。強い自己主張があまり歓迎されない地域で生まれ育ったから、なかなか主張の強い人間にはなれないのかもしれない。
色々と考えたり、杏奈と喋ったりしているうちに、バスは嘉手納バスターミナルに到着した。周りをみると、特に変わったところはない地方の町にみえた。
「なんか、この辺なんもないね」
「米軍基地からは遠いのかな?」町のマップが書いてある看板を見ると、近くに海浜公園があることが分かった。
「とりあえず、この公園行ってみようか?」
「そだね。歩こうか」いつ以来だろう。女子と二人で遠出するなんて。二人で公園までの道のりを、町の風景を見ながら歩く。那覇とちがって、人気の少ない小さな町だ。たまに欧米人の男性がおそらく地元民とみられるおばあさんと二人で歩いているけれど、きっと夫婦なのだろう。もしかして欧米人は米軍の兵士で、現地の女性と結婚したのだろうか。などと考えていると、杏奈が話しかけてきた。
「関人って大学生?」とうとう訊かれた。もしかしたら訊かれるかもしれないと危惧していたけれど。
「うん。そう」
「何勉強してんの、大学で?」
「中国語と中国文化。」
「へー、中国語しゃべれるの?」
「いや、全然。簡単なあいさつくらいしか」現に、沖縄に来てから中国語話者と一度も会話していない。
「ねえ、関人って夢とかないの?」と杏奈がきいてきた。なんだいきなりと思いつつ、
「夢ねえ、なんだろう?」
「やりたいこととか」やりたいことなら色々ある。けれど一つに絞れないので、
「いろいろあるよ。外国を旅するとか、小説を書くこととか」
「へえ、小説書くの?どんな?」杏奈が食いついてきた。
「和風ファンタジー、とか?」
「すごいじゃん。書いたのみせてよ」
「いや、ノートに適当に書いただけだから」何余計なこと言ってるんだぼくは。ノートにだらだらと駄文を書いてそれっきりなのに。
「じゃあ、どんな話なの、それ?」
「いや、途中までしか書いてないし」
「それでいいから、見せてよ」
「本当に中途半端だよ?」渋々ノートを渡した。杏奈がノートを開くと、読みにくい字で連なって書かれた文章が現れた。




