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3話 皆

「アキ! アキ! どうして、どうしてこんな事を!」


 私がいくら泣き叫んでもアキは帰って来ない。

 彼女の体は冷たく、私が揺さぶっても少し揺れる程度、彼女は死んでしまった。

 死は絶対だ。


「どうしてって。わたくしに逆らったからに決まっているでしょう? たかが平民のメイド風情が。公爵家であるわたくしに歯向かった。それだけ十分ではなくって?」


 後ろから来ていたレティシアが当然でしょう? という様に言ってくる。


「そんな! そんな事の為にアキを……。私の大事なアキを殺したっていうの!?」


 私はレティシアを殺す気で睨みつける。

 許せない。

 絶対に許せない。

 アキの仇は……絶対に……。


「そこまでだ」

「ぐぅ!」


 彼女の近くにいた騎士達が私を押さえつける。

 その拍子にアキがゴトリと床に落ちた。


「アキ! アキ! アキ!!!」

「あっはは。死体に向かって何言ってるの? 無駄だから忘れちゃえばいいのに♪」

「お前……お前えええええええ!!!」

「暴れるな!」

「がああああああぁあぁぁぁぁああぁあぁあぁぁぁ!!!」

「くっそ! 獣か!?」


 私は獣の様に吠え、騎士達に押さえつけられても目だけはレティシアを睨みつける。

 確かにアキは彼女に無礼を働いたかもしれない。

 でも、それでも命をとられるほどの事では断じてない。

 それなのに、彼女は悪びれもせずこちらを見て嘲笑(あざわら)っている。


「レティシア。そこまでにしておけ。君は舞踏会に戻っていろ」


 ロンメル殿下がそう言ってレティシアに戻るように話す。


「はぁ~い。良い物見させて貰ったから満足よ。いい加減邪魔だと思っていたのよね。わたくしの生徒会にあんなお荷物は要らないから。じゃあね」


 レティシアはそう言ってサッサと戻って行く。


「引き起こせ、但し注意しろ。そいつの力を舐めるな。一番いいやつを持って来たつもりだが……。もっと他にも拘束しろ」

「畏まりました」


 騎士はそう言ってより多くの拘束具を持ってきて、私の体にハメていく。

 腕に1個。足に1個追加でつけれれてしまえば、私は羽をもがれた虫の様にもがくことしか出来ない。


「どうして……どうしてこんなことを……」


 レティシアではなく、ロンメル殿下に向かってそう問いかける。

 そう言いつつも、私の目はきっと獲物を狙う獣の様な目になっているはずだが。


 彼はその目を平然と受け止めて、こちらを見下ろす。


「決まっている。我らが王族に対する反逆者郎党は全員処刑する。それだけだ」

「反……逆者……?」


 意味の分からない言葉を彼が言い、私の頭の中は ? で満たされる。


「口を封じろ。噛みつかれでもしたら堪らん」

「は!」


 私の口に布が詰め込まれ、声も発する事が出来なくなる。

 そして、私はまるで荷物の様に騎士2人に持ち上げられて運ばれた。


 学園からでて着いた先は馬車だった。

 (ほろ)のかかった馬車に乗せられ、ゆっくりと動いていく。


 何処に行くのか分からない。しかも夜だ。人の話し声も聞こえてこない場所。


 どうやってレティシアを殺すか、私に殺せるのか。

 いや、殺す。

 何としてでも殺す。

 そう考えて私は考えを巡らせ続けた。


 いや、まずは家族に助けてもらわなければならない。

 きっとこのまま殺しに向かっても騎士たちに防がれるだけだ。

 だから何とか父か兄……若しくは家の者達に連絡をとりたい。

 そう思っていたけれど、馬車は何の邪魔をされることも無くある場所に到着した。


 私は再び騎士に抱え上げられ、連れていかれる。

 夜目になれたので見回すとどこかスラム街の一角のようだ。

 ボロボロな小屋がそこかしこにある。ただ、ここらへんに人はいないようだ。


 すぐにボロボロの建物に連れ込まれ、地下に続く道に降りていく。

 下に到着するとそこは質素なだだっ広い石造りの部屋だった。

 ロウソクが照らし、その場には血の匂いが満ちている。


 5人の男がいた。

 1人は確か……クラッツィオ公爵、レティシアの父で豪華な服に身を包んでいる。

 白い髭を綺麗に整え、細められた目は何を企んでいるか分からない。

 その一方で、口元はにこやかに笑っており、孫が来たことを喜ぶ祖父のようでもあった。


 その周囲を4人の騎士が守っていて、かなり私を警戒している様だ。


「やっと来られましたか、カスミ・フレイアリーズお嬢さん?」

「むー! むむー! むむむー!!!」


私は彼を睨みつける。

 この状況の原因はこの男かも知れないからだ。


「そんな睨みつけないで下さい。私は貴方を助けたのですよ?」

「むー」


 そんな話は信じられない。

 こんなことをしておいて、信じられると思ったのだろうか。

 父や兄が絶対に助けに来てくれる。

 その時が来たら……。


「信じて貰えないようですね。では、彼女をこちらへ」


 公爵はそう言って一人で歩き出し、私がつれて来られた場所よりも更に奥に進んでいく。

 そこには扉があり、中はここと違って真っ暗だった。


 私はどこに連れられて行くのか。

 ロウソクの灯りを頼りに見ようにも炎が小さすぎて見ることが出来ない。


 そして、私は公爵に続いて部屋の中に入ると床に降ろされた。


「む?」


 部屋の中は酷い死臭がした。

 何人も、何十人も死んだ時の様なあの嫌な匂い。

 もう二度と嗅ぐことはないだろう。

 そう思っていた匂いだ。


 私をおいて騎士たちは全員が一つ前の部屋に戻って行った。

 その際に、公爵の指示で私の口の布が取り払われた。

 この部屋には私と公爵の2人だけ。一体何をするつもりなのだろうか。


「お嬢さん。いいですか? これは貴方方がいけないのですよ? ヴァルダー第1王子様を暗殺しようとしなければこんな事にはならなかったのに……」


 公爵はそう言いながら悲しそうに頭を振る。

 まるで自分が被害者だとでも言いたいように。


 しかし、私はそんな彼の様子などほとんど目に入って来なかった。

 それは、私も再び夜目に慣れ、部屋の中に何があるかが分かって来たからだ。


「父……様……?」


 父の首が、私と同じ高さ。床に転がっていた。


「嘘……嘘……嘘……嘘と言ってよ! あんなに強い父様が死ぬ訳……」

「お嬢さん。周りを見てみなさい」

「え……」


 私はこの時は混乱していて、公爵の言われるがままに視線を周囲に動かした。


「母……様。兄……様。他にも……屋敷の……皆……皆が……」


 私が住んでいた屋敷、その屋敷にいたほとんどの人がそこにいた。

 ただし、首だけになって。


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

「ははははははははは、いい表情をなさる。最高ですよ。貴方の様な方のそんな表情は……」


 公爵が何か言っていたけれど、私の耳には入ってこない。

 目の前の現実を受け入れられない。


「いや……うそ……そんな……どうして……うそ……。いやぁ……いやぁ……サラサ、ジャック、メアリー、フランツ……皆……皆……。どうして……どうして……」


 私はそこにいる人達の名前を呼ぶことしかできなかった。

 体が動かない。

 少しでも駆け寄りたい、何が出来るわけでもない。

 でも、彼らの側に自分もいたい。


「と……残念です。ワシもこんな事はしたくなかった。でも、お嬢さんのご家族が悪いのです。ヴァルダー様のお命を狙うこと等無ければこんな事にはならなかったのに……」

「嘘……そんな……父様は優しくて……。そんな事をする人じゃ……」


 私は縋るような気持ちで公爵の方を見る。


「本当です。その結果、ヴァルダー様のご命令でこうして全員処刑したのです。しかし、貴方は学園にいて何も知らなかった。だからワシが助命を申し出たのです。ご理解頂けましたかな?」

「嘘……ヴァルダー……様が……これを……?」

「そうです。ヴァルダー様の命令でワシ等は今回の騒動を起こしました。そして、貴方をどこかに閉じ込めておくように……とも。という訳で、ワシはこの辺りで失礼します。これもヴァルダー様の命令故聞かぬ訳にはいかないのです。申し訳ありません。それと、貴方が自殺をしないように、これを付けておきます」


 そう言って彼は私の首筋に何かを押し当て呟く。

 すると、ピリリと痛みが走った気がした。


「これで自殺は出来なくなりました。自殺防止の魔道具です。それでは」


 彼は今度こそそう言い残して部屋から出ていく。


 私は1人取り残され、首だけになった皆と一緒になった。

 彼らの顔を見るたびに私の心が音を立てて壊れていくのが分かった。

 彼らの怨嗟の声が聞えてくるようで、苦しみの声が聞えてくるようで恐ろしい。


 どうしてお前は生きているんだ。私はまだ生きたかったのに。

 お前もこっちにこい。


 彼らの苦しむような顔は私の心を壊すのに時間はかからなかった。

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