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あの日の俺は”お菓子”かったのかもしれない。

作者: 里 稀美

俺は3か月前、会社を辞めた。上司と揉めたからだ。

一時は再就職を試みたが、30歳のなんの取り柄もない男を欲しがる会社があるはずもなく、家でなにもせず過ごす毎日だ。今はスーパーのバイトでなんとか食いつないでいる。


「小説書いてるの?すごいわね!」

「あら~!今度読ませてちょうだい!」

バイト先のおばさんたちからは、未だ夢を追いかけている無名の小説家だと思われている。どこからそんな噂が立つのだろう。他人の噂話ほど怖いものは無い。とんでもない方向に尾ひれがつく。

今日も新人の女子高生から「応援してます!」と声をかけられた。

下手に関わると面倒なことになりかねないので、特に否定もせず、

俺は「あぁ」とだけ言い、立ち去った。


帰宅後、ビールで喉を潤し、スマホで就活サイトをただ眺めていた。新卒、経験あり…目に入る単語に自分の存在意義が否定されているような気がした。不安を押し込むように、気が付いたら3本目の缶を飲み干していた。


ふと、母親から荷物が届いていたことを思い出した。

おつまみがないかと段ボールの中を探ると、

小さくてカラフルなプロペラのような形をしたお菓子を見つけた。


「辻占か…。」

ふにゃりとした独特の生地に、おみくじが包まれていて、俺の地元で食べられている和菓子だった。


『あんたの好きな辻占入れたよ。たまに連絡してね。母』

添えられていた手紙を読んで、幼い頃の思い出が蘇った。


「昔の話だろ…しかもそん時はおみくじ目当てに食べてたし。味はそんななんだよな。」

しかし、それ以外につまみになるものが見つからなかったので、封を開けることにした。


「こんなに小さかったっけ…。」

1つかじると、懐かしい甘さが口いっぱいに広がった。

おみくじを取り出し、湿って丸まった紙を広げた。


―ただのお菓子。

でも、もしかしたら俺の人生を変えてくれる言葉が書いてあるかもしれない。

そんな淡い期待を持って開いたおみくじだった。


うわさ真実まことにせよ』


思わず笑ってしまった。まじかよ。

でも、これは辻占がくれたチャンスかもしれない。

どうせこのままじゃ、何も変わらないのだから。

噂通り、小説書いてやろうじゃないか。


俺は何かに突き動かされたように、Wordを開いた。

まずは、自分が小説家を目指したきっかけを作品にしよう。


さて、タイトルは…




「あの日の俺は”お菓子”かったのかもしれない。」




これはたった1つのお菓子から始まった、

無名の小説家の物語。


…かもしれない。


読んで下さってありがとうございました!!!

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