物理的にお話ししましょう
ステイがハデスの手を離し袋とその中身を注ぎ込まれたお茶を手に取る。
「証拠確保しておきます」
「ご苦労」
リリーチェはそう言いながら夫である人物の襟首をつかんだ。
そのまま問答無用で引き寄せる。至近距離で見たその目はこれから屠る獲物を見る目だった。
「何をする気だ」
さすがに状況から身の危険を感じたのかもしれないがすべては遅すぎた。
「ええ、その薬?」
アリエルは思わずドン引きしていた。
「何をするって、これからゆっくりとお話しするんでしょう」
リリーチェは薄く笑っているが目は絶対に笑っていない。
「お前、何を言って」
「これはこちらの話だけど」
そう言ってリリーチェはガストール侯爵を横目で見る。
「ねえ、どう考えてもあなたが責任を取らなければならない案件よね」
リリーチェはそのまま襟首をつかんだままダンテを引きずって行った。
そして、近くの公園まで連れてくる。結局ガストール侯爵夫妻もそのままついてきてしまった。
「この薬の成分分析と入手ルートで証拠になると思われます」
リリーチェはそう言って薬とティーカップを渡す。
夫妻はそれぞれを一つずつ受け取る。
「さて、お話ししましょうね」
リリーチェはそのまま夫を投げ捨てる。
「だから、俺は真実の愛を見つけたと」
「それで、その愛の相手は?」
夫はちらりとアリエルを見たがアリエルはふいっと目をそらした。
「だから、君だって新しい人を見つけていいと言ったじゃないか」
「それって貴方が勝手に言っていただけよね、それに、貴方浮気相手の旦那を私にあてがおうとしたわよねえ、ちゃんと調べてあるんだけど」
公園は無人ではない。たまたま目に入ったや、耳に入ったらしい人間が遠巻きに見ていた。
「それに真実の愛の相手すら貴方が勝手に言っていただけよね」
ガストール侯爵の前であんな政略結婚可哀そうだ、などという主張を展開できるわけもなく。
「なんなんだよ、俺は最初から子供だけ作ったらそれぞれ自由にしようって言いたかったよ、でも言えなかった、わかるか、お前の父親に圧力をかけられたせいなんだ」
リリーチェの父はまあ、過酷な大地で生活していたためそれはそれは見た目に反映している人だった。
「なんなんだよお前、その身体のほとんどは筋肉じゃないか、詐欺じゃないか」
「私が貴女と結婚する理由についても、貴方のせいよね」
リリーチェは再び夫の襟首に手をかける。今度は両手で。
ゆっくりと上にその手をあげる。最終的に夫のつま先が地面から浮いた。
「貴方が隣の領地の娘さんにふざけたことをしてそれで関係が悪くなりうちの騎士団を駆り出さなきゃならなくなったのよねえ」
夫が泡を吹きだした。
「やめなさい、殺してはダメだ」
ガストール侯爵が慌ててリリーチェの背中に手をかけた。




