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まもなく、リリエが小道の角から飛び出してきた。ルナを見つけた瞬間、ほっとした表情になるが、すぐにアデルの存在に気づいて身構える。

「ルナ、大丈夫!? 怪我してるの?」

「ママ……足、痛い……」


駆け寄るリリエ。アデルは扇子で口元を覆いながら、さも同情するかのように言う。

「見つかってよかったわね。私、ちょうど通りがかって助けようとしたのよ。でも意外と手強くて……ふふ、あなたの娘さん、なかなか可愛いじゃない」


リリエは歯を食いしばり、ルナを抱き寄せる。

「どういうつもり? ルナに何をしたの?」

「別に何も。ちょっと手を貸そうかと思っただけよ。……それより、祭りのほう、大変なことになってるみたいね。“火の玉が飛んできた”とか」


その言葉にリリエは激しく動揺する。

「火の玉? まさか……ルナじゃないわよね」

「まあ、あなたの娘は風の魔法っぽいわよね? 炎なんて出せるのかしら。もっとも、魔法って言ってもいろいろあるだろうから、実際どうだか……」


嫌味っぽく嘲笑するアデル。リリエはうんざりしつつも、ルナを優先させたい一心で振り返った。

「とにかく、ルナを抱えて戻ります。あなたには関係ない話よね。ごめんなさい、失礼するわ」


アデルは通せんぼするように扇子を広げ、「でも、あなたたちに関心はあるわ。近々、お話しましょうね。公爵様も含めて……」と囁き、踵を返す。

その冷たい視線に、リリエは身震いする。――幼い娘が標的にされているのを痛感し、強く抱きしめた。


「ルナ、しっかり。すぐに治療してあげるから……」

「うん……ごめん、ママ……」


母娘は夜の小道を戻りながら、不気味な“火の玉騒動”とアデルの言動に胸を乱される。嵐の予兆がますます濃くなるのを感じつつ、リリエは「絶対に守ってみせる」と強く誓った。


祭りの騒動が一段落し、人々は落胆と困惑を抱えながらも深夜を迎えた。

大怪我人はいなかったものの、“火の玉事件”により祭りは事実上中断となり、客足は一気に減ってしまう。


村長が「まさかこんなことになるとは……」と肩を落とし、公爵は「申し訳ない、僕の警備が不十分だった」と頭を下げる。ゲルハルトは「原因を徹底的に調べます」と言い残し、あちこち捜索に走っていた。

アデルは表向き「怖かったわ」としおらしく振る舞っているが、その眼光は鋭い何かを企んでいるのが見て取れる。


リリエはルナを家へ連れ帰り、足の腫れを冷やしながら不安げに夜空を仰ぐ。

「火の玉って、一体誰が……何のために? まさか、伯爵家の差し金……?」

「ママ……わたし、痛いのは我慢できるけど、みんなが困ってるのが嫌だよ……」


ルナが涙目で言うのを聞き、リリエはぐっと彼女の手を握る。

「平気よ。きっと公爵様と村の皆が何とか解決してくれる。私たちは今は目立たないように、怪しまれないようにしよう。ルナが魔法を疑われたら大変だから」


暗い部屋で、母娘はじっと夜明けを待つ。窓の外からは時折、兵士たちの足音が響いてきた。

こうして嵐の前触れは、ゆっくりと村を包み込み始めている。

火の玉の正体は何か? アデルやゲルハルト、伯爵家の動きはどう結末に向かうのか? そして公爵とリリエの想いは果たして通じ合うのか――。


まだ夜は深い。だが、夜明けが訪れると同時に、新たな試練と決断が母娘を待っていることは間違いない……。

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