〜〜はじまりの7時間〜〜
運命の悪戯なのか、あるいはそれすらも最初からこの世界に仕組まれていた必然だったのか。
いずれにせよ、その異変はあまりにも突然だった。
――令和三年三月三日。
この三つの数字が揃った瞬間、それまで完全とは言えなくとも繁栄と安寧を享受していた現代社会は、有史以来初の脅威に遭遇する事となる。
――現代人の淀んだ感情を取り込んで復活を遂げた、異世界の悪しき大魔王:イビル・コンニャク。
――何の兆候もなく、常に世界の半数の人間の価値観を強制的に塗り替え続け、人々に終わりなき不和と諍いをもたらす認識汚染現象:アルクラ。
――人間を奴隷にするために社会に反旗を翻した、コントロール不能のブラック企業:デスマリンチ。
どれか一つが出現しただけでも、現代社会を滅ぼしかねない脅威。
しかも、それらがまるで示し合わせたかのように、三つともほぼ同時に出現しその猛威を人々へと振るっていく――!!
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?助けてくれッ!?……お、俺の腸内が、激しくこんにゃくを求めてやがるッ!?なんぞ、これぇ~~~!!」
「……おしまいだおしまいだおしまいだ。もう私達はとっくの昔に、邪竜の腹の中。……私は正常だけど、他はみんなみ~んな、全て異常。……こんな狂った場所から、一秒でも早く抜け出すためには、周囲の者達を■して、■して、暴れまわって、私を異物として奴の中から吐き出させないと……ッ!!」
「ヒ、ヒィ~~~!?ブラック企業様に強制的に組み込まれるの、とっても、とっても気持ちイイですぅ~~~♡」
イビル・コンニャクの圧倒的な腸内洗浄力と低カロリー、並びに数多の健康効果。
アルクラによる強制認識汚染と、それに飲み込まれる事への反発や恐怖によって引き起こされる暴動。
そして、デスマリンチによる人間狩りと、そこからの過酷な労働力と賃金の搾取……。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図としか言いようのない光景が、際限なく繰り広げられていく。
人知が及ばないこれらの凄まじい脅威を前に、人間社会は僅か半日にして存亡の危機を迎えようとしていた――。