表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

最後の決闘

 エミルは素直にイクトミに場を譲り、元通り木箱の陰に隠れる。

「あら」

 と、そこにアーサー老人が立っていることに気付き、肩をすくめた。

「あなたの入れ知恵かしら?」

「うむ。元々、大閣下の経歴と西海岸の町とを比較し、周辺地域で何かあれば恐らく、奴はここを緊急時の脱出路に使うだろうと踏んでいた。そして一週間前、突然西部のあちこちで電信電話網が途絶した。何かがあった、いや、君たちが何かしたと見て、我々も駆け付けたと言うわけだ」

「流石ね」

「ところでエミル君」

 アーサー老人はいまだ係船柱に座ったままの大閣下をチラ、と見て、エミルに向き直った。

「君は何故いきなり、ジョルジオ・リゴーニを撃った?」

「顔がムカついたからよ」

「その冗談はさっぱり面白くないな」

 ばっさり言い切られ、エミルは肩をすくめた。

「じゃ、真面目に説明するわ。話と見た目からあいつが『鉄麦』って言うのは分かったし、あいつ一人でボーッとしてたから始末したのよ」

「法の裁きに委ねようとは思わなかったのかね?」

「あなた、あいつの裁判記録知らないの? あなたなら調べてると思ってたけど」

「……ふっ」

 アーサー老人はニヤっと笑い、小さくうなずいた。

「なるほど。確かに過去3回の裁判では、いずれも不起訴だったな。相当な額の裏金を撒いたのだろう。それこそ奴の下品に肥え太った顔を見れば分かる」

「ここで4度目の逮捕ってなっても、またカネ撒いて逃げるだけよ。それなら裁判所じゃなく、天国の門で取り調べてもらった方が手っ取り早いわ」

「……まあ、不問にしておこうか。私は法の番人では無いからな」

「どうも」


 一方――イクトミとトリスタンは、静かににらみ合っていた。

「……」

「……」

 まだ陽の光は差しては来ないものの、空気は既に温まり始めているらしい。港に強い風が吹き込み、二人の間を通り抜けて行く。

「アレーニェ」

 と、トリスタンが口を開く。

「今更貴様と話すことなど、何も無い。お前もそうだろう?」

「ああ。こうして静かに対峙していても、無駄なだけだ」

「では、さっさと来い。このまま見つめ合っていたとて、何の意味も無い」

「君から来い」

「フン」

 短い会話を終えるが、依然として二人とも動かない。物陰で様子を眺めていたロバートが、アデルに耳打ちする。

「なんで撃たないんスかね?」

「撃てばその反動で、どうやったって隙ができる。それにどっちともタマ避けられるような、バケモノじみた運動神経持ってるからな。だから1発目を避けて、相手の隙を突いてズドン。それを狙ってんだろうよ、どっちも」

「はぇ~……」

 と――港のどこかに巣があったらしく、カモメの鳴き声が辺りに響く。瞬間、二人はその場から弾かれるように動き出した。

「死ね、アレーニェ!」

「死ぬのはお前だ、トリスタン!」

 ほとんど同時に、両者は弾丸を放つ。イクトミが放った弾はトリスタンのほおに筋を引き、一方、トリスタンの弾はイクトミの肩をかすめる。

「うっ……」

「ぐぬ……」

 どちらも流れる血に構わず、二発目を放つ。ばぢぃっ、とけたたましい金属音が鳴り、アデルは息を呑んだ。

(うっそだろ……弾と弾が当たったのかよ、今の!?)

 だが、トリスタンの放った11ミリMAS弾より、イクトミの45口径ロングコルト弾の方がわずかに威力が大きかったらしく、ぐちゃぐちゃに融合した弾はトリスタンの方へと飛んで行った。

「うおお……っ!」

 とっさにかわしたトリスタンの、左のホルスターが落ちる。イクトミの撃った3発目が、ベルトをかすめたのだ。

「う、ぬっ」

 ホルスターがトリスタンの太ももに絡まり、トリスタンは体勢を崩す。それを好機と見たらしく、イクトミは腰だめに拳銃を構え、もう1発撃ち込んだ。

「お……ふっ……」

 トリスタンがひざを着く。

(やった……か!?)

 アデルは勝利を確信したが――次の瞬間、イクトミのシルクハットがばしっと音を立てて飛び、その下にいた彼も弾かれるように、仰向けに倒れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ