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2.この[王子ルート]は最悪




 【煌めく大空の彼方を見上げて】は、《前世》の私が好んでプレイしていた乙女ゲームだ。

 心優しく、純情可憐で容姿も可愛い主人公のリルカ・アンタレーが、複数人いる攻略対象者の中から一人を選んで、その対象者と恋に落ち、最後はハッピーエンドかバッドエンドかのどちらかになる。


 王道はシナリオが人気の[勇者ルート]なのだが、[王子ルート]もある意味印象が強い。



 “悪役令嬢”のセイフィーラ・ベラトリクスが、報われな過ぎて救いが無くて本当に可哀想なのだ。




 [王子ルート]は、前半はセイフィーラとユークリット王子の仲睦まじ過ぎる描写やスチルが見られ、他のルートでも大変仲が良い二人なので、プレイヤーが彼らに感情移入して小花を飛ばしてホッコリしているところにヒロイン(リルカ)が学園に転入してくる。


 ユークリットはリルカの可愛さに一瞬で一目惚れをし、学園の案内を頼んできた彼女に快く二つ返事をする。

 そして、学園を案内して回っている間に彼女が見せた笑顔や純粋さや素直さに、ユークリットの心は坂道を転がるように急速に彼女へと傾いていくのだ。



 そしてある日、ユークリットはセイフィーラに正直に自分の想いを告げる。



「すまない、セイフィーラ……。俺は純粋無垢なリルカを愛してしまった。彼女の笑顔は、俺に癒しをくれるんだ……。彼女も俺を愛してると言ってくれた」



 と……。



 ユークリットを心の底から愛していたセイフィーラは酷くショックを受け、心に大きくヒビが入ってしまった彼女は、嫉妬と憎しみでリルカに嫌がらせをするようになってしまった。


 それが周囲にバレてしまい、どんどんと孤立していくセイフィーラ。



 しまいにはユークリットの耳にも入ってしまい、【卒業前記念パーティー】の日、彼はリルカの身体を強く抱きながら、怒りと憎しみの目をセイフィーラに向け、人差し指を突きつけ皆の前でこう叫ぶのだ。



「セイフィーラ・ベラトリクス、貴様との婚約をここで破棄するッ!! リルカにしてきた数々の嫌がらせを私が知らないと思ったか? この性悪女め!! 二度とその面を俺に見せるなッ!!」



 ……と。



 そしてセイフィーラは皆から責められ、涙に濡れ逃げ帰った実家から「騒ぎを起こして侯爵家に恥をかかせた」と勘当され、最終的に彼女は修道院に送られることになったのだった……。




 他のルートや前半のセイフィーラとユークリットのとても仲睦まじい姿と、最後の二人の決定的な決裂と、彼女の理不尽な結末に、プレイヤーのほぼ全員がコントローラーを壁や床に叩きつけ咽び泣いた。



 最初に長い時間見させられた二人のイチャイチャシーンは何だったのか、と。

 二人に感情移入させた挙げ句こんな結末はあんまりだ、と。


 他のルートでは文武両道に秀で婚約者をとても大事にする立派な王子なのに、このルートではヒロインが現れた早々浮気をし、愛していた婚約者に冷たい態度を取る徹底的なクズになっていて、ヒロインと王子の仲を全く応援出来ない、と。


 後半で、ヒロインと王子の仲睦まじいスチルや、危機的状況に陥り、二人の信頼と愛を確かめるシーンもあったけれど、終始半目の白けた目でしか見られなかった、と。


 バッドエンドでこんなに胸がスッとしたのはこのゲームが初めてだ、と。

 このバッドエンドが正式で公式なハッピーエンドだ! と。逆にハッピーエンドが正規のバッドエンドだ、製作陣は今すぐに謝罪して訂正しろ! と。




ちなみに[王子ルート]のハッピーエンドは、卒園後に二人はすぐに結婚し、のちに王と王妃になりいつまでも幸せに暮らしましたとさ。はい、めでたしめでたし! な、二人幸せならそれで良しの典型的なエンドだ。



 バッドエンドは、【卒業前記念パーティー】の前日に、二人の仲睦まじい姿をもう辛くて見ていられなくなったセイフィーラから、「婚約破棄したい」と涙ながらに告げられ、ユークリットは微笑みながらそれをすんなりと了承する。


 セイフィーラを慰めも引き止めもしない、挙げ句の果てに()()()()()()言ったユークリットに、プレイヤーの彼への好感度は、ここで完璧に地の底に落ちた。


 その後、静かに学園を去って行ったセイフィーラはもう最後まで出てこない。



 彼女の行く末はどうなったのか、ゲームでも公式でも何も語られない……。



 なので私は、その後彼女は家から勘当されず、ユークリットより好きな人が出来て、その人に深く愛され生涯幸せに暮らすという脳内妄想をして溜飲を下げた。


 そして血眼でネットを見て回って、同じ気持ちと同じ脳内妄想をしているプレイヤーが他にもいることに、顔も知らぬ彼女らに親愛なる仲間意識が芽生えたのだった。






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