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お話ししましょう

 アリエルは馬車を降りると待ち合わせだというティールームに入っていった。

 その背後でリリーチェとガストール侯爵が隠蔽魔法をまとった状態でついて行っていた。

 リリーチェの隠蔽魔法はステイほどの精度ではなく持続時間も短い。

 だが普通の人間をほんの数分ごまかす程度ならば何の問題もない。

 アリエルがハデスのいる場所に歩いていく。

「アリエル、ちゃんとあの二人を置いてきたんだね」

 ハデスは喜色満面という顔でアリエルを出迎える。

「ではお茶を頼みましょうか」

 アリエルがにっこりと笑った。

 どこから見ても逢引きをしている二人だが、アリエルの手引きでアリエルの夫とハデスの妻が至近距離で二人を見ている。

 ガストール侯爵はちょっとだけリリーチェを見直していた。

 これほどの隠蔽技術は、王室魔導舞台でもできる人間は少ない。きわめて強力な魔術師だと。

 リリーチェからするとそれほどこなれていない技術だ。つまりリリーチェの故郷は魔境なのだ。環境もそこに生きる人間もとがらなければ生きていけない。

 そんなわけで堂々と逢引きしている二人を至近距離で観察していた。

 アリエルのもとに薄い紅茶カップが届けられた。アリエルはそっと一口だけ飲んだ。

 そしてソーサーにカップを置いてアリエルはにっこりと笑った。

「それで二人を置いてどういうお話があるの」

「話というかね」

 そう言ってハデスはちょっと困ったように笑う。

「君は気づいていないのかな」

 そう言ってそっとアリエルの手を取った。

「君は僕の気持ちにこたえたいから二人を置いてきた、そう言ってくれないか?」

「気持ちって何かしら。言ってくれないと分からないわ」

 アリエルはただ笑んでいるだけだ。

「じゃあ、行動で示すしかないのかな、ああ、ケーキを取ろうか、何がいい?」

 そう言ってアリエルにメニューを渡すとアリエルはそれに視線を移す。

 その隙にアリエルの紅茶に袖に隠した袋の中身を注ぎ込む。

 その腕を誰かがつかんだ。

 ステイはその姿勢のまま、隠蔽をかけているリリーチェに視線を向ける。

 リリーチェは頷いた。そしてリリーチェとステイは同時に隠蔽を解いた。

 いきなり動かなくなった腕に戸惑っていたハデスは何とか腕を動かそうともがいたが全く動かない。

 不意に動かなくなった腕をつかんでいる手が見えるようになった。

「誰?」

「お久しぶりです」

 ステイは冷たい目で見下した。

「何をしているの?」

 ゆっくりと一言ずつ区切りながらリリーチェはそう言った。

 ガストール侯爵はリリーチェより背が高い。だから後ろにいてもその姿はしっかり見えた。

 ステイが袖から薬物らしいものが入った袋を引き出した。

「それじゃ、お話ししましょうか」

 リリーチェは異様にゆっくりとそう言った。



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