思わぬ再会と新たな出会い
「ようこそ、人類最後の拠点である特務機関:『糺』へ。――歓迎するわよ、野村 正剛君」
そう改まった様子で俺に語り掛けてくるゆかりさん。
彼女の認証が終わったのと同時に、眼前の重厚そうな扉がゆっくりと開いていく――!!
――特務機関:『糺』・会議室――
俺とゆかりさんが室内に足を踏み入れると、そこには俺と同じくらいの年頃である数人の少年少女達が既に待機していた。
明らかに値踏みするような不躾な視線を向ける者、俺に対して剥き出しの敵意を向ける者、何を考えているのか読み取れないにこやかな笑みを浮かべている者。
……そして、この状況への戸惑いを隠せない者。
友好的とは言えない空気だが、そんな事よりも俺は、戸惑っている人物を見て思わず動揺する。
セミロングヘア―に整った顔立ち。
一見清楚ともいえる雰囲気を醸し出しているが、それとは裏腹に服の上からでも隠し切れないムチプリ♡とした身体つき。
俺のような思春期の青少年の心をくすぐるには十分なルックスに違いないが――俺は、それらが全く目につかないくらいに、彼女から懐かしさとでもいうべきものを感じ取っていた。
人違いだったら、どうしよう……。
そんな考えも一瞬脳裏に浮かんだが、それよりも先に俺は思わず口を開いていた。
「お前……菊池か?」
そんな俺の呼びかけに対して、こちらと同様の表情を浮かべながら相手の少女も口を開く。
「ウソ……まさか、本当に野村君なの!?」
――やはり、間違いなんかじゃなかった。
彼女の名前は、菊池 カスミ。
小学生の頃、比較的話したりする間柄だったが、親の転勤の都合で六年生の時に遠くへと引っ越していったクラスメイトの女子だ。
ふと面影を感じたから、何の気なしに俺はその名を呼んでみたのだが……。
まさか、相手の方も特別親しくしていた訳ではない俺のことを覚えているとは思ってもいなかった。
とはいえ、そんなに共通の思い出話がパッと浮かんでこない以上、ここから先どうやって会話を切り出そうかと思案していたそのときだった。
「オゥ、コラ!何をさっきからワイを尻目にオナゴといちゃついとんねん!しばき倒したるぞワレェ!?」
下手な関西弁とともに、俺に突っかかってきたのは、室内に入った時に剥き出しの敵意を向ける男だった。
久方ぶりの会話が途切れたりして気まずい空気になるのを回避出来た事に内心で安堵しつつ、突然の不躾な態度に苛立ちながら突っかかってきたコイツを見据える。
強い言葉を使ってはいるが、何だろう……どことなく三下の雰囲気を醸し出している。
俺は曲がりなりにも客商売に関わっているため、人を見る目に関しては、同年代よりかは多少優れていると自負しているのだが、こういう手合いはお調子者気質で自分を大きく見せたがる事はあっても、むやみにこういった喧嘩を他者に売るとは思えない。
つまり、今のコイツはそんな慣れない行為に走るほど、俺に対して強い敵意を抱いているという事に違いないが……。
俺とコイツは初対面に違いないし、ここまで恨まれる理由が本気で分からない。
困惑する俺に対して、関西弁の小僧()が唾を飛ばす勢いで激しく捲し立ててくる。
「えぇか、良く聞け!!ワイはこの国で最もビッグな王様になる男なんや!――そのワイを差し置いて、お前みたいなポッと出がトップの“お内裏様”で、ワイが最下位でお前の履物係である“仕丁”やと~~~!?絶対に許さへんで!!」
そう言うや否や、盛大に両手を叩いた後に、歌舞伎のポーズでこちらを睨みつけながら、雄々しく名乗りを上げる。
「えぇか!耳かっぽじってよ~く聞きさらせ!!――ワイこそが、この国のてっぺんを盗る男!!人呼んで、関西の風雲児たる尾田山 岳人、その人じゃいッ!!」
「……」
「なんか言わんかい!ワレェッ!?」
尾田山がクワッ!と俺に向けて叫ぶが……いや、これは反応するだけしんどいだろ。
そんな事を考えながら、少しフリーズしていると、状況を静観していた残りの男女も俺の方へと近づいてきた。
こちらを値踏みしていた見かけ通りキャピキャピ☆した感じの女子が、ポップかつキュートな感じで自己紹介をしてくる。
「ハロハロ~♪アタシは“官女”の森崎 ののか!気軽にノノカッチって呼んでくれて良いよ、アタシ等のお・だ・い・り君♡――イケメンをゲットする事期待して、ここに来るまでに下着は赤ふん装備にしてきたし、これからそういう方向でドンドン!攻めていく所存なので、ヨロピク・山幸・海幸彦☆」
凄くフレンドリーながらも、俺と同年代にも関わらず赤ふんどしを装備してまで貪欲にイケメンを狙うメスガキぶりと、独自言語としか思えない強過ぎる陽キャのノリ。
悪い人間じゃないんだろうけど……俺が交流するには、少しばかり難易度の高い相手かもしれない。
そんな風に戸惑っている間に、今度はにこやかな笑顔を浮かべていたイケメンが右手を差し出しながら、俺に語り掛けてきた。
「初めまして、僕の名前は鰹陀 新太郎。覚醒したトリニティ因子の位階は“五人囃子”ってヤツだね。これから、命運をともにする仲間として気軽……とはいかないかもしれないけど、互いに協力しながら頑張っていこう」
これまでの二人と違って、爽やかな物腰で俺に自己紹介をしてくる鰹陀 新太郎。
……良かった。
どうやら、ここにいるのは変人ばかりじゃなくて、ちゃんと鰹陀のようにマトモな奴もいるらしい。
俺は「あぁ、よろしくな……!!」と言いながら、鰹陀が差し出した右手としっかり握手する。
「あ、あの!もう知っている人もいるけど、私は菊池 カスミ!!覚醒したのは“お雛様”の能力だけど、まだ何が出来るのか全然分かってないわけで……だけど!自分に出来る事を一生懸命やっていくので、よろしくお願いします!!」
それは俺個人というよりも、この場にいる全員に向けた挨拶だったようだ。
どうやら、他のメンバーと違って、菊池は緊張し過ぎたのかまだ自己紹介を済ませていなかったらしい。
「あぁ、俺も何したら良いのか全然分かってないけど……とりあえず、よろしくな」
鰹陀同様に、改めて菊池にそう告げる俺。
それを皮切りに、他のメンバーも菊池へと答える。
「ハロハロ~♪これからヨッス、ヨッス!な感じで仲深めちゃおう!カスミン♪」
「ハハハッ……それじゃあ、よろしくね菊池さん」
「何かあったらワイに任しときぃ!!なんせワイは、天下の尾田山 岳人やからの!」
「みんな……ありがとう!!」
最初はどうなるかと思ったが、やり取りを見るに少なくとも人間関係に関しては、全員特に問題はなさそうだ。
「あ、いや……雛人形と同じ数だけ、"トリニティ因子"に覚醒めた人間が出現するのなら、まだここに集まっている俺達以外にもメンバーがいるはずなんだな……」
そう一人ごちる俺。
現在まだここにいない位階は、"官女"が二人と“五人囃子”が四人。あとは、尾田山みたいなその他の位階が四人で、計十人の俺達みたいな能力者がここに来る……という事になる。
そう考えていた――そのときだった。
「――いや、残念ながらこれ以上メンバーが増える事はない。……"トリニティ因子"適応者は、この本部にいるお前達だけだ」
突如として、厳格な声が会議室内に響き渡る――!!