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数時間経って、ようやく煎じ薬を病人に飲ませ終えた。熱冷ましの湿布を作り、脇や額に当てて体を冷やす。

しかし――夜になっても、高熱にうなされる子どもたちの症状はなかなか好転しない。中には呼吸が苦しそうな子もいる。


「……やばい、まずいわね」

私が唇を噛むと、隣にいた村長が心配そうに言った。

「薬師が来るまで何とか持ちこたえてくれればいいけど……もしこのまま悪化したら命にかかわるかもしれない」


焦る気持ちの中、ふと視線を上げると、公爵やゲルハルトが部屋の隅で状況を見守っている。二人とも憂いを帯びた顔だ。

(どうにかしてあげたい……でも私の薬草知識では限界がある。ルナの力があれば、少しは楽にしてあげられるかもしれない)


私は迷う。伯爵家での過去のトラウマが頭をよぎり、「魔法はもう見られたくない」と思う一方、「目の前の子どもを救いたい」という気持ちが膨らんでいく。

(どうする? ここでルナを呼ぶ? でも、公爵や騎士もいるし、目立つ行動をしたら確実にバレる……)


そんな私の揺れる思いを見透かしたように、カイル公爵が近づいてきてぽつりと声を落とす。

「リリエさん、少し外へ出ないか。話したいことがある」


夜風に当たりながら、私は公爵と家の裏手へ回った。ゲルハルトの姿はなく、集落の人々も看病で手が離せず、私たちは二人きりだ。

「あ、あの、公爵様……こんなところで何を……」

「率直に聞くけれど、君は“何か”隠しているんじゃないか?」


ドキッとする。私は一瞬言葉を失った。

「隠している……って、何のことでしょう」

「薬草や看病の知識だけじゃない、もっと特別な力があるんじゃないか、と言いたいんだ」

「そ、そんな……私には大した力は……」


必死に否定するも、公爵の目は優しげながらも鋭い。

「昨日の村長の話、そしてマーサの子どもが治った件……“ただの薬草”というには、あまりに早い回復だったと皆が噂しているんだよ。騎士のゲルハルトも興味を持っているようだ」


(やっぱり……ゲルハルトはそれを探っていたのね)


「でも安心して。僕は無理やり君を問い詰めるつもりはない。大切なのは、今まさに苦しんでいる子どもをどう救うかだ」

そう言って公爵は、夜闇の中で私をまっすぐ見つめる。

「もし本当に何らかの力があるなら、使ってくれないか? もちろん危険があるなら無理は言わない。けれど、このままだと手遅れになるかもしれない」


私は拳を握り、迷い続ける。

(公爵様がこんなに真剣に頼んでくれるのは嬉しい。でも、ルナの力がバレたら……また“あのとき”みたいに追放されたり、危険な目に遭うかもしれない)


「どうして……そこまで?」

「領民を守るのは、領主の義務だからね。子どもの命が失われるのを黙って見てはいられない。たとえ手段が“普通じゃない”力でも、救える可能性があるなら試したいんだ」

「……公爵様は、私たちを利用するつもりなんじゃ?」

「そんなつもりはないよ。少なくとも、僕は“人を大事にする”ためにこの領地を治めている……信じてもらえないかな?」


真っ直ぐな言葉。伯爵家で散々味わった“貴族の打算”とは違う気がした。

(信じていいの……?)


視線を落とす私に、公爵は切なそうに言葉を継ぐ。

「君がどう選ぶかは自由だ。でも僕は、あの子たちを見殺しにするぐらいなら、奇跡にすがりたい。……もし君に余力があるなら、手を貸してほしい」

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