リッチの言葉の結び
リッチはウサギの顔でできる限り笑顔を浮かべた。
「そして天使ちゃんだけど、致命的な一撃を加えた後さらにとどめを刺すその心構えは戦士の魂を持つ天使ちゃんはなぜうちの夫に引っかかったのかというと、まあ長い長い話があったのよ」
「天使ちゃんはとりあえずうちの旦那をちょっと締め上げたあとあの天使ちゃんはそれはそれは神妙に謝ってくれたわ」
「天使ちゃんって」
猫が遠い目をした。
「まあ、天使ちゃんもいろいろたまってたのかもしれんな」
ハリネズミが呟く。
「まあ、天使ちゃんと夫の婚約が破談になったのは天使ちゃんが幼い子供だった頃。その時点で夫への恋心なんぞ逆さに振っても出てこない状況だったので天使ちゃんにはさして痛手にならなかったそうだけど、ただ、夫がいらないことを言ったようなの」
「いらないことって」
猫が聞く。
「まあ、天使ちゃんの家の財政問題が婚約破棄の理由なんだけどあの馬鹿はいろいろといらないことを言ったようなのよ、天使ちゃんの母親が怒りのあまり泣きわめくような暴言の限りをね」
無言でその場にいる全員が軽く首を横に振る。
「本当にとんでもない男と結婚したね」
「というか。そんなことをやらかしたのに、天使ちゃんをものにできると思ったわけ?」
財政状態が婚約時と変わったので婚約破棄はたまに聞く話だが、其れでも後ろ足で砂をかけるような真似をすることはあまり聞かない。
「最低だな」
人格を疑う話だ。
「まったくだわ、もしこの話を最初に知っていたら結婚してなかったわ」
「その人頭大丈夫か?」
天使ちゃんの心証がものすごく悪いに決まっているだろう。
「なんだかあの馬鹿、人の心を慮るという機能がないみたいなのよ、そして自分の思う通りになるという思い込み」
それが母親を虐待する父親を見て育ったせいなのかそれとも生来の欠損なのかは定かではない。
「うちの子は注意深く育てようと思うわ」
リッチはため息をつきつつそう言った。
「そして、だから天使ちゃんがなびくようなそぶりを見せた時もおかしいと思わなかったのよねえ」
「もしかして、天使ちゃんって」
「そうよ、残心を忘れない戦士の魂を持つ天使ちゃんはなびくような態度で釣って適当に侯爵閣下に突き出して制裁しようと思ってたそうよ」
「ああ、話を聞いたらそうだろうなと思うわ」
「侍女を離して来いと言われたときわざと侍女を置いてご亭主を連れて行こうとしていたわけ、ついでに尋ねてきた私について来いと言った時更なる制裁を心に秘めていたようよ」
「女怖い」
「まあ、まさか薬を盛ろうと用意していたのにはちょっと怯えていたわ、それで涙ながらに、もしあの時お母様にひどいことを言ったのを反省していたなら何もしようと思わなかったが、まるでそれを感じさせない様子で媚びてきたので許せないと思ったそうよ」
そしてリッチは軽く首を振った。
「良識があれば防げたことばかりね」




