表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート4月~

たらし

作者: たかさば
掲載日:2020/04/20

忙しく仕事をこなす私の前を、食品担当の植村さんが通りかかる。



「ね、今日の植村さん、ちょっと目が潤んでて…すごく魅力的だけど、ちょっと心配だなあ。」


「え、そうかな?ちょっと疲れてるかも、昨日パソコンがんばっちゃったし。」


「ええ!女の子はがんばりすぎたらだめだよ!疲れが憂いに変わって、かわいさが増しちゃうんだからさ!」


「そんな!かわいくないってば!!」


「そんなこというの?こんなにかわいい顔してるのに。」


「もー!!すぐそういう事言う!!」


「本当のことしか言ってないよ!」


「はいはい。」



なんだか少し、赤い顔をして私の前から去っていく。



「また!そうやってすぐ口説く!!」


「口説いてなんかいないよ。思ったことを言ったまで。」



いきなり因縁をつけてきたのは、経理の和田さん。



「あ、昨日は書類ありがとう。すごく助かったよ。」


「いいえ、どういたしまして!」


「やっぱり、信頼感がぜんぜん違う。さすがだね。」


「そりゃ、何年もやってる仕事ですから。」


「何年もやってるからこそ、手抜きや慣れが出るもんなのに、本当に、すごいよ。」


「そお?」


「そう。和田さんがいるから、この店はまとまってるし、業績も上がっているんだよ。」


「ちょっと!そこまで言うとうそ臭い!」



ぷいと目をそらされて、私の前から去っていく。



「ははは!相変わらずのナンパ、お疲れさん。」


「ナンパって何ですか。」



今度は消耗品担当の桜田さんが、いきなり無礼な物言いをかます。



「すぐ女の子にいい事言ってさ、ナンパだとしか。」


「そんなことないですよ、桜田さんのほうがいつもみんなに頼られてるでしょう。」


「いやいや俺はさ、話しかけやすいってだけで。」


「対人の壁が薄い、垣根が低いって言うのは、それだけで魅力的なんですよ。」


「そうかあ?」


「いきなり声をかけても大丈夫な人が、一番心が落ち着くんですよ、それをあなたは持っている。」


「ほめても何も出んぞ!!」


「ほめる?いやいや事実を述べたまでですよ!」



頭をかきながら、売り場に行ってしまった。



「ちょっと!桜田さんまでたらしこんでんの?!」


「たらしこむって何。真実を告げたらだめなの?」



宝飾品担当の宮崎さんが、私に声をかける。



「いつ聞いても耳障りのいいセリフばっか吐いてんじゃんw」


「そうかな、宮崎さんの方が、勢いある元気な言葉遣いで良いと思うんだけど。」


「またー、そういうとこ!!!」


「活きの良い台詞を聞くとね、テンションって上がるもんだよ。」


「まじかwww」


「小柄なあなたから出たとは思えないほど、パワーが乗っかってるんだよね。」


「ぜんぜん知らんかったわ!!」


「じゃあ、今日から、知っておいてよ。」



どすどすと歩いて向こうに行ってしまった。




インテリアコーナーを、通りかかった。


大きなスタンドミラーには、くたびれた婆が、映っている。



何だ、みっともないな。


もっとしゃっきり背中を伸ばせよ。


もっとすっきり痩せたらどうだ。


もっと綺麗な靴を履けないのか。


もっと清潔感のある髪型にできないのかね。


もっとにこやかに微笑むとかしてみろって。


もっと、もっと、もっと・・・。




恐ろしい話だ、自分に対して良い言葉が微塵も湧いて出てこない。


他人はこんなにもすばらしいというのに、自分は何だ。


にこやかな仲間たちに囲まれて、仕事をしているというのに。



私はただ一人、鏡に背を向け、自分の仕事をするために、売り場へと消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ