ハウ王国への手紙
ハウ王国へとたどり着いた白たちは、リゼに言われるがままギルドが運営している宿へと案内された。
「私がお父様に話を通してきますから、皆様はここでお待ちください。」
「わかったよ~」
そういうとリゼは兵士を連れて城の方へと向かった。
宿に残された賢者たちのうち、シエルがエリスに呼び掛けた。
「エリス、昨日倒したモンスターの素材、ギルドに持ってかない?」
「私はいいけど、その間に呼びに来ちゃうんじゃないの?」
エリスはシエルと共にギルドの方に行きたかったが、王城からの呼び出しが来ることを懸念しており、白に視線を送りながら言った。
「こっちのことはお姉ちゃんたちに任せときなさい!エリスは好きなようにしていいよ。」
「…うん。じゃあシエル、行こう。」
白の了承を得たエリスとシエルは、早速ギルドの方へと向かった。
2人が宿から出た後、ソイルは若干面倒くさそうに、
「あ~俺はいろんなやつのメンテがあるから行けんわ~。」
「だったらゼータもここで待っとく。」
と言った。
ゼータはソイルの方に寄りかかり、目を瞑りながら待つと言うと、ヘスティアが残りの三人に対して話しかけた。
「ソイルならそう言うと思ったわ。じゃあ白、私とアルスと三人で行きましょうか。」
「そうだね~、どのみち私はやることないし。ま、アルスが一緒だったら何でもいいけどね。もちろんヘスティアがいてくれると頼りになるからありがたいよ。」
「ついでみたいに言うなら言われない方がまだマシだわ。」
白はアルスに抱き着きながら、ヘスティアの方を向いて思い出したかのように言うと、ヘスティアが苦笑いしながら突っ込みを入れた。
「僕も行くんですね…」
もはや諦めてされるがままになっていたアルスは、ため息混じりに呟いた。
そして少し時間が経った後、高齢の執事が白たちを呼びに来た。
「賢者様方、国王様がお呼びでございます。」
「は~い!アルス、ヘスティア、行こっか。」
「王城までご案内いたします。」
執事に連れられて、白とアルス、ヘスティアの3人は王城へと向かった。
宿を出たシエルとエリスは、ハウ王国内のギルドへと来ていた。
ギルド内に入り、受付で倒したモンスターの素材を受付嬢に渡した。
「え…この数をお二人だけでですか⁉」
「何かおかしかったですか?」
「あ、いえ…では少々お待ちください。」
そう言うと受付嬢は受付の奥へ行った。
2人は空いている席に座ろうと移動している時だった。
「おいそこの女共。」
「…何ですか?」
2人は大柄でいかにも悪そうな男性に引き留められた。
シエルが男性に睨みをきかせながら返事をした。
「てめぇら、代行だろ。ギルドじゃ禁止されてる行為だ。それをやったってことは…分かってんだろうな。」
「私達代行じゃないですよ。あの素材は全部私たちが倒したモンスターの物ですし。」
「調子のってんじゃねぇぞ!」
大柄の男性が2人に手を出そうとした時だった。
「おい、その子らに手を出すのはやめておけ。」
ギルドの出入り口付近から男性の声が聞こえた。
エリスはその声をどこかで聞いたことがある感じがした。
2人に手を出そうとしていた男性は、その声の主を見ると懐かしそうにしていた。
「シルバ、ラータにルイスまでいるじゃねぇか。こいつらに手を出すなってどういうことだ?」
「デリン、その子らは代行じゃねぇよ。そっちの金髪の子、エリスって言ったっけ?俺らのパーティーはその子に負けたことがあるんだよ。」
「あのグロージェントがか?それこそありえねぇな。」
「嘘じゃないんだけどな。しょうがねぇ…君たち、ギルドカードを見せてくれないか?」
2人に突っかかってきたデリンは以前グロージェントがエリスに負けたということを信じられず、鼻で笑っていた。
「いいですよ。」
シルバたちに言われた通り、エリスとシエルはギルドカードを見せた。
2人の出したギルドカードは表面の縁から紫に輝く紋様と名前が装飾されており、裏面には金色に輝く冠が印されていた。
「その色…マスターランク!?」
「な、言ったろ?彼女らの強さは本物だってな。」
「あ、あぁ。疑ってすまんかった。あんたら、本当に強かったんだな。」
デリンは2人のギルドカードを見ると驚愕し、頭を下げて謝罪した。
シルバは何となく分かっていたようで、特に驚くことはなく、笑っていた。
「まぁ俺も2人がマスターランクだってのは知らんかったけどな。」
「もしかしてセントラルで話題になったマスターランクパーティーって、貴方たちの事だったのね。」
「そりゃあ私達じゃ手も足も出ないわけだ。」
ラータとルイスは多少驚いているようで、当時のことを思い出しながら納得した。
その話を聞いていたギルド内の人たちもコソコソと喋っており、この後噂が広がるのは時間の問題だった。
「デリン、お前は依頼でも受けて頭冷やして来いよ。」
「あぁそうする。だがその前に…エリスさん、シエルさん。何かお詫びをしたいんだが…。」
デリンは2人に近づき申し訳なさそうにしている。
するとエリスは何か思いついたため、デリンに対し約束を提案した。
「じゃあこれからは人を見かけで判断するのはやめてね。」
「もちろんだ。」
「それが守れれば、あとは大丈夫。」
その約束を守るとデリンは固く誓った。
エリスはそれ以上言うことはないと笑顔で返すと、デリンは依頼を受けるため、受付の方へと向かっていった。
「俺の友人が迷惑かけて悪かったな。あいつ、悪い奴じゃないんだけどな。」
「えぇ、私たちが最初に会った時は彼もランクが低い時だったけど、依頼を手伝ってもらったこともあるわ。」
苦笑いをしながら話したシルバにルイスも同意見であった。
デリンはランクの低い時があったため、ズルをすることを許せないのだろう。
エリスとシエルは最初からランクが高く、通常の依頼についてよくわからなかった。
「普通ですと、ランクの低い時はどういった依頼をやるんですか?」
「採集の依頼、もしくは低ランクモンスターの討伐とかが多いな。」
「私たちのパーティーも、最初はゴブリン相手に苦戦したのよ。」
「そうなんですね~。」
シルバとラータの話を聞きながら待っていると、受付嬢がゴールドの入った袋を持ってきた。
「こちらが素材の合計換金額、100,000Gになります。」
「ありがとうございます。」
お金を受け取ったため、そろそろギルドから宿へ戻ろうと思っていた。
するとシルバが疑問の表情を浮かべていた。
「まさか2人はその為に来たわけじゃないだろ?俺らはセントラルギルドのギルドマスターからの依頼で、ウォードルスの支援に行くように依頼を受けてんだ。あんた等も同じじゃないのか?それにほかの仲間はどうしたんだ?」
「ほかのみんなは多分いま王城にいると思うよ。」
「王城!?え、なんで?」
シルバの疑問にエリスがなにくわぬ顔で答えた。
しかしラータは立ち上がり、机に身を乗り出しながら驚いていた。
「あ~その、私たちも同じ様にウォードルスの支援にはいくんだけど、その前にイリス王女からこの国とストルム王国に手紙を届けるように言われてるんだよね。」
「イリス王女って、エンスタシナ王国のイリス・シルフィード王女殿下のこと!?そんなすごい方と知り合いだなんて、貴方たちは何者なの?」
ラータの圧に押されながらもシエルは自分たちの目的を答えた。
驚きの表情を浮かべていたラータだったが、少し落ち着くと座りなおした。
シエルはラータから聞かれたことに対して質問で返した。
「賢者って知ってますか?」
「そりゃあ知ってるわよ。水魔法のヴァルナ様、炎魔法のエトナ様、光魔法のストレリチア様、闇魔法のラミア様、風と地の魔法を扱うホルス・ガイア様。かつて世界を救った5人の英雄の事よね、物凄く強かったって言われてる。それがどうしたの?」
「もしその子孫がいるとしたら?」
「物凄く強くて、英雄視されるような……!?もしかして………」
シエルからの質問に対して、今度はルイスが答え始めた。
指を折り曲げながら5名の賢者の名前を語り、シエルの誘導するような発言の意味を考えると、だんだんと表情が変わって言った。
「私たちが今賢者って呼ばれてるんだ~。」
エリスが自信ありげに答えた。
グロージェントの3人は驚きと多少の恐怖が混ざった様な表情をしていた。
「そ、そんなすごい人たちだったのね貴方たち。」
「あぁ、驚いたよ。だがそうじゃなきゃあんな強さ、納得できねぇしな。」
「私たち、失礼な事しちゃってたじゃない!」
だが今まで聞いた事が、“彼女たちは賢者である”という事を示しており、3人は驚きが抜けないまま理解した。
「いやいや、大丈夫ですよ。」
「うん、気にしてないよ。これからもいつも通りでいいよ」
「そう言ってもらえて助かるよ。っと、俺らはそろそろ行くか。2人に…いや、賢者様たちにまた会えるのを楽しみにしてるよ。」
シエルとエリスは笑顔で返答した。
シルバたちはホッとした様子で2人に挨拶をすると、ギルドから出ていった。
白たちを宿へ案内した後、リゼは護衛の兵士を連れ王城へ帰ってきており、玉座にいるルフト・ジーフォンの元に居た。
「お父様、ただいま戻りました。」
「リゼよ、戻るのが早かったが何かあったのか?」
兵は玉座には入らず、自分の仕事へと戻っており、リゼと王直属の部下だけがその場にいる。
ルフトはリゼの身に何かあったのかと心配そうにしていた。
「その事なのですが、まずお願いしたいことがあります。私が王国に戻る前にモンスターに襲われていたのです。しかし偶然にも近くにいた賢者様方が助けてくださったのです。賢者様方は今ギルドの運営している宿に降りますので、お呼びしたいのですがよろしいでしょうか?」
「ふむ、よかろう。バラムよ、その者たちを連れて参れ。」
「承知いたしました。」
リゼの頼みを受け入れ、執事に呼びに行かせたが、どこか疑っている様子だった。
だがそれよりも話したいことがあったため、リゼとの会話に戻った。
「ではリゼ、なぜこんなにも早く戻ってきたのだ?」
「会議でのお父様の発言、連絡係として連れていた兵から聞きました。リーフハーバーへ最後通牒を送ると。」
「そのつもりだが、それがどうしたのだ。不満でもあるのか?」
ルフトの圧に負けじとリゼが恐る恐る話し始めた。
だがそれを聞き、ルフトはリゼに睨みつけるようにした。
「...そうです。私として..ではなく、この国の国民も、争うことには反対のはずです。このままではエンスタシナ王国やストルム王国との溝も深まるばかり、それなのにどうして......」
「ではお前はこの国の現状を打破できる方法がそれ以外にあるというのか?建国の際に発生したウォードルス王国への借金、今までウォードルス王国との貿易で得ていた物資も、今やその大半がストルム王国へと流れている。リーフハーバーにいる商人の殆どがエンスタシナ王国と繋がっている事も、物資不足の原、関係悪化は避けられないことだ。この国の未来を考えた時、リーフハーバーを攻めることのメリットは大きいのだ。」
「...」
ルフトが国王として考えていることは、この国のためであることは分かっていた。
ただリゼは争わず、誰の血も流れない、そんな解決法があるかもしれないと思い、白たちのことが脳裏によぎった。
しかしこの場では何も思いつかずに黙ってしまった。
そんな時、玉座の扉がノックされ、バラムの声が聞こえた。
「賢者様たちをお連れいたしました。」
「入れ。」
白とアルス、ヘスティアの3人は玉座の間へと入った。
リゼの希望に満ちた視線を浴びながら、ルフトと話し始めた。
「そなたらがリゼを救ってくれた賢者達か、真実に感謝する。我が国は今厳しい状態のため、褒美を取らせるのが難しいのだが、金や物資以外の願いであれば聞こう。」
「ではこちらの手紙を読んでいただけませんか?イリス王女からです。」
「?イリス殿からとは…一体どういうことだ。」
白が手紙について話し渡すと、ルフト王は怪しんでいたが、やがてその手紙の封を開け、中の手紙を読んだ。
するとルフト王は手紙の内容を頭の中でまとめ、何かを考えていた。
「(この者たちが本物の賢者である事は理解した。そして三ヶ国会議を開くとは。この会議で我が国の問題の解決が出来るやもしれんな...)」
「お父様、どうされました?」
「少し考え事をしていただけだ。だがそなた等はイリス殿が信じる程の者、それにわが娘の恩人でもある。良かろう、この会議に私も出席するとしよう。そしてこの会議が終わるまではリーフハーバーへは攻めぬこととする。」
「本当ですか!」
手紙を見た父親が意見を変えたことに驚いていたリゼだったが、それよりも嬉しさが前に出ていた。
「あぁ、リゼ、先程はすまなかったな。娘に対しての態度ではなかった。」
「いえ、お父様が国のことを考える気持ちは分かりますから。ただその対応が問題だと思ったのであって...」
ルフト王はリゼに対し厳しく当たってしまったと申し訳なさそうにしていた。
父親としてでなく、国王として対応していたことはリゼに伝わっていた。
「この手紙によると、お主らはウォードルス王国の救援にも行くとのこと、ウォードルス王国が元に戻れば、物資難も緩和されるだろう。そなたらには感謝する。名をなんと申すのだ?」
「白です。」
「アルス・レーヴです。」
「ヘスティアです。」
「白、アルス、ヘスティア、この度はご苦労であった。そなたらの旅が良きものになることを願っておる。」
「皆様、ありがとうございました。ここにいない方たちにも、私たちが感謝していたとお伝えください。」
「分かったよ、リゼも元気でね。」
ルフト王は白たちの名を覚え、旅の成功を願い、リゼは手を振りながら3人を見送った。
白とアルスとヘスティアは宿に戻り、待っていたソイルとゼータ、ギルドから帰ってきていたエリスとシエルと共に、ハウ王国を出てストルム王国へと向かうのだった。