表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

ミズ・キャリコ

 キャリコ農場に到着したエミルたちの前に、カウボーイ風の男が現れた。

「ミズ・キャリコがあんたらを待ってる。案内するよ」

「ええ、ありがと。……ところであんた」

 そそくさと背を向けかけた男に、エミルが声をかける。

「前に会ったことがあるわね?」

「気のせいだろ? ……と言いたいところだが、ごまかすのは無理っぽいな」

 男はそう返し、テンガロンハットを脱ぐ。そこでアデルも、男に既視感を覚えたらしい。

「あれ……? 確かにあんたの顔、見覚えがあるな」

「2年前だからな、あんたらに会ったのは。だが未だに、傷は痛むぜ」

 そう言って、男は両腕の袖をまくる。そこに付いた銃創を見て、エミルが声を上げた。

「ああ、思い出したわ。特務局の不良刑事ね、あんた」

「ずいぶんな言われようだな。だがまあ、その通りさ」

 その男――2年前に黄金銃事件で汚職が発覚した特務捜査局の元捜査官、ジェンソン・マドックは、苦笑いしつつ自分の身の上を語った。

「あんたらにバレた後ムショ行きになったんだが、なんでかミズ・キャリコが保釈金を出してくれたのさ。『世話になった貸しがある』って。どう言う意味か分からんかったし、聞いてもはぐらかされちまったが、1ヶ月前、ミズ・キャリコが『答え』を連れて来たのさ」

「連れて来た?」

 尋ねたアデルに、ジェンソンは右目を手のひらで覆って見せる。

「イクトミだよ。俺があいつのことを色々助けてたからってんで、ムショから出してもらったのさ。……ま、そんなこんなで、俺はミズ・キャリコに雇われて、ここで牛やら豚やらの世話をしてるってわけだ」

「結構なご身分ね」

 ひんやりとした返事に、ジェンソンは苦い顔をした。

「……まあ、怒ってるわな。あん時は空包だったが、実際、あんたらを撃とうとしたわけだからな」

「お返しに両手両足にブチ込んだし、貸し借り無しにしてあげてもいいけど」

「そりゃどうも」

 ジェンソンは小さく頭を下げ、帽子をかぶり直して、一行の案内に戻った。


 牧場の北にある屋敷に着いたところで、ジェンソンは主を呼んだ。

「ミズ・キャリコ! お客を連れて来ました!」

「ありがと、ジェン。もう下がっていいわよ」

 奥から現れたエミルそっくりの女性が、にこ、と一行に笑いかける。

「よく来てくれたわね。ご飯の用意をさせるから、ちょっと待ってて」

「お金持ちなのね。コックもいるのかしら?」

「多少はね。100万ドルをポンと投げたあなたほどじゃないかも知れないけれど。でも家のことはほとんどあたしがやってるわよ。ご飯は『あいつ』が振る舞いたいって言うからさせてるだけ」

「あいつ?」

 尋ねたものの、エミルにはそれが誰であるか、察しは付いていた。彼女もそれに気付いたらしく、こんな風に返して来た。

「言っとくけど、もうあいつのことは、『イクトミ』と呼ばないであげてね。あたしが色々手を回して、新しい戸籍を作ってあげたから」

「何て呼べばいいのかしら? あんたのことは?」

「昔と同じでいいわよ、『フィー』」

 そう言われて、エミルの口から、自然に名前が出た。

「あいつ、……は、そう、『アレーニェ』ってあだ名を嫌ってるから、……そう、……アレンと呼んであげてって、アンジェが。……アンジェって、……誰? 知ってるはず……でも……思い出せない……」

 こめかみに手を当てかけたエミルを見て、彼女はその手をつかむ。

「やっぱり、覚えてないのかしら? でもきっとそれは、ページが古いインクで張り付いてるようなものだと思うわ、あたしは。丁寧に、優しく引っ張ってあげれば、綺麗にはがれるはずよ」

「……」

「あたしのことは、トリーシャと呼んで。さ、もうベーコンの美味しそうな匂いがしてきたし、出来上がる頃よ。あなたとは10年ぶりに話せるもの。

 楽しく、ご飯食べましょう。ゆっくり昔話しながら、ね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ