水晶玉相談にリッチが登場しました
チリチリと何か硬いものが震える音がした。
これから始まる。これからひと時の秘密の時間が始まるのだ。
水晶玉がいきなり光った。水晶玉を見ていた男はとっさに目を押さえた。
その球面に怒り狂ったウサギが映る。
「ちょっと夫がありえないんですけど」
目が座った状態でとつとつと語った。
この世界では魔法の水晶玉通信網が発達している。貴族の大多数は魔力持ちなので問題なく使える。
そして、これは普段定時連絡、緊急連絡に使われるが、無差別に暴露系あるいは相談などの連絡網もあったりする。
「さて、名前を名乗ってもらおうか」
この部屋の主は水晶玉にそう問いかけた。水晶玉に語り掛けるとその姿が相手に映し出される。この部屋の主はひよこの姿であらわされるそうだ。
なぜかと言いうとこの連絡網はあくまで匿名そのため本来の姿かたちとは全く違う姿で映し出される。その姿はあくまでランダムだった。
この怒り狂うウサギは何かを暴露するためにこの連絡網につながったのだ。
「リッチと呼んでちょうだい」
おそらく本名をもじったと思われる名前を名乗る。
「さて、具体的にどうご主人がありえないのかな」
女は水晶玉を見つめていた。水晶玉の中には黄色いひよこが渋い声で先を促していた。
「私と夫は政略結婚よ、まあ貴族なら恋愛結婚のほうが珍しいのだから当たり前よね」
女は苦く笑う。
「先日夫に言われたの。私たちは政略結婚なんだから、本当の愛は別に求めようって」
水晶玉にハリネズミが映った。
「それで、結婚してどんだけ経っているわけ」
甲高い女性の声でそう言った。
「子供が五歳を過ぎているというわ」
「つまり、今まではそれなりに仲良くしてたってわけだ」
普通政略結婚で結婚したカップルの関係性はほぼ二つに分かれる。
跡継ぎを作った後別に愛人を夫婦それぞれに作るかさもなければそれなりに努力して家族としてのきずなを作ろうとするか。
彼女の場合は後者を最初選んだ後にいきなり前者をしようと夫がいきなり言い出したということだ。
「ふつうそれは結婚当初に言うのが礼儀よね」
ハリネズミが呆れたように語る。
「そうなのよ、何が本当に愛する人を見つけたっていうのよ」
女はキリキリと歯をかみしめる。