姉エリーチェ
轟々と風が鳴る。騎馬に乗ったリリーチェは目を細めつつ周囲をうかがう。
「リリーチェ、どうやら囲まれたわ」
姉のエリーチェが背後で囁いた。
白銀の髪にアイスブルーの瞳、銅色の甲冑を身にまとった女性にしては長身な姿。都市の違う双子と呼ばれるほど似ているリリーチェもはたから見れば同じように見えるのだろう。
ここは姉の夫の領地だ。先日どうしても手伝ってほしいと招かれたのだがどうやら一筋縄ではいかないようだ。
エリーチェは手にした槍をかまえる。
リリーチェの武器は大剣だった。
草原の中オオカミに似た黒い獣の群れが二人を囲んでいる。
エリーチェが無造作にやりを振ると氷の礫がそれらを襲う。
それをかいくぐってエリーチェに飛びついてきたそれはエリーチェの槍の餌食になる。
貫いた獣を腕の一振りで槍から飛ばす。
身の丈ほどの大剣でリリーチェは獣を切り伏せていく。
一頭がリリーチェに向かってきたときには丸ごと凍らせて砕いた。
馬上で使う前提なのでリリーチェの大剣は通常の物より長い。
「よく馬の首を切り落とさないわね」
槍をふるいながらエリーチェが言う。
半時ほどで駆除を終えて二人は武器についた血をぬぐう。
「これくらいなら姉さん一人で何とかなったでしょう、何故私を呼んだの?」
リリーチェの実家の領地は食っていくのがやっとなくらいの痩せた土地だった、そのうえ魔物も多い過酷な土地だ。
そのため生きていくためには戦闘能力が必須だった。
領主一家は男女の別なく極めて高い魔力を持ち、さらに体格に恵まれ武術にも長けている。
リリーチェは女性としてはしっかりとした体格をしている。いわゆる堂々たるという形容詞の着く体形だ。
そのためドレスが大変難しい。ウエストに脂肪はそれほどないが腹筋が付いているためコルセットで締め上げることが難しい。
身長の七割ほどの長さの大剣を自在に扱うその腕はみっちりと筋肉がついているため袖を工夫しなければならない。
肩ががっちりしているのでオフショルダーが難しいなどの制限を解決してくれている腕利きの服飾職人と知り合えたのは幸運以外ないとこの出会いだけは感謝している。
「リリーチェ、荒れているわね、戦い方でわかった。貴女は冷静さを欠いているわ」
エリーチェは真剣な目でリリーチェを見つめる。
「何かあったの?」
幼いころからずっと一緒だった姉の目はごまかせない。
リリーチェはずっと夫のふざけた言動とそして息子の将来について悩んでいた。
夫を殴り倒して離婚することはできるかもしれない。しかしそうしたら息子は伯爵家の跡取りの地位を失う。
息子を連れて実家に戻ったとしても領主たる兄のもとで働くしかない。
それがわかっていてのあの夫のくそったれな提案なのだとリリーチェはわかっていた。
想像の中で何度夫の首を絞めたかわからない。
「何もできないかもしれないけれど、話を聞くだけでもさせて」
エリーチェは真摯にリリーチェに話しかけた。
リリーチェ、エリーチェ姉妹はストレートタイプの体形です。アリエルはウェーブタイプ。