表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

病の少年教皇

繊細な美術品のような建物が建ち並ぶ街、教皇領ヴァチカン。

最盛期にはこの世の全てを治める程の栄華を極めておきながら、今では衰退の一途を辿る。

国民はそれを諦めよりどこか冷めた目で見ていた。

近い将来この国は大きく変わるだろう。


その白亜の宮殿の中、白い天蓋に覆われた寝台には細身の少年が横たわっていた。

重い病の為、その身体はやせ細り衰えていた。

そこから続く肩の線は驚く程薄い。


少年の傍らには黒髪の若い女性が控えていた。

背が高く、すらりとした肢体は華奢で、女性本来の丸みに欠けていたがとても美しかった。

女性の肩のラインで切りそろえられた髪がこちらを向いた瞬間、サラリと首の動きに合わせて揺れた。


「聖下……」


少年は現在の教皇だった。

半年ほど前に病気で前教皇を失ってから即位した少年は、未だ公の場に姿を現した事はない。

ただ日に日に衰えていく少年に付き従う女性、ルビアは悲しげに瞳を閉じた。


「もうすぐ…。もうすぐですから。聖下。もうすぐバイロンがあの娘を連れ帰って来ますから」

ルビアの涙混じりの声に眠っていたとばかり思っていた少年がうっすらと目を覚ます。

そして厭々をするように首を振る。


「ルビア…お願い。もう僕を殺して…。僕はもう生きていたくないよ…」

「聖下っ!」

声は思いの外大きかった。

ルビアはハッとして周囲を見回すが、そこに人影は無かった。

ルビアがここにいる間は人払いをしてあるのだ。


「聖下。お願いですからどうかそんな事はおっしゃらないで下さい。あの娘さえ手に入れば聖下はきっと健康を取り戻せます」

すると寝台の上の少年はそっと瞼を伏せる。


「でもルビア…。僕は他人の命を犠牲にしてまで生きていたくない。僕は特別なんかじゃない。ただのシリアだよ。貴女の弟の…」


その言葉にルビアは喉を震わせて嗚咽を漏らす。

「いえ……。決して聖下を死なせはしません。決して」


少年とルビアしかいない部屋は広く、そして冷たい。

それは部屋の温度ではない。彼らを取り巻く空気の温度だ。


そんな部屋で少年はずっと病という名の檻に囚われている。

恐らく死ぬまで…。


「頼むぞ。バイロン卿……」

ルビアの悲痛な声は、声にならないまま幽かな吐息として外に出た。



















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ